映画 「桜田門外ノ変」 平成22年10月16日公開  ★★★☆☆

原作本 「桜田門外ノ変 (上・下)」 吉村昭  新潮文庫

 


読んで♪観て♪

 

大老襲撃は3月3日に決まり、鉄之介を始めとする水戸脱藩士17名と、

薩摩藩士・有村次左衛門(坂東巳之助)を加えた襲撃実行部隊18名が集結。

そこで計画の立案者で水戸藩尊王攘夷派の指導者・金子孫二郎(柄本明)から、

鉄之介は部隊の指揮を執るよう言い渡される。

襲撃当日。

品川愛宕山へと集結した鉄之介たちは襲撃地点である桜田門へと向かい、

襲撃者の一人が大老の行列に直訴状を差し出す振りをして、行列に斬りかかる。

同時に仲間が発砲した短銃の発射音を合図に、斬り合いが始まり、

やがて有村が大老の駕篭へ到達、井伊の首を刎ねた。

襲撃隊は稲田重蔵(田中要次)が闘死、4人が自刃、8人が自首。

その成功を見届けた鉄之介は、京都へと向かう。

計画では大老襲撃は序曲に過ぎず、同時に薩摩藩が挙兵をして京都を制圧、

朝廷を幕府から守るはずであった。

だが薩摩藩内で挙兵慎重論が持ち上がり、計画は瓦解する。

幕府側からは勿論、かつての同胞・水戸藩士からも追われる立場となった鉄之介は、

“桜田門外ノ変"に至る歳月を思い返していく……。

安政元年(1854年)のペリー来航以来、鎖国の門戸を開こうとする井伊直弼ら徳川幕府の譜代大名たち。

それに異を唱えて尊王攘夷論を押し出した水戸藩主・徳川斉昭(北大路欣也)が対立。

やがて井伊が大老に就任したことから、斉昭の一派は失脚。

井伊はさらに斉昭に賛同した各藩の藩士、公家を弾圧する“安政の大獄"に手を染めていく。

この暴挙を食い止めるため、鉄之介たちは立ち上がったのだったが……。(GOO映画)



 

だれでもご存知の史実をもとにした作品なので、

勘違いのないように、長めのあらすじを引用してみました。

 

「13人の刺客」みたいなド派手な映画のあとでは

どんな壮絶なちゃんばらをしても影がうすくなってしまうのですが、

この映画もなかなかどうしてすごかったです。

 

まず、江戸時代の桜田門を、忠実に再現した・・・・

これ、CGjかと思ったら、

なんでも茨城県の千波湖畔に広大なセットを組んだらしい!

それだけでもスゴイです。

現在の映像と重ね合わせてもすこしも矛盾のない再現になっています。

現在の桜田門、といったら、カメラを反転させて

警視庁の絵をいれるのが普通だと思うのですが、

カメラは右に大きくパンして、

国会議事堂を映し出す、というシーンが2回ありました。

 

なんかね、黒船襲来後の当時と同じく、

国政トップの人間の才覚を示すときなのに、

いまの政治は大丈夫なのかい?

みたいなメッセージを感じてしまいました。

 

井伊大老の屋敷はのちの参謀本部、現在の尾崎記念会館の場所ですから、

議事堂よりずっと手前、門の位置がわからないからメートル表記は難しいですが、

わずか「ワンブロック」です。

こんな短い道中にお伴をたくさんひきつれてるのに暗殺されるなんて、

実際に歩いてみてびっくりした記憶があります。

 

(以下、ネタバレあり)

 

私は原作未読ですし、予備知識なしで観ました。

大沢たかおが誰の役をやるのかも知らず、

たったひとり私が名前だけ知ってる金子孫二郎かと思ってたら

それは柄本明がやっていました。

襲撃の「現場責任者」であった関鉄之介という水戸藩士が大沢たかおで、

彼の目から1860年という時代をみせてくれる作品になっていました。

 

桜田門外の変は水戸浪士からすれば「成功」なわけですから、

最後に大老を襲撃して首をとって、終わるのかとおもったら、

この短時間の襲撃事件は前半で終り、

手柄を挙げた、はずの彼らが

「脱藩すれば藩に迷惑はかからない」なんて甘くて

幕府からはもちろん、水戸藩からも追われ、

援軍をおくってくれるはずの薩摩藩からも見放され・・・・・

というストーリー・・・というより史実です。、

昔日本史でやったことを少しずつ思い出しました。

 

井伊直弼って、いつもきまって悪人キャラなのは

安政の大獄で皆(私も)の好きな吉田松陰や橋本左内を死刑にしたから

なのでしょうが、じゃああの時点で要求をつき返して戦争になるのかよかったのか??

 

キャストも、いかにも悪人顔の伊武雅刀だったので、

桜田門外の変で殺されて「ざまみろ!」みたいな偏った作品でなくて、

ちょっとホッとしました。

 

「伴まわりの数は公儀できめられておる」

浪士たちの不穏な動きをキャッチして直弼の安全を心配する家臣に

動じずにいう彼のセリフ。ちょっとカッコいいです。

 

事件の日は3月3日の雪の日。というのは有名ですが、

その雪を真っ赤に染める惨劇、というのを

リアルに再現してくれました。

「13人の刺客」みたいな、50分間斬りっぱなしという

派手さはないですが、音楽も控えめに、

引きの長回しの映像。

このごまかしようのない絵は、短時間でしたが、

「13人・・」にも匹敵すると思いました。

「爽快感」はちょっともないので、これ以上長時間みせられても

逆にストレスたまりそう・・・

それにしても

「首をとる」というのは、どんな理屈をつけても、

やっぱり野蛮な行為だなぁ~

 

「桜田門外の変」を冒頭にもってくるため

それ以前の黒船来航や、和親条約の締結などは

フラッシュバックしながら挿入されるのですが、

いちいちテロップを出してくれるので、かなり分かりやすいです。

比較的中立の立場で描いているので、

日本史学習中の中高生の子たちにとっても

私みたいに学んだことをすっかり忘れてしまっている

中高年にとっても「ためになる」映画でした。

 

印象に残ったセリフを覚えている範囲で・・・・

 

「母上、泣いてはなりませぬ。

父上はお考えあってのこと」

父、関鉄之介が事件を起こして行方知れずになり、

家屋敷も取り調べられ酷い目にあっているのに、

幼い息子(加藤清史郎クン)が母に健気にいうことば。

 

(自刃のために座敷貸して下さいといわれ)

「遠慮なくお使い下され」

捕らえられて斬首される不名誉より

自ら死にたい、せめて座敷で死にたいという思いは

私なんかには理解できないけれど、

それを一瞬で悟って自宅の座敷を死に場所に提供できるのって、

なんかカッコいいです。(もち、座敷は流血で大変なことに・・)

 

「命かけておかくまいいたします。

死んではなりませぬ。

天下国家のため、必ずお役にたつ日が来る」

これは、最後まで関をかくまってくれた

袋田の庄屋のことば。

本田博太郎はいつもベタな悪人役ばっかりだったのですが、

今回は素敵な役だったなぁ。

実際、ヒーローとお尋ね者は紙一重だから、

時代の流れがちょっと変われば、

関の運命は大きくかわったことでしょう。

 

実際、榎本武揚のように、戊辰戦争で負けて捕らえられても

その才能がかわれて、明治政府の高官になった人物もいますし・・・

関のその後については、ノーコメントで。

映画をごらんください。

 

桜田門外の変から今年で満150年。

 

当時「天下国家のため」に命をかけた人たちが

今を見たら、どう思うんでしょう?

領土問題で争う国の言い分とか、

獄中の人がノーベル賞とっちゃう矛盾とか、

感情だけに押し流されないで大局的な見方が

できるようになりたいと思いつつ。