映画 「悲しみが乾くまで」 平成20年3月29日公開 ★★★★★

原作 なし




オードリーは、夫と二人の子供たちに囲まれ、平凡だが幸せな日々を送っていた。

しかし、事件に巻き込まれた夫が射殺される。

愛する人を失った悲しみから立ち直れなかったオードリーは、

夫の幼馴染みで親友のジェリーを思い出す。

彼は弁護士だったが、今はドラッグで堕落していた。

オードリーはそんな彼を好きではなかったが、自分と同じように夫を深く理解し、

愛していてくれたことを知り、親近感を持ち始める。

オードリーは、それぞれが立ち直るため、共同生活をしようと

提案する・・・・・ (映画生活)



不幸な事件で夫を失った女性が悲しみから立ち直るまで・・・・」という

ありがちな設定で、観るまではあまり期待しなかったのですが、

すばらしい脚本と演出、それに主演の2人の演技もよかったです。


冒頭の生前の夫と子どもの会話につづいて

(夫の死後にきりかわり)

ベッドにふせる祖母の傍らに妻オードリーと子どもたち。

「息子を失うのは、父親を失うのよりずっとつらいのよ」と子どもたちに言い、

そして葬儀の手配をし、段取りをこなしていくオードリー。

そしてその「段取り」の過程で、夫の親友ジェリーのことを思い出し、

彼のアパートに、弟を迎えにやるのです。


オードリーは終始冷静で、だからこそジェリーのことも思い出す余裕もあったのですが、

葬儀の間中はずっと気丈にふるまっていて、「泣かせる」演出もなしです。

電話もない雑然としたジェリーの住まいや、ぶかぶかのスーツから、彼の落ちぶれた暮らしぶりがわかり、

また、生前の夫とのエピソードがたびたび挿入されて、

損得抜きの二人の堅い友情、それを快く思っていなかったオードリーの胸のうちなどが

徐々に知らされていきます。

そして、ジェリーがドラッグ中毒でからなかなか立ち直れずにいること。

子どもたちはジェリーに心を許しており、思ったほど悪い男ではなさそうなこど、などなど。


あまり面識のない夫の親友(男性)というのは、妻にとっては微妙な存在です。

家族ぐるみのつきあいとかがあれば問題ないのですが、

麻薬患者でろくでもない暮らしをしており、夫はどうやらお金の援助もしているらしい・・・・

なんている「親友」には、さらに冷ややかになってしまいます。

ジェリーを葬儀に読んだのは、「夫は絶対にそれを望んでいる」という確証があり、

それができるのは妻の自分しかない、と思ったから。

日本の葬式でも「喪主」とかになってしまうと、お仕事がいろいろあって、

気が張っているから、悲しい気持ちはどこかに封印されてしまう・・・・のですね。


生前、車の中のお金が少なくなっているのを、「ジェリーが盗んだにちがいない」

と思わせることを夫にどなってしまったオードリー。

夫の死後、車の床に落ちているのを見つけたときの驚きと後悔。

家の中にまだ沢山のこっている夫のにおい。

今まで夫に全部頼りきっていた電気の配線とか修理とか・・・・

葬儀も埋葬も終わってから、オードリーを深い悲しみがたてつづけに襲います。


こういう経験はしたことはないですが、ぜったいに自分もオードリーと同じだと思うので、

もう、スクリーンの向こう側の出来事とは思えませんでした。


同居を申しいれ、ジェリーが離れに移り住んでからも、食事などの世話をしてはいるものの、

実はジェリーを利用している自分を自覚して、夫のいない心の隙間をうめようとするオードリー。

はた目にはこの二人の関係は、愛がめばえても不思議ではないのですが、

(麻薬はなかなか辞められないくせに) 必死で節度を保って、オードリーの役にたとうとする

ジェリーがいじらしいです。

子どもたちとの関係も良かったのに、逆に母親のオードリーより子どもたちのことを

良く理解していることが逆鱗に触れ、彼は追い出されてしまうのです。


うーん、わかります!

夫のことをよく知っているのは、(多少はむかつくけど)幼なじみならしかたないかな、

と思うけど、夫でさえ果たせなかった「息子が水に潜ること」を成功させたり、

娘が学校をさぼって大好きな映画を見に行っていることをしっていたり・・・

ジェリーが悪くないのはわかるけど、「他人のくせに許せない!」

ですよね。

追い出さないまでも、私でも腹がたって、同居を後悔したと思います。


「あなたが死ぬべきだったのよ」

「なぜ夫なの?」

なんて残酷で非合理なお言葉!

でもそういう気持ちになるのも理解できます。

ジェリーはこれにもぶち切れずにじっと我慢します。


でもでも・・・・・また麻薬にはまり、また更正して・・・・

ジェリーも夫を失った悲しみや後悔から立ち直るまではまだ時間がかかりそうです。


でも accept the good (善は受け入れろ)

失望したり深く考えすぎたりしないで、よい流れはキャッチして、

悪い流れは受け流して、前進あるのみです。


邦題はメロドラマっぽいウエットな題名ですが、

登場人物すべてに共感できる、そして、

心のひだに染みいるヒューマンドラマの名作だと思います。