「セカンド・ラブ」乾くるみ | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。


「イニシエーション・ラブ」の衝撃ふたたび
という帯にそそのかされて買ってしまった。
前回の「イニシエーション・ラブ」があまりに素晴らしかったので。
著者は、同じく乾くるみ氏。
また、まんまとだまされたくて、他の情報をシャットアウトしてどんどん読む。
意識しないようにしながらも、今回はどんな風にだまされるのか意識して読むけど、今回なんにもないのかな?とも思いながら読む。
男性目線の、男の願望のような恋愛の展開に、今回もまた「別に何もなくてもいいかー」という気分で読みすすめていた。


本を読み終わって。
はい、鳥肌。


以下ネタバレと、もう1回読みたいけど、読まないかもしれないので、そんな自分の備忘録兼感想。(下の方にあります)



セカンド・ラブ (文春文庫)/文藝春秋

¥540
Amazon.co.jp


























(以下:盛大にネタバレ)


この本にはいくつかトリックがある。


春香と美奈子という双子の姉妹が登場するのだけれど、実はこれが双子に扮した1人の女性。
頭からおしりまでずっとこれで引っ張られる。
一人二役でしたっていうオチなのかな?でも、やっぱりちゃんと2人いるのかも?ずっとそんな風に意識させられながら読ませられる。
だから、実は1人でしたって最後に言われても、んー、やっぱりそうかーという感じ。


序章が正明と春香の結婚式ではじまり、そこに至るまでのストーリーが終章に向けて語られていくのだが、終章で明らかになるのは、春香と結婚したのが紀藤という別の男性であるということ。最後の大どんでん返しはいいでしょう。じゃあ、序章のあれはなんだったのかとページを巻き戻してみると、正明が新郎なんて一言も書いていない。うわ、やられた。
しかし、そうすると疑問が一つわく。序章は明らかに正明の目線なのだが、どこの場所からの視点なのかがわからない。序章を読み、終章の最後を読み、序章を読み、終章の最後を読み。終章の最後の2行もわからない。最後の最後の場面も、正明はどこで見てるの?
ギブアップしてネタバレサイトを見たのだけれど、正明はすでに死んでいて、幽霊目線で見ているということらしい。
言われればそうか、と思ったけど、霊魂とか幽霊とか、完全に発想の外だったわ。これはわかりません。


と、いうことで、「セカンド・ラブ」はこれで終了。
なのだったら、もう一度読もうとは思わないのだけれど。
一つ気になったのが、本の中では、美奈子が死に、春香が自分(春香)と美奈子の二役を演じていることになっている。
ところが、序章から「春香――そう、君はそもそも、誰なんだい?本当に『内田春香』なのか?」(P13)「一見、地味で控えめな性格をしているように見える春香が、実はそれとは正反対の、派手好きで我儘な性格を心の内に隠し持っていることを、正明はすでに見抜いていた」(P57)両親のことを指して「『あの人たち、正明くんに質問するばかりで、自分たちのことは何も言ってなかったよね』」(P139)と「あの人?」ということなど、そこからの違和感をあれやこれや思い返すと、春香お嬢様がホステスのミナを演じているのではなくて、ホステスのミナが春香お嬢様を演じているように考えた方がすっきりする。逆にそう考えないと、春香の行動が理解できない。それでは本の中で死んだ美奈子は実は春香で、美奈子が春香と入れ替わって生きている可能性があるのではないか。
どっちがどっちでも、ストーリーそのものには影響はないのだけれど、一人二役の意味合いがまったく変わる。


というようなことを思いながら読み直そうとしたのだけれど、重要なポイントだけ目を追っていくと、どうもその考え方では無理が出てくるように思った。もしかしたら、作者はそういう伏線も用意しようとしたのかもしれないけれど、さすがに実の親まではだませないし、完全に入れ替わるというのは無理がある話しだと思ってやめにしてしまったのかもしれない。
生前から春香と美奈子が面白半分に入れ替わって、その時のためにトレーニングしてたとしても、やっぱり難しいだろうなという気がした。
とりあえず、そういうことなので、再読はしないけれども。
それでも一読の価値があったことに変わりないだろう。
「イニシエーション・ラブ」を読んでわくわくしながらこの本にたどりついた読者の視線をうまくくぐり抜けながらも、やっぱり最後にひっくり返すトリックはさすがだと思った。