映画 「一命」 平成23年10月15日公開  ★★★☆☆

原作本 「異聞浪人記」 滝口康彦 光風社出版

      「一命」 所蔵  講談社文庫  ★★★★★→ 一命②



読んで♪観て♪


元芸州広島・福島家家臣の浪人、津雲半四郎(市川海老蔵)と千々岩求女(瑛太)。

彼らは、各々の事情で生活が困窮していながらも、自分が愛する人との生活を願い、

武家社会に立ち向かっていく。            (シネマ・トゥデイ)



丸ピカ1での完成披露試写会に行ってきました。

事前に座席指定席と引き換えるのですが、

開演2時間半前に行って、2名並びの席が最後の1組だったから

ホントにみんな早くから行っていたのですね。

立ち見も多かったし、招待状を持っていても入場できなかった人たち

たくさんいたのではないかと思います。


プレミア試写会は私なんかがそうそう行けるものじゃないんですが、

生の三池監督は何回か見たような気がします。

クドカンの「ゼブラーマン」もそうだったし、記憶に新しいのは

ちょうど一年前の「十三人の刺客」


これ、けっして私の好みではなかったんですが、

マカロニウエスタンみたいなチャンバラ劇。

立ち回りの迫力には度肝を抜かれました。


「十三人の刺客」が「動」なら、「一命」は「静」かな?

けっして血が流れないというわけではなく、結構キツイシーンもありますが、

話のテンポが緩い分、じっくりと向かい合って想いを馳せる余白部分があったように思います。


とにかく、「切腹」がメイン!今どき切腹する日本人なんて三島由紀夫以来皆無ですが。

海外では日本人イコール「ハラキリ」と思われていても

「切腹の美学」なんて日本人の日常からは消えていますが、

時代劇の中だけでは、最後に誰かが腹を切って責任とって

すっきりハッピーエンドみたいな法則が残っているような。

監督は違いますが、去年の「最後の忠臣蔵」。

これも、役所広司の最期が、いかにもサムライ!


哀しみも含めた形の大団円にもっていく「最終兵器」が切腹だとおもっていたんですが、

この作品は何と「切腹」から始まります。

それも(詳細はいいませんが)かつて見たこと無いような強烈な切腹。


「お願いの儀があって参った。お取り次ぎ願いたい」

井伊家の門をたたく痩せこけた浪人。

生活に困窮し、もう生きておれないので、せめてこの腹かっさばくのに

ご当家の玄関先を借りたい、と。


関ヶ原から30年後たって、徳川の安泰の世の中、

戦がなくなったのはいいけれど、職業軍人である武士たちは職を失い、

仕官を解かれた浪人は俸禄もなく、長屋で傘張り浪人の生活。

ただ苗字帯刀は許されているので、赤貧の生活でもプライドはもっている、という

「武士は食わねど高楊枝」の状態でした。


そこで生まれたのが「狂言切腹」

これが「姑息な貧乏浪士のはやり病のように」世間に広まり・・・

さて、こういった浪士の訪問を受けた大名家家老(これが役所広司)は

どう答えるか?


①その潔さに感服し、召し抱える。

②切腹されたらかなわないから、金子(きんす)を与えて追い返す。

③見届けると言って言う通りに切腹させる。


その、食いつめ浪人のほうが海老蔵と娘婿の瑛太なんです。

娘の満島ひかりと孫の4人家族は、貧乏だけれと愛と思いやりにあふれた

理想の家族なんですが、それにしてもお金がない。病気になっても何もしてやれない。

いよいよ思いあまって・・・



公開前なので、ここまでにしておきますが、

(勘のいい人はこれですべてわかってしまったかな?)


市川海老蔵はなんと「おじいちゃん役」です。

たぶん半四郎も40歳くらいなんでしょうが、

最近パパになったばかりの海老蔵のおじいちゃんぶりは見事です。

いやいや、褒めるところはここじゃなくて、

武士らしい所作とか、長回しの殺陣シーンとか、

声を張らなくても直球で胸に染みいる重厚なセリフ回しとか・・・

酔っぱらって暴れようが、女性関係派手だろうが

上手いものは上手い!

数年前に観た「出口のない海」、こちらでは太平洋戦争中の回天の乗務員でしたが、

彼の映画出演はホントに少ないですよね。

さすが成田屋、日本の宝です。もっと映画にも出て欲しいな。


「男なら命をかけて家族を守れ」ってのが声高らかなメッセージだと思うんですが、

かといって、「武士の意地」「武士の気概」も失えない。

板挟みになった「痩せ我慢の美学」が、それを失いつつある現代人や

日本好きの外国人の皆さんの美意識を刺激するんじゃないかと思います。


幸せなシーンはほんとにちょっとなんですが、

ちょっとだからこそ、きらきら輝いて心にのこるんですね。



「二人で食べたほうがうまいであろう」

といってお饅頭をわけあうシーン、

井伊家でだされた茶菓子をそのまま持ち帰る優しさ・・・

しばらくは和菓子を見るだけで泣いてしまいそうです。


家老の座る座布団に寝そべる猫、

ちょっと押したらバラバラになってしまう自慢の「赤備え(あかぞなえ)」

といった一瞬のショットも効果的。


日本人にはあまりにわかりやすい話なんですけど、

視野にいれているのはむしろ「世界」かな?

と思わせる場面が多かったように思います。

カンヌで高評価だったのも納得。


ただ時代劇初、という3Dは必要だったのでしょうか?

ほとんどが太秦の狭いセットのなかでの撮影だったみたいですし、

飛び出してくるのは「木の枝」と「雪」と「題字」くらい。

メガネをかけていると、ただでさえ暗い画面がさらに暗くみえ、

けっこう外して観ている人(私も!)多かったように思います。

むしろ3Dにするなら「十三人の刺客」のほうじゃないかな?


この映画のオリジナルは50年前の映画「切腹」

本作も内容はまさに「ザ・ハラキリ」なんですが、観終わって時間がたつにつれ、

残虐な痛い痛いシーンより、幸せだったときの笑顔のシーンが心に残っているんです。

書き忘れましたが、海老蔵以外のキャストも全員良かった。

三池組の連帯感を感じました。


「十三人の刺客」とぜひセットでみることをお勧めします。



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