『変身』誕生秘話のつづき。「判決」→「火夫」→「変身」 | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

「100分de名著」の2回目、面白かったですね!
川島先生の解説も増えて、
1回目よりさらによかったと思います。

やっぱり、フェリーツェとの関係は、
とても興味深いものがあります。

と言っているうちに、
もう3回目の放送の日になってしまいました。

番組とかぶらないように気をつけながら、
『変身』の誕生秘話の続きを、
さらにご紹介していきたいと思います。

さて、前回は、
カフカがフェリーツェと出会って、
彼女に最初の手紙を出した2日後に、
カフカがカフカになったと言われる
短編小説「判決」を一晩で一気に書いて、
カフカには珍しい、
とても感動的で喜びにあふれた日記を書いた、
というところまででした。

後に(『変身』を書いている途中の時期)に、
カフカはフェリーツェに朗読会の招待状を送っています。
「ぼくはあなたの小さな物語を朗読するでしょう」
この「あなた」はもちろんフェリーツェのことで、
「あなたの小さな物語」というのは「判決」のことです。
フェリーツェによって生まれた物語を朗読することが嬉しかったようで、
こんなふうに書いています。
「物語は悲しくやりきれないものです。
 朗読しているぼくの陽気な顔をだれも理解できないでしょう」

さて、
「判決」を書いた翌週にはもう、
今度はカフカは、
長編小説『失踪者(アメリカ)』の第1章の「火夫」を書きます。
これは後に独立した短編としても発表されました。
この短編に関しても、
カフカはその価値をずっと認めていました。
これも珍しいことです。

「火夫」の出だしは、
「女中に誘惑され、
 そのため女中に子供ができてしまったので、
 貧乏な両親にアメリカに送られた十六歳のカール・ロスマンが……」
(千野栄一訳)
というもので、
これまた、とても恋の力が書かれたとは思えないものですが、
確信を持ってどんどん名作を生み出していく姿は、
まさに恋するカフカです。

そのまま引き続き、2カ月の間に、
『失踪者』の5つの章が書き続けられます。
6つ目の章もかなりできてきていました。

しかし、ここで『失踪者』は中断されます。
「1行も書いていない」という日もあります。

でも、これはいつものように書けなくなったからではありません。
それどころか、別の小説のイメージがわきあがってきて、
どうにも抑えがたくなってきたからです。

その別の小説というのが『変身』です。

『変身』は、そういう絶好調の時期に、
他の長編を書いている途中で、
カフカをとらえて離さなくなり、
どうでもこちらを先に書かずにはいられなくなった小説なのです。

その過程がすべて、
フェリーツェへの手紙に綴られています。
次回はそれをご紹介したいと思います。
創作過程が克明にわかって、
とても興味深いですよ。