大江健三郎さんが『図書』2月号(岩波書店)で私の名前を……(T.T) | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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『絶望名人カフカの人生論』『絶望読書』『絶望図書館』、NHK『絶望名言』などの頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)です。
文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

岩波書店の月刊誌『図書』で、
大江健三郎さんが、
「親密な手紙」というエッセイを連載されています。

その『図書』の2月号が、2月1日に発売されましたが、
今回の「親密な手紙」のタイトルは、
「もぐらが頭を出す」

『図書』2013年2月号目次

この中で、
安部公房ファンのための無料月刊誌『もぐら通信』が、
紹介されています!

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そして、
その記事の中に、
「頭木弘樹」という私の名前も出てきます。

私は、『もぐら通信』の第3号に、
「安部公房、映画に行く」
という原稿を書かせていただきました。
それを大江健三郎さんも読んでくださったということです。

月刊もぐら通信(第3号)

読んでいただけただけでも嬉しいのに、
名前まで書いていただいて、
まさに椅子から転げ落ちるほど驚きました。

といっても、
私の書いたものを評価してくださって、
ということではありません(笑)

このエッセイの中で、大江健三郎さんは、
安部公房との思い出話を語られているのですが、
大江さんにとって特に思い出深い安部公房のエッセイから、
たまたま私が文章を引用していたのです。
なので、
「頭木弘樹氏が私の記憶する部分を引用していられる」
というかたちで、名前を書いてくださったのです。

つまり、まったくの偶然というわけです。

だったら、そんなに喜ぶな、という話ですが、
私にとって、大江健三郎さんは、とても特別です。

大江健三郎さんの小説を初めて読んだのは、
中学生のときで、
『運搬』という短編でした。

あまり有名なほうの短編ではないかもしれません。
でも、いまだに私はこれが大好きです。

あまりにも鮮烈なイメージの奔流に、めくるめくような思いをしました。
「ああ、才能があるとは、こういうことか!」と、まぶしいばかりでした。
当時の私は、将来は作家になりたいなどと、無謀にも夢見ていたのですが、
打ちのめされました。

ムツゴロウさんが、たしか『ムツゴロウの青春記』で、
小説家になろうと思っていたのを、
大江健三郎の作品を読んで、断念した、
と書かれていました。
そういう人はけっこう多いのではないかと思います。

その後、『芽むしり仔撃ち』を読んで、
本当にスゴイと思いました。
あふれんばかりの若々しい才能、
天才とはこういう人かと。

夏休みに『同時代ゲーム』にひたったことも忘れられません。
ソファーに身を沈めながら、夕暮れの中で、
「壊す人」のイメージに圧倒されていたことが、
今もありありと思い出されます。

『「雨の木」を聴く女たち』も好きでした。
武満徹さんの「雨の樹」も聴きました。

『新しい人よ眼ざめよ』を読んだときは、もう大学生でしたが、
ブレイクの詩を初めて知りました。
そして、このように、ひとりの作家をじっくり読みながら、
書くという形式に、とても驚きました。

私が闘病中に、
カフカをいつも傍らにおいて、
それを読みながら生きるようであったのは、
『新しい人よ眼ざめよ』の影響もあったのかもしれません。

じつは一度、東京の神保町の古書店街で、
大江健三郎さんをお見かけしたことがあります。
私があまりにハッとしたので、
大江健三郎さんもちょっとだけこちらをご覧になりました。
お声をおかけしたいと思いましたが、
恐れ多くて、とてもできませんでした。
それでもいい思い出となっています。

そんな大江健三郎さんが、
自分の手で、原稿用紙に、私の名前を書いてくださったのです。
これはどうしたって、もう喜んでしまいます。

宮古島には『図書』が置いてないので、
東京の友達に頼んで、10冊も送ってもらいました(笑)

あらためて、
原稿を書かせてくださった、
「もぐら通信」の編集部の皆様に、
心から感謝している次第です。

なお、
大江健三郎さんが「もぐらが頭を出す」で書かれている、
安部公房とのエピソードは、
とても興味深いものです。真知さんも出てきます。
少なくとも私は初めて知りました。
大江健三郎や安部公房がお好きな方は、
ぜひお読みになるといいと思います。