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ドアをあけると、ドアについた鈴がチリンとなった。


「いらっしゃい」


店の奥から女の子の声が聞こえる。


でも、何処にいるのか分からない。



なにしろ小さな店の中は、倉庫みたいにごちゃごちゃだった。


背の高い棚が出鱈目に置かれ、


そこから売り物らしい、石鹸や、洗濯紐や、


あとなんだか分からないガラクタみたいなものが


床にまであふれ出ていた。


イチはぽかんと店内を見回した。


いろんな店を見てきたけれど、ここまで散らかった店は初めてだった。



「この前来た時より、散らかってる気がするんだけど、


 こんなので商売になるの?」


エームも呆れたように言った。



「その声は、エームね」



店の奥に積み上げられた、木箱の向こうから


ほっそりとした女の子の手が飛び出してきて、ひらひらと振られた。



「父さんが、店を片付けようとして、前よりひどくしちゃったのよ」



「おじさんは何処?」



「途中で嫌になったらしくって、逃げたみたい。


 ここ最近、ずっとこうなの」



「じゃあ、サラが片付ければいいじゃない」



「嫌よ。いつもそうなんだもん。


 今度は、父さんに自分で片付けさせるつもりよ。


 私は絶対に、片付けないんだから。


 ねえ、エーム。緑の乙女亭のビスケット持ってる?


 最近、店番ばっかりで、全然出かけられないから、


 うちで売ってるビスケットばっかり食べてるのよ。


 このビスケット、あんまり美味しくないのよね」



エームは笑った。


「もっと、美味しいビスケット仕入れればいいじゃない。


 でも、うちのビスケットはちゃんと持ってきたわよ」



「やった。早く、こっちに持ってきて!」


「無理よ!」


エームは叫んだ。


「そっちに行ける道は全部ふさがってるじゃないの!」



店の奥から、女の子の笑い声がした。


「右側のルートからなら、こっちに来れるわよ。


 さっき試したから、確実よ。


 でも左側は駄目。壊滅状態」


「右側?ガラス瓶がいっぱい並んでて通れないわ」


「全部またいでくるのよ。頑張って。


 エームがここに来るまでに、お茶を入れとくから」



エームはため息をつくと、スカートを少したくし上げ、


ガラス瓶をまたごうとしはじめた。


イチは手を伸ばし、危なげにぐらつくエームの両腕を支えた。


ありがとう


エームは振り向きもせず、小さな声でお礼を言うと、


はっと気がついたように、奥に向かって言った。


「お茶は三つ必要よ」



「どうして?誰か来るの?」


木箱の向こうから、爆発したような茶色い縮れた髪と、


そばかすだらけの顔が飛び出してきた。


エームと同じ、17歳くらいの女の子だ。


「あら?」


その顔は、驚いたように二人を見た。


すぐに、にやっと笑って「あらああ?」と言った。


「何よ」


エームが顔を赤くして言った。


サラはにやにやしながらイチに言った。


「じゃあ、あなたが絵師のイチなのね。噂は聞いてるわ」


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