清水義範「大人のための文章教室」 | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。


清水先生の文章教室。
この人の文章は、毎回ふざけてるように見えて、正道を行く安定感がある。


今回の本は、あまり文章を書く機会がない人に、どういうことに気をつけて書けば相手に伝わる文章が書けるか、ということに的を絞った雑談風の文章講座である。
講座自体の面白さが、うまい文章の生きた教材になっているという妙味もある。


今回のはじめの方に「こちらの情報が正しく伝達されることはまず第一の目的だが、それだけではなく、相手に同意、同感させることが文章の二番目の目的である。そして、相手をこちらの希望するように動かすのが、文章の究極の目的なのだ」(P20)と書いてあるのを読んでうなってしまった。
話す時も、書く時も、言いたいことが曇りなく伝わるように、ということに細心の注意を払っていて、それは自分ではできていることなのだろうと思っている。でも、文章を書くことの目的はそこじゃないでしょ?と。自分の意図する方向に相手の心を動かすことでしょ?ということだ。
清水さん、たんたんひょうひょうとしていると思いきや、この人は、人間の生の欲望をしっかりわかっている。そこにこの人の文章の色気のようなものを感じる。


さて。
本編はそのためのノウハウや、どのような心がけをするべきかなどを具体的にレクチャーしている。
単に、技術、だけではなくて「伝えたいことを決め、それが伝わるように書くのが基本中の基本なのである」(P104)と、要所要所でぴしっと締まる。
細かい方法論なんて、たくさんは覚えられないだろうけど、たくさんの方法を聞いたあとで、結局はこういうことなんだ、ということを言われれば、納得できるし、自分の実践にも生かせるというものだろう。


最後に著者は「文章を書くからって、堅くなって構えてしまうことはない。人間は自己表現をすることが好きで、うまくそれができれば気分がいいのである。読み手をちょっと意識して、大いに楽しんで、たくさん書くのが文章の上達法だと私は思っている」(P201-202)と締められている。大いに書くぞ、と思わせられるだけでも、この本は読む甲斐がある。
手元に置いて、何度も確認したいなと思う本であった。