カフカをめぐる 作家たちの言葉  | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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『絶望名人カフカの人生論』『絶望読書』『絶望図書館』、NHK『絶望名言』などの頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)です。
文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

エリアス・カネッティ…………1905~94 思想家・文学者。小説『眩暈』など。1981年度ノーベル文学賞受賞。
 彼(カフカ)は、もはや断じて追い越すことのできないものを書いた。
 ……この世紀の数少ない偉大な、完成した作品を彼は書いたのである。
     (『もう一つの審判』小松太郎・竹内豊治訳 法政大学出版局)


ミラン・クンデラ…………1929~  小説家。小説『存在の耐えられない軽さ』など。
 そこには現代世界にそそがれる明晰この上ないまなざしと、もっとも自由な想像力とが二つながらあるのです。それより何より、カフカとはひとつの巨大な美的革命そのものです。芸術的奇跡そのものです。……カフカより前には、これほど濃密な想像力は考えられないものでした。
     (『小説の精神』金井裕・浅野敏夫訳 法政大学出版局)


安部公房…………1924~93 小説家。小説『砂の女』など。
 僕のなかでカフカの占める比重は、年々大きくなっていきます。信じられないほど現実を透視した作家です。……カフカはつねに僕をつまずきから救ってくれる水先案内人です。
     (『死に急ぐ鯨たち』新潮社)


ガルシア・マルケス…………1928~  小説家。小説『百年の孤独』など。1982年度ノーベル文学賞受賞。
大江健三郎 安部さんはどんな作家に、本当に興味がある。
安部公房 やっぱりカフカかな。マルケスもカフカから来ていると思う。彼にそういったら喜んでいた。「審判」かなにか読んだら、翌朝目覚めて、私は小説家になっていたって。
     (1990年12月17日朝日新聞夕刊 対談)
 私はもう二十年もまえのガブリエル・ガルシア=マルケスとの会話を思い出す。彼は私にこう言った、「ひとが別様に書くことができると理解させてくれたのはカフカだった」。別様にとは、本当らしさの境界を越えてということだ。それは(ロマン主義者のように)現実世界から逃避するためではなく、現実世界をよりよく把握するためなのである。
     (クンデラ 『裏切られた遺言』西永良成訳 集英社)


中島敦…………1909~42 小説家。小説『山月記』など。※日本で最初にカフカを評価した。
 しかし、何といふ奇妙な小説であらう。
     (「狼疾記」 『中島敦全集2』ちくま文庫)


ボルヘス…………1899~1986 詩人・小説家。小説『伝奇集』など。
 フランツ・カフカという署名のある一篇の寓話は、私には、まだ若い従順な読者であったにもかかわらず、言いようもなく無味乾燥なものに思われた。
 長い年月を隔てたいま、私は敢えて自分の弁解の余地のない文学的鈍感さを白状する。啓示を前にしていながらそのことに気がつかなかったのだから。
     (『バベルの図書館14カフカ』序文 土岐恒二訳 国書刊行会)


ハロルド・ピンター…………1930~2008 劇作家。戯曲『管理人』など。2005年度ノーベル文学賞受賞。
 ベケットとカフカが一番ぼくの心に残りました。……ぼくの世界はいまでもほかの作家たちによって支えられています——それがぼくの最良の部分の一つです。
     (インタビュー 小田島雄志訳 「新劇」)


カミュ…………1913~1960 小説家・劇作家・批評家。小説『異邦人』など。
『審判』は完全に成功した作品だと、ぼくは言える。
     (『シーシュポスの神話』清水徹訳 新潮社)


サルトル…………1905~1980 哲学者・小説家・劇作家。小説『嘔吐』など。
 カフカは模倣できない。彼は永遠の誘惑となって、地平線に残るだろう。
 ……カフカについては、現代の、数少ない、最大の作家の一人であると言うより他に、言うことはなにもない。……彼の世界は幻想的であると同時に厳密に真実である。
     (『シチュアシオン2』佐藤朔訳 人文書院)


ナボコフ…………1899~1977 小説家・詩人。小説『ロリータ』など。
 リルケのような詩人たち、あるいはトマス・マンのような小説家たちも、彼(カフカ)に比すれば……石膏の聖人像みたいなものだ。
     (『ヨーロッパ文学講義』野島秀樹訳 TBSブリタニカ)