海馬之玄関amebaブログ



◆アメリカ大統領選挙の特徴:Winner Takes All
アメリカの大統領選挙(the U.S. Presidential Election)は「Winner Takes All」システム。要は、メイン州とネブラスカ州を除く48州とWashington D.C.では、各州(+D.C.)毎に割り当てられた大統領選挙人を、その州(+D.C.)の投票で一票でも上回った候補がすべて獲得する仕組み(presidential electors→the electoral college of a state)です。


州の人口にかかわらず各州に2名ずつ割り当てられる連邦上院議員の制度と同様(アメリカ合衆国の連邦憲法1条3節1項および修正17条1項参照;ちなみに、同連邦憲法1条2節1項に従い、連邦下院議員の定数は10年ごとに行われる人口調査に基づき人口比によって州毎に割り当てられています。尚、今回2012年の大統領選挙の選挙人の各州への割り当ては2010年の国勢調査の結果、前回の2008年のものから変更されています。)、この大統領選挙における「州毎の勝者総取り方式」はアメリカが「合州国」であり独立性の高い諸州の連邦であること、正に、united states のUnited Stateに他ならないことを痛感させるものだと思います。

 
・資料:アメリカ合衆国憲法1条2節1項および3節1項、並びに、修正17条1項
Section 2. The House of Representatives shall be composed of members chosen every second year by the people of the several States, and the electors in each State shall have the qualifications requisite for electors of the most numerous branch of the State legislature.
(下院は、2年ごとに各州の公民によって選出された議員によって組織される。各州における選挙人は、州議会の議員数の最も多い部門の選挙人に必要な資格を有していなければならない)


Section 3. The Senate of the United States shall be composed of two Senators from each State, chosen by the legislature thereof, for six years; and each Senator shall have one Vote.【*Article I, section 3, of the Constitution was modified by the 17th amendment.】
(合衆国上院は、各州から6年の任期でその州の議会によって選出された2名の上院議員によって構成される。各上院議員は、1票の投票権を有する)【*連邦憲法1条3節は同憲法修正17条によって修正】


AMENDMENT XVII (Passed by Congress May 13, 1912. Ratified April 8, 1913.)
The Senate of the United States shall be composed of two Senators from each State, elected by the people thereof, for six years; and each Senator shall have one vote. The electors in each State shall have the qualifications requisite for electors of the most numerous branch of the State legislatures.
(合衆国の上院は、各州からその公民によって選ばれた任期6年の2名の上院議員から構成され、各上院議員は1票の投票権を有する。それぞれの州の選挙人は、州議会の議員数の最も多い部門の選挙人として必要な資格を有していなければならない)



重要なことは、アメリカの50州(+D.C.)は、この「Winner Takes All」システムによって、①民主党と共和党の地盤が強固であり、その「投票結果」はよほどのことがない限り変動しない「鉄板の州:Safe States/Solid States」と、②両政党の地盤の堅さが拮抗しているか/4年なり8年なりの比較的短い期間で有権者の属性(所得・職業・教育水準・エスニシティー等々)が変動して、その「投票結果」は神のみぞ知る領域に属する「激戦州:Tossup States/Battleground States」の両極に分かれて分布しているということです。


そして、後者②の中でも4年に一度の大統領選挙の度に、民主党と共和党の勝敗が変わる、
各陣営の選挙参謀泣かせの州は「揺れる州:Swing States」とも呼ばれています。


例えば、前回2008年の大統領選挙、激戦が伝えられていたネバダ・ミズーリー・インディアナ・オハイオ・ノースキャロライナ・フロリダの6州(この6州に配分された大統領選挙人は選挙人総数全538名中の89名)、加之、敗れたマケイン候補の逆転の可能性が皆無ではないとされていたコロラド・アイオワ・ミネソタ・ニューハンプシャー・ニューメキシコ・ペンシルバニア・バージニア・ワシントン・ウィスコンシンの9州(この9州に配分された大統領選挙人は90名)の結果次第では共和党の逆転サヨナラ勝利の芽もなくはなかったわけです。


実際、労働者階級と都市部のインテリ層をその金城湯池とする民主党、富裕層とキリスト教右派をその支持母体とする共和党というかっての構図とは異なり、オバマ候補のその怜悧さに皮膚感覚で自分達との距離を嗅ぎ取った白人貧困層も少なくないと報道されていました。ならば、ペンシルバニア・ウィスコンシン・バージニアの3州の結果は、世論調査で予想するには限界があり投票箱が開けられるまでは誰もわからないというのが正直な所だったのです。而して、今回2012年の大統領選挙ではこの「共和党が逆転する場合の台本」の構図は更に強固になっているの、鴨。と、そう私は考えます。



◆アメリカ大統領選挙の中軸:United States
アメリカは「United States」の国。大統領選挙の結果も、(ニューヨークとカリフォルニアだけをアメリカと思い込む)金太郎飴的な理解では到底予測は不可能です。30年近くアメリカ大統領選挙を日米双方の目線で観察していてつくづくそう思います。そして、これはアメリカ憲法に根ざしているアメリカ政治の日常風景に垣間見えることなの、鴨とも。


要は、大統領選挙における「Winner Takes All」は、不合理とも見える結果をしばしば引き起こすことで、外国のメディアからは「民主主義に反するルール」として評判が悪いのですが、それは「余計なお世話」であり、この総取り方式は、少なくとも現在に至るまでのアメリカの政治文化に根ざしているもの。


例えば、ブッシュ前テキサス州知事とゴア副大統領の間で争われた12年前の大統領選挙、2000年の大統領選挙では、総得票数ではゴア候補がブッシュ候補を上回りながらもこのルールのために民主党は涙を飲みました。逆に言えば、2000年も前々回の2004年の大統領選挙でも共和党は全米の30余州で勝利しており、民主党は割り当てられた選挙人数の多いカリフォルニア州やニューヨーク州で効率よく選挙人を積み上げるのがいつものパターンと言えるのです。


2010年の国勢調査を受けて変更された結果、今回2012年の大統領選挙で最大の選挙人数を割り当てられているのは55人のカリフォルニア州ですが、それ以下は、テキサス(38)、ニューヨーク(29)、フロリダ(29)、ペンシルバニア(20)、イリノイ(20)、オハイオ(18)、ミシガン(16)、ジョージア(16)、ノースキャロライナ(15)と続きます。この上位10州だけで538人の全選挙人数の47.58%を占める。他方、選挙人割当が最低の3人の州が(憲法で最少の州より多い選挙人を持てないことになっているWashington D.C.を含む)8州、4人が5州、5人が3州、6人が5州。割当の少ないこれら20州とD.C.を併せても選挙人は89人であり、それはカリフォルニアとテキサスの2州の合計にも及びません。


 

<続く>