「神々の午睡」上 清水義範 | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。


ジブ教、アルカマ教、サライ教という架空の三大宗教の話。
が、だれがどう見ても、これは、世界三大宗教である、仏教、キリスト教、イスラム教の話である。
上下2巻。上巻は、三大宗教が発生し、信仰組織が確立していったり、腐敗したり、改革したり。
各宗教の発生にしても、当時の文献からの積み上げを確かな土台としながらも、現代の合理的な視点で整理したストーリー展開となっている。
そこで語られる宗教観は、そもそも宗教は人間が作り、人間が発展させていった、非常に人間くさいものである。各宗派ではもしかすると神秘的にとらえているようなことがらも大胆に推論し、実際にはこういうことだったんだろうなあという視点で描かれている。だから読んでいても、そういうことはありうることかもしれない、と、とても説得力がある。人間の行動原理から言えば、むしろ本質をついている。


史実(教典と言われるものに代表される伝承を含めて)と照らし合わせて合っているか間違っているのかというのは、興味のある人が大いに議論すればいい話だと思うけれど、信仰の対象である宗教的権威に対して、勝手なことを言うと怒る人もいるので、これは「架空」の宗教にしなければいけなかったんだろうなあというのはわかった。この本は20年も前の本であり、あまり耳にしたことはないので、どの程度売れたかはわからないけれど、めちゃくちゃ売れてたら、苦情の電話がバンバン入ってきただろうということは想像できる。


架空の宗教なので、名前だけではなく、史実などもだいぶいじられている。おそらく本のテーマは既存の宗教について批判的に語るということではないのだろう。それよりも「宗教ってなんだろうか」という大きなテーマに向かって、著者の自由な文章が冴え渡っている。細かい教義などの、この本を読むにあたってあまり重要でない部分ではギャグが突然挿入されて、本来、緊張した文章が来るべきはずのところに、ふざけた文章が入っていて、その落差に思わず笑ってしまう。
これはやりすぎだな、と声をだして笑ったことも何度かあった。


宗教というアンタッチャブルなテーマを、気さくな、しかもギャグをふんだんに使って食べやすく料理しているのは、清水義範の底知れぬ実力がいかんなく発揮されたといったところだろう。宗教とはいったいなんだろうかというものを自分で一度捉えなければいけないなと思っていた僕の内面をビシビシ刺激していて、笑いながらも自分の中で何かが育っていく感じがわかる。実は内容は、文章の軽快さとは裏腹に、ものすごく深い。


まだ下巻を読んでないので、最終的な評価はできないのだけれど、清水義範の代表作にしていいくらいの名作ではないだろうかと思っている。




神々の午睡〈上〉 (講談社文庫)/講談社
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