宝石ブルーBRICs経済研究所(代表 門倉貴史) では表題のレポートを発表しました。概要は下記のとおりです。


2005年9月、米国財務省は、マカオの「バンコ・デルタ・アジア」が北朝鮮によるマネーロンダリングの温床になっていた疑いがあるとして、愛国者法に基づく「マネーロンダリングの主要懸念先」に指定した。米国財務省によると、「バンコ・デルタ・アジア」の幹部と北朝鮮当局者がつるんで、米ドルのニセ札を含む現金を「バンコ・デルタ・アジア」に預け入れた上で市場に流通させるなどの行為をしていたとされる。また、マカオにあるカジノが、北朝鮮が非合法な手段で獲得した資金のマネーロンダリングに関与していた疑いもあるという。

北朝鮮はなぜドルの偽造をしているといわれるのか。背景には、現在の北朝鮮経済が破綻寸前の厳しい状況になっていることがある。北朝鮮の経済はすでに80年代から停滞色を強めていたといわれるが、90年代に入ってその傾向が一段と鮮明になった。90年代以降のマイナス成長は、資金援助、原材料輸入の両面で依存度の高かったソ連が崩壊(91年)したことの影響が大きい。ソ連崩壊に伴い、同地域からの無償援助が打ち切られ、また割安な価格での原材料輸入が困難となった結果、原材料・資源不足が深刻化し、生産・設備投資が滞るようになったとみられる。

また、多額の軍事支出も北朝鮮の経済を疲弊させる大きな要因のひとつといえる。北朝鮮の軍事支出は2001年で51.2億ドル、名目GDPの31.3%(CIA推計)を占める。軍事支出の割合は、隣の韓国(2.8%)をはるかに上回る値となっている。また、巨額に及ぶ対外債務の存在も諸外国からの原材料調達難を招き、経済成長の抑制要因となっている。北朝鮮の対外債務残高は約124億ドル、2002年の国家予算(95億ドル、北朝鮮最高人民会議発表)の1.3倍にも及ぶ。

こうした過剰な軍事負担や原材料調達資金の不足が、経済の持続的成長に不可欠な資本の蓄積を妨げていると考えられる。新規の設備投資の抑制が続いたために生産設備の老朽化は著しく、原料・エネルギー不足もあって、実際に稼働している工場設備は3割程度にすぎないといわれる。

北朝鮮は、外貨獲得の手段として中東、アフリカ諸国などにミサイルを輸出しているがそれだけでは、深刻な外貨不足を補うことはできない。合法的な手段による外貨獲得が難しくなった結果、外貨を取得するための最終的な手段として百ドル紙幣の偽造に手を染めるようになったといわれる。ニセ札のほか、ニセのバイアグラの製造、麻薬や覚せい剤の密輸などについても北朝鮮の関与が指摘されている。「バンコ・デルタ・アジア」は、北朝鮮関係の口座をすべて閉鎖するとともに、今後は北朝鮮との取引を一切行わないと宣言することで信用の回復に努めているところだ。