5月3日はゴールデンウィークの連休初日。皆来てくれないかも・・・・と思っていたが、どっこい、早めにきてくれた皆さん。いつもは仕事帰りによってくださるから、今日は普段着でそれもなんだか新鮮です。

今日は鍋の日。さすがにもう初夏の陽気だから、鍋もなんだなあと思うけれど、皆で鍋を囲むのはあついからこそまた新鮮です。

そしてなんといっても今日は小室さんが帰ってきてくれた・・・。



今日の映画は崟利子(たかしとしこ)監督『西天下茶屋 おおいし荘』。1998年の作品です。
西天下茶屋(にしてんがちゃや)駅は大阪市西成区にある南海電気鉄道高野線の駅。その昔監督が子ども時代の10年間をすごした小さなアパートを訪ねるというドキュメンタリー映画だ。ナレーションも監督自身が行う。手持ちのビデオでとっていくので、私たちはいつの間にか監督の視線になっている。

回りの建物が建て替えられていくというのにこのアパートだけは忘れられたようにそのまま残っている。しかも出てきたおばさん、窓から顔をのぞかせたおばさんは監督が子どもの頃ここにすんでいたときの住民だった。ここに住んでいた月日、そしてここをでたあとの30年の年月がそのままタイムカプセルのように凝縮されて残っている。

映し出されるものすべてが言葉のないままに「おおいし荘」を通り過ぎていった人々の生活を、そして監督の人生を物語る。3畳一間に一家族がすんでいたのである。そしてそのすべてを見てきたであろう二人の老女の物語がそこに折り重なる。

カメラを意識せずに話しかける老女二人。最後に「今度来たときは一緒に外に食べに行こうなあ」、という老女の言葉が印象的だった。時間が忘れられたようなこの場所から外に出て行こうという行為はなんだか現実離れしている。

こうして外から来た、同時に過去から来た客人はこのおおいし荘を後にする。
最後に監督は見送りに出た老女の姿をカメラにおさめておこうとするものの、それができない。

どうしてだろう。
そうすることによってこのおおいし荘のとり収めとなってしまうかもしれないという恐れがあったのか。
それとも過去に対する決別なのか。

懐かしさよりもいとおしさと哀しさともいえる気持が残る作品。
昔いた場所がいつでも懐かしい場所とは限らないだろう。でも私たちはその場所と決別することもできない。それも居場所といえるのだろうか。







そのあとはカド鍋。鍋をつつきながら、幼い頃の思い出や場所のことを語り合う。それぞれが生きてきた月日、これから生きていく月日。





考えてみたら、今年ももう4ヶ月が過ぎた。カドベヤも私たちのことをもうすぐ6年間見続けてきたことになる。

(よこやま)





『西天下茶屋おおいし荘』は、僕も大好きな映画です。
カメラの捉える映像とおばちゃんふたりのお話から、30年前(映画撮影当時から)にここに住んでいた人たちのこと、当時の生活、天下茶屋周辺や大阪の様子が、(住んだこともそこに行ったこともないけれど)心に浮かんでくるような映画です。
このおばちゃんたちに、どうしてこんなに愛情がわくのかわからないのですが、あっけらかんとさらけ出しているような生き方とか、次から次へと話しかけてくる彼女たちの言葉の洪水などが理由かもしれません。

そして、ふたりのおばちゃんや、「おおいし荘」のその後がどうしても気になる映画でもあります。
あの場所はどうなったのだろう、おばちゃんたちはどうしているだろう。
おばちゃんたちはずっと昔からそこにいて、そこにいた事実は絶対に変わらない、と思える映画です。
映画を見た後も、おばちゃんたちとおおいし荘のことを何度も思い返します。
作品という枠をこえて、おおいし荘という場所は、僕の心のなかで、ひとつの場所を占めるようになりました。
僕が大阪という土地に憧れを持っていることもあるのですが、自分にとって『西天下茶屋おおいし荘』は、そういう愛おしさを持った映画であるのです。




先日、大阪に行った折、とうとう憧れの西天下茶屋を訪問する機会を得ました。








映画の当時から、南海・西天下茶屋駅の駅舎は変わっていませんでした。
1時間に2本しか電車のない駅です。最終電車は22時代です。

おおいし荘のあった場所を見つけることはできませんでしたが、街の雰囲気に触れることができました。
駅前には新しい道路が整備され、これから街は変わっていくのかもしれません。
でも、そのすぐ近くで、おおいし荘のようなアパートのある路地が、まだまだ入り組みながらたくさん生きていました。






(↑喫茶マル屋。「オーレ」170円。チョコレートパフェ200円。)

しぶとく生きている商店街もあり、おばちゃんたちや監督は、ここを歩いていたのかな、と思いながら歩き、わくわくしました。
また、再訪したいと思っています。

映画『西天下茶屋おおいし荘』が、カドベヤで上映され、たくさんの方がご覧になったこと、この映画のいちファンとして、心よりお慶び申し上げます。

(大崎晃伸)