(5-9)暖かい春の日差し
別れて、一度振り返った。 悲しみが感じ取れるほど、肩を落として歩いていた。 |
肩のかすかな震えから泣いていることが分かった。 |
その光景はショックだった。 |
何故、僕は君に会う度に悲しい思いをさせてしまうんだ。 |
君を苦しめたくない。 生きていてほしい。 幸せになってほしい。 それだけの理由で君と別れたのに、また泣かせてしまった。 ごめんね。 |
心が凍りつき、何も考えることができなくなった。 |
彼女と話したのは、僅か2分にも満たない時間だった。
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長い年月生きてきて、初めて知ったこと。 |
今まで、生きてきて、一人の女性を死ぬほど好きになったことはあるが、愛した女性はいなかった。 冬のソナタというドラマがきっかけとなり、彼女との出会いから別れまでのいろいろなシーンを思い出し、 その時の僕と彼女の心理を考え続けた。 それは何十時間も続いた。 |
「何故あの時、あんなことを言ったのか?」 |
「何故あの時、あんな行動をしたのか?」 |
「何故、何故」ふと気がついた。 |
もしかしたら「愛していたのではないか?」 |
「愛されていたのではないか?」 |
だからあんな言動や行動に出た。 そのことに初めて気がついたとき、無性に喜びを感じた。
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僕の心理状態を分析すると、今までは、彼女のことを考えると好きだった女性=恋愛=罪悪感しか感じ なかったので、恋愛を真面目に考えることは敢えて避けていた。 つまり、別れてから僕の心は恋愛に対して常に冷めた気持ちが強かった。 そんな僕に突然、発想を切り替える機会がやって来た。 |
愛していたからこそと言う風に言い換えると、馬鹿な選択をしたという後悔と罪悪感は薄れ、逆に幸福感 が増して来た。 |
この年になっていまさら愛なんて、何を考えているの? まるで馬鹿じゃないかと、思われても僕は言いたい。 |
「僕は一人の女性を愛しました」 |
「そしてその女性から愛されていました」 |
「僕は幸せでした」 |
それは、誰しも初めて人を好きになった時の喜びに似ていた。 僕の気持ちは思春期に戻ったような気がした。 例えて言えば、長い冬を過ごした後、暖かい春の日差しを浴びた感覚だった。 |
次回は(5-10)アドバイスです。お楽しみに