従業員規模別の雇用と資本金規模別の人件費の実態から漠然と見えてくる、隠しきれない真実
よく漠然として思われているのが中小企業ほど正規より非正規雇用者が多いという印象です。
私自身もよく買い物に行くのでスーパーやコンビニなどでパートやアルバイトの従業員さんと
その募集広告を毎度のように見るのでそんな印象を抱いてしまいます。
はたして俗に言われている、中小零細企業ほど非正規雇用者が多いというのは真実なのでしょうか?
今回は、3月2日に発表されたばかりの総務省労働局の労働力調査(詳細結果)平成18年平均から
従業員規模別の正規雇用者の雇用実態を探って行きます。
また非常に気になる事としてもう一つ、当たり前のように言われているのが大手企業ほど待遇が良いという話です。
財務省法人企業統計から別途作成した1975年からの資本金規模別の人件費の推移も探ってみました。
アバウトな印象でしか大手は待遇がいい、中小零細は厳しいとしか理解していないため
大手や中小零細の待遇の差が数値で表わした場合、具体的にどのくらい差があるのかは
私も含めて知らない方が多いと思います。
(そう言えば、そのような数値はなぜか既存メディアでは余り見た覚えがありません。)
①のグラフは従業員規模別の正規雇用者と非正規雇用者を比率で分けたグラフ、
②のグラフは従業員規模別の正規雇用者と非正規雇用者を数で分けたグラフです。
①から従業員の規模が小さくなればなるほど非正規雇用者の比率が低下していく傾向がはっきりとわかります。
官公は除外するとして、1000人以上の規模の事業所(29.55%)と1~29人の事業所(37.64%)ではわずか8.09%の差しかなく
思ったほど大げさに従業員規模による大きな比率の差は見受けられ無い事がわかります。
②のグラフでその数に注目してみましょう。ここでまずはじめに目がつくのが1~29人の事業所だと思います。
正規の雇用者数が最も多く(863万人)、また非正規の雇用者が最も多い(521万人)というところが際立っています。
正確な事はわかりませんが正規と非正規の大中事業所の比率差は8%しかかわらないので
小規模な事業所だから非正規が多いという印象があるのは
単純にその数が多く、一般に目に付きやすいからという事だけなのかもしれません。
そのほかの従業員規模の事業所では500人~999人の従業員数が正規、非正規ともかなり少ないですが
これは元データの従業員規模の切り分けに問題があるのかもしれません。
今後、いろいろと従業員規模の雇用者数をあわせて見たりしたほうがいいのかもしれません。
たとえば従業員規模を1~29人と30~499人と500人以上と切り分けた場合
30~499人の事業所の正規雇用者数が計1211万人、非正規雇用者数が計620万人と最も大きくなります。
(今回は総務省統計局のデータの従業員規模の切り分けどうりで進めさしていただきます。)
尚、民間ではないので除外していた官公では比率や数、共に非正規が少ない傾向にあるのがわかります。
③~⑥のグラフは①と②をそれぞれ男女で分けた者です。
正確な理由までは今のところつかみきれていませんが、この国の雇用者のあり方は性差によりかなり違うという
統計上の現実があるようなので性別で作成するのはこのブログではもはや必須の事となっています。
もう画像をクリックしなくてもわかると思いますが正規・非正規の比率は男女では著しい違いがあります。
③を見ると男性の非正規雇用者数は従業員規模が大きくなるにつれて少なくなり、
その比率も1000人以上の規模の事業所(22.04%)から1~29人の事業所(13.22%)と非常に小さく
その差も8.82%と男女合わせた比率の①と余り変らないのに対して
⑤の女性はどのような規模の事業所でも軒並み50%を超え、従業員規模の大きい事業所ほど
比率がやや高くなる傾向にあります。
公官も非席雇用者の比率は民間に比べて少ないものの
男性の非正規雇用比率(12.50%)、女性の非正規雇用の比率(39.07%)と女性が非正規の比率を占める事がわかります。
総数を見ても女性の非正規雇用者数は男性に比べてどの事業所でも圧倒的に多く
公官も含めて、全ての事業所で男性の2倍超あります。
⑦は財務省法人企業統計(年次)から企業の一人当たりの平均的な人件費(給与+福利厚生費)を
資本金規模別に切り分けてみた物です。
⑧は⑦の資本金規模1000万未満の企業を1倍として各資本金規模の企業の比較倍率を算出したものです。
以前の記事 で全資本金規模の企業の一人当たりの平均的な人件費を御紹介しましたが
これはそれをさらに細かく資本金別に切り分けたものとなります。
先の①~⑥の総務省統計局のグラフとは従業員規模と資本金規模という点で相違があるので注意してください。
資本金が小さいから小さな会社、資本金が大きいから大きな会社とは必ずしも限りませんが
大きな会社は大きな資本金という事で財務省も法人企業統計で企業規模を切り分けていますの御了承ください。
⑦を見ると1975年から(データが各規模の企業でそろうのはここからなので)2005年にかけて
大きな資本の企業と小さな資本の企業では差がどんどん開いていく事がわかります。
資本金1000万未満の企業は1992年から人件費が横ばいで上昇しなくなり、徐々に低下傾向になるのに対して
そのほかは資本金規模に比例して遅れて低下傾向になります。
⑦を見る限り人件費の抑制は資本金規模の小さな企業から始まった事がわかります。
上下の波はあるものの資本金規模10億以上の企業では人件費は2001年まで上昇してピークをうっています。
この関係を見ると、バブル崩壊後の不景気のしわ寄せで厳しくなった大手の従業員の待遇の上昇を
中小零細の従業員に押し付けてきた構図が頭に浮かび上がります。
本当にそうかどうかはこの資料だけではわかりませんが、個人的にはとても嫌な感じです。
正直言いたくありませんが、これまで見てきたように非正規なっている人たちは女性や高齢者、
そして社会に出たばかりの若年層が多かったようにこの国はより地位の弱きものに負担を押し付ける
ような構造になっている印象がより増してしまい、既存メディアで政府の担当者や
その弁護をするような評論家や解説者が口当たりの良い事をどんなに言おうが
現実社会に対していっそう疑念を抱いてしまいます。
(最近メディアを賑わす、いじめのニュースが頭をよぎりますね。)
⑦に駄目押しをするようですが⑧では大企業と零細の人件費の差が広がっている様子を比較倍率で表しています。
資本金1000万未満の零細と10億円以上の大手では1997年(1.96倍)から2005年(3.06倍)の約30年ほどで
さらにその差が1.1倍も拡大、上昇しており資本金1000万未満の零細と比べると人件費は
1000万-1億や1億-10億の資本金規模の企業も横ばいか、下降傾向にあるのに
比較倍率は資本金10億円以上の大手ではさらに上昇してゆく傾向が見えます。
この⑦と⑧の資料だけではこの状態が何を表しているかはいろいろな見方が出来ますから
何故こうなるかは理由はわかりませんが、またしても不気味な現象ではあります。
出典
財務省HP の法人企業統計 (年次別調査:時系列データ )より検索した各種数値。
算出式:
一人当たり年間従業員給与=年間従業員給与総額/期中平均従業員数
一人当たり年間福利厚生費=年間福利厚生非総額/(期中平均従業員数+期中平均役員数)
一人当たり年間従業員人件費=一人当たり年間従業員給与+一人当たり年間福利厚生費
総務省統計局 の 労働力調査、平成18年平均(詳細結果)