その日のうちに、イチは町中を歩き回った。
ハルテルの町は大きかったが、どの街角も良く似ていた。
建物は全て二階建てで白い漆喰が塗られ、窓辺には緑が飾られている。
道は埃っぽく、大きな通りだけレンガがしかれていた。
住人達はヴァールのように茶色く縮れた髪をして、体が大きく、
赤く日に焼け、茶色い目をしていた。
男達は白いシャツに茶色いズボン。女達は白いブラウスに、色とりどりのスカート。
靴は男も女も茶色い革靴だった。
イチは珍しそうに、それらひとつひとつを見つめながら歩いていた。
しかし、イチの方が多く見つめられていたのだ。
まず人々の目は、イチの着た異国風の珍しい服に吸い寄せられ、
次にまじまじとイチの顔を見つめた。
浅黒い肌の色や、黒く煌く瞳の色や、口元に浮かんだ穏やかな微笑を見つめ、
滑るような独特の歩き方を見守った。
イチはこの町にとって、まったくの異物だった。
珍しそうに見つめる人々の中には、異国人に好意を持てず、顔をしかめる者もいた。
イチはそんな全ての視線を、穏やかに受け止め歩いていた。
やがて大きな通りに出た。
(ここが町の中心かな)
イチは、しばらくそこに立ち止まり、あたりをゆっくり見回した。
さて、イチの視界にはまだ入っていなかったが、
通りの端に、やけに大きな食堂があった。
まだ夕食には早い時間だというのに、ほとんどの席は埋まっていた。
皆、お茶を飲みながら薄いビスケットを食べている。
木の実が練りこまれた、甘く、ぱりっとしたこのビスケットは、ハルテルの町の名物で、
特にこの店のものが、町で一番美味しいという評判だった。
満足そうにビスケットを食べる客達を背にして、店の正面に綺麗な娘が立っていた。
白いブラウスと、緑色のスカートを着て、少し凝った形の革靴を履いていた。
この辺りの人間らしく、茶色く縮れた髪をしていた。
肌は白く、瞳は澄んだ飴色だった。
退屈そうな顔をして柱によりかかり、通りをぼんやり見つめていた。
そして、ふと、イチに目を止めた。