映画 「空気人形」 平成21年9月26日公開  ★★★★☆
原作コミック 「ゴーダ哲学堂 空気人形」 業田良家 小学館 


読んで♪観て♪

古びたアパートで持ち主の秀雄と暮らす空気人形は、
ある朝、本来は持ってはいけない「心」を持ってしまう。
彼女は秀雄が仕事に出かけるといそいそと身支度を整え、一人で街へと歩き出す。
メイド服を着て、おぼつかない足取りで街に出た彼女は、
いろいろな人に出会っていく。
ある日、レンタルビデオ店で働く純一と知り合い、そこでアルバイトをすることになる。
ひそかに純一に思いを寄せる彼女だったが……。  (映画生活)

心を持った人形のはなし。
「おとぎばなし」では、とてもスタンダードなこの設定も、
人形が性欲処理のためのラブドールであること、
そして、舞台は現代の東京下町。
アニメでなく、俳優たちの「演技」で
一般の映画館で公開されること。

それを聞いてとても興味を持っていたのですが、今まで観る機会がありませんでした。
ただでさえ少ない上映館の上映終了も決まり、
大雨のなか、駆け込みでようやく観られました。

「ラースとその彼女」にもラブドールを慈しむ独身男性が登場しましたが、
あちらは、本物とみまごう高級リアルドール。
しかも最後まで人形のままでしたから、
単なる「お人形ごっこ」のぼんやりしたほのぼの系ドラマでした。

空気人形、のぞみは、空気を入れてふくらませる
5980円の大量生産の安物のラブドールです。
これを生身の女優さんが演じるなんて、
考えただけでムリムリなのですが、
ペ・ドゥナという「本物の人形」そっくりの奇跡の容姿をもった
女優さんによって、このムリムリな実写映画が実現してしまいました。

とはいえ、空気人形が家をでて、街を歩き、アルバイトをはじめ、
恋をして・・・・というのを、すんなり受け入れられるかは、
こちらの想像力とか、おとぎ話を受け止められる柔らかい心、
とかを試されているような気がして・・・・

主人公は人形なのだけれど、
この世の中に沢山いる、空虚な心を埋めきれないでいる生身の人間たち。
ゴミ屋敷に住む過食症の女、
呼吸器を手放せない老人、
「おまえの代わりはいくらでもいる」といわれるのぞみの持ち主、
交番通いが楽しみの老女、
職場に居づらくなったベテランOL,
そして「僕の体も空っぽ。同じようなものさ」という純一。

他人とのかかわりの中で自分の存在が確認できず、
うつうつと毎日をくらしている私たち自身が主役だと思ったのですが・・・

テーマ自体はすごく難解な映画とは思えないのですが、
あえて映像で表現するのが難しいところを狙っているのが
チャレンジャブルというか・・・凄いな、と思いました。

ただ、この映画、家族とか友人とか、誰かを誘って行くのは
オススメできません。
ラブドール(というか、ダッチワイフですね)としても
実際に「使用」するところは、一番気まずいし、
観終わって、あそこはどうだったとかも、
あんまり語りあいたくない感じです。

一人で観に行って、あまり小難しいことを考えずに
不思議な世界に浸ってこられたらいいと思います。

摩天楼のような超高層ビルの遠景と、
櫛の歯が抜けたような空き地や駐車場のある景色。
月島あたりでしょうか・・・?
バブルがはじけて地上げがとまってしまったころは
珍しくない風景ですが、
この映画のなかで、このタイミングでだされると、
とても切なくて、心の中を寒い風が通りすぎていきました。