お金BRICs経済研究所(代表 門倉貴史) では表題のレポートを発表しました。概要は下記のとおりです。


世界で最も豊かな国といわれる米国だが、現実はそうではない。実際には、いまでも多くの人々が人知れず貧困にあえいでいるのだ。

もともと、米国は経済成長の過程で国民の間の所得格差が開きやすい社会であったといえる。米国では、政府は基本的に個人の生活に干渉してはならないという考え方が広く浸透しており、各種の社会保障制度も、この考え方に基づいて設計されている。このため米国には、日本の生活保護制度のような連邦政府による包括的な公的扶助制度は存在しない。低所得者に対しては、メディケイドと呼ばれる医療扶助制度などが適用されるのみだ。しかも、米国は、1996年に、福祉改革のなかで、これまでの公的扶助制度のあり方を見直し、長期間公的扶助を受給している者の自立促進、関連予算の削減などを推し進めた。こうした福祉政策のスタンスの変化が、近年における貧困層の増加をもたらすことになったといわれる。

国勢調査局の統計によると、米国では、2001年にブッシュ政権が誕生して以来、景気が上向くなかでも「ワーキング・プア」(働く貧困層)の人口が増加傾向をたどっている。共和党のブッシュ政権は、政府の役割をできるだけ小さくして、民間の競争を促せば、おのずと経済が活性化して、人々の生活も豊かになるとの考え方に立つ。しかし、貧困を減らすのに市場原理は有効に機能しているとはいえない。直近の2005年は、前年に比べて若干減少したものの、年収が「貧困ライン」を割り込んでいる人の数は3695万人と依然高水準だ(2004年は3740万人)。「ワーキング・プア」が全労働者に占める割合は12.6%に上る(2004年は12.7%)。ちなみに、2005年の「貧困ライン」は、3人家族で年収1万5577ドル、4人家族で年収1万9971ドルとなっている。

「ワーキング・プア」の多くは、所得が低いために、万一のリスクに十分な備えをすることができない。実際、貧困層が拡大傾向をたどるなかで、医療保険に加入していない人の数も増加基調にあり、2005年は前年比+2.8%の4657.7万人にも達した。これは全労働者の15.9%に相当する水準だ。医療保険の未加入者が増加するなか、州単位で皆保険を導入する動きも出てきた。米国のマサチューセッツ州では、2006年4月、2007年7月までに全州民が医療保険に加入することを義務付ける法案を可決した。貧困であるがために、加入できない人についてはマサチューセッツ州が助成金を出す予定だ。