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サラは顔をしかめると、爆発したような茶色い髪を


椅子の背もたれに押し付けた。



「このビスケットは、父さんが直接仕入れに行ってるんだけど、


 何処から仕入れてるのか、父さんは秘密にして教えてくれないのよ。


 でもね、父さんがガラクタを持ち帰ってくるのは、


 このビスケットの仕入れの時なの」



「本当に?」


エームの顔がぱっと明るくなった。



「確実にじゃないわ。たぶんよ。


 私だって、いつも父さんを見張ってるわけじゃないもん」


サラは、そばかすだらけの鼻に皺をよせた。



「でも、このビスケットを売ってる場所が、


 『秘密の店』の可能性が高いって事でしょ」


目を輝かせたエームが聞くと、サラはうなずいた。



「そうね。そうじゃなかったとしても、


 このビスケットを売ってる場所の近くに、


 『秘密の店』があるのかもしれない」



エームは預かっていた『緑の乙女亭』のビスケットの籠を


サラにぎゅっと押し付けた。


「売ってる場所が知りたいわ。


 すごく怪しいもの。


 サラはどうして今まで調べようとしなかったの?」



サラは受け取った籠からビスケットを一枚つまみあげると、


口を尖らせた。



「だって、興味なかったもん。


 それに父さんが仕入れ元を秘密にしてる商品は


 ガラクタとビスケットだけじゃないの。


 他にもいっぱいあるわ。


 父さんが言うには、そういう商品は何処かの奥さんが、


 こづかい稼ぎに作ってるものなのよ。


 安くするかわりに、この事は誰にも言わないでって、


 父さんに口止めするんですって。


 奥さん達は稼いだお金を、家族に内緒で使っちゃうの。


 新しい服を買ったり、『緑の乙女亭』のビスケットを買ったり」



「ビスケットを売って、ビスケットを買うなんて、


 なんだか変な話ね」


エームは笑った。



サラが分別臭い顔でうなずいた。


「まあね。でも世の中って、たいてい、おかしな事ばっかりよ。


 こんな不味いビスケットを買いに来る人がいるくらいだし」



「誰が買ってるの?」



「老人達よ。子供の頃、このビスケットを食べてた人たち。


 懐かしい味がするからって、買っていくの。


 こんな不味いビスケット売ってる店は少ないもん」



それを聞いたエームは、また目を輝かせて言った。


「ねえ、サラ!


 このビスケットをつくれる人を探せば、


 『秘密の店』の場所が分かるんじゃないかしら」



サラは苦笑した。


「無理よ。確かに作れる人は少ないけど、


 いないわけじゃないもん。


 うちにビスケットを買いに来るお年よりだって、


 昔は自分でつくってたから、作り方は知ってるのよ。


 ただ、わざわざ自分でつくらないだけ」



「そっか」


がっかりしたエームを見たサラは、笑って聞いた。



「どうして、そんなに『秘密の店』が知りたいのよ」



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