映画 「かぞくのくに」 平成24年8月4日公開 ★★★★☆

原作本 「兄 かぞくのくに」 ヤン・ソンホ 小学館 ★★★★★かぞくのくに②



読んで♪観て♪

日本に住むリエ(安藤サクラ)と帰国事業で北朝鮮へ帰った兄ソンホ(井浦新)。

離れて暮らして25年が経ち、ソンホが病気の治療のために日本に帰国することになった。

期間は3か月。

家族や仲間はソンホとの再会を喜ぶ一方、担当医には3か月では治療は不可能と告げられる。

しかし、滞在延長を申請しようとした矢先、本国から「明日帰国するよう」と命令が下り……。

                                        (シネマ・トゥデイ


年前にヨンヒ監督の「ディア・ピョンヤン」を見ました。

彼女の父は朝鮮総連の幹部であり、3人の兄達は帰国事業で少年期に北に渡り、

すでにあちらで家庭をもっています。

日本に住みながらも祖国北朝鮮に絶対的服従する両親を

日本で教育を受けた主人公(ヨンヒ監督)は理解できません。

外では厳しいことを言いながらもステテコ姿ではしゃく父、

貯金はすべて北朝鮮に寄付したり、兄たちに仕送りしてしまう母。

イデオロギーは理解できないながらも、両親に対する家族愛のにじみ出る作品でした。


家庭用ビデオでしゃべりながら撮る、ホントにファミリービデオなんですが、

(ブログ書き始める前だったにもかかわらず)

今でも心に強く残っている映画のひとつです。


今回はドキュメンタリーではなく、初めてのフィクション。

とはいえ、モデルは明らかに監督の家庭ですし、

手持ちカメラによる映像は、他の劇場用映画よりはかなりノンフィクション寄り、だと思います。



ヨンヒ監督の分身であるリエは、日本語教師をする在日二世。

同胞協会の幹部の父と喫茶店を経営する母と足立区千住龍田町15に住んでいます。

(ディア・ピョンヤンでは確か大阪市生田区でしたけど、同じような人情味あふれる下町です)

25年ぶりに病気治療のために特別許可で日本に一時帰国してきた兄ソンホ。

喜びに沸く家族ですが、ソンホにはずっと公安の監視がつき、自由な行動はNG。

「16歳のときに地上の楽園に行ったはずが栄養失調だなんて・・・」

「やせ細ったオッパの写真見てオモニは泣いていたのよ」

「でも家族がそろうっていいわよね」


5年前にわかった脳腫瘍を治療するために帰国許可が下りるまで5年かかり、

(そのためにかなりの寄付をしたらしい)そして帰国できるのはわずか3ヶ月。


もちろんそんな期間では病院でも手術を引き受けてはくれず、

放置すれば、麻痺・記憶障害・痴呆・あるいは命にかかわることも・・

「私がかわれるものなら・・」と泣き崩れる母。


諦めきれない家族がなんとかしようと奔走しているうちに、なんと

「突然の帰国命令」・・・・!!


「よくあるんだよ、こういうの」

とこともなげにいうソンホ。


「決定は常にあの国では絶対」

「あの国に理由なんて何の意味もない」

「考えずにただ従うだけだ、考えると頭おかしくなる」

「考えるとしたらどう生き抜くか、だけ」

「あとは思考停止。楽だぞ~!思考停止」


そして、命令どおり、ソンホは治療も受けられないまま、北朝鮮へ帰って行きます。


これだけ。

これで終わり。

隠された理由とか裏事情とか、そういうの全くないのがあの国の現実なのです。


北朝鮮の理不尽さを訴えながらも、実際に立ち上がって行動を起こしてほしい、というような

アジテート映画ではけっしてありません。

ただ淡々と家族の悲しみを描き、これを観た人が、

今まで考えもしなかった自分の置かれている境遇の「自由さ」に感謝し・・・

「自由に生きろ!お前の人生だぞ」

というソンホの台詞は、リエだけでなく、私たちに向けられたものであることに気付きます。


突然の帰国命令が出たとき、父は苦しみ、妹は怒り、そして母は・・・・

貯めたへそくりの小銭をもって家を出て行きます。

彼女はなんと、監視役のヤンに新しいスーツと靴とバッグをあつらえるのです。


「遠い日本の母は、病気の息子になにもしてやれません」

「できるのは祖国を信じることだけ」

「ソンホをお願いします」


母を演じるのは、やさしい母をやらせたら日本一の宮崎美子。

ARATA改め井浦新、安藤サクラと、共感度高いキャストに、

ヤンには「息もできない」の名優ヤン・イクチュン。

観客を限定することなく、たくさんの日本人に見てほしい気持ちが伝わります。

大人に限らず、中高生にもぜひにとオススメしたい作品です。


原作本「兄 かぞくのくに」は、ノベライズではなく、ヤン・ヨンヒ監督の家族を書いた

ノンフィクションのようです。

こちらも近いうちにチェックしておきます。