ベイビー・ブローカー | p・rhyth・m~映画を語る~

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原題:브로커
監督:是枝裕和
キャスト:ソン・ガンホ/カン・ドンウォン/ペ・ドゥナ
配給:CJエンタテインメント/ギャガ/Neon
公開:2022年6月
時間:129分




諸事情のため育てることのできない赤ちゃんを,親が匿名で託すための施設“Baby box”。日本では“赤ちゃんポスト”と呼称され,熊本と北海道の2ヶ所がある。多くの国に存在しているが,その設置に関しては,宗教や道徳,人道・人権などの観点から多様な意見がある。ただ,“子どもの生命を守ることが社会全体の義務と責任である”という点では,各国に共通した概念であると思う。

韓国にも3ヶ所のBaby boxが設置されていて,この10年ほどで預け入れが急増しているという。驚くのはその件数で,人口が日本の4割程度の韓国で,日本の約10倍になる2000人ほどの赤ちゃんが預けられたというのだ。そこに,是枝監督がこの作品を韓国で作ったという意図があったのかもしれない。原題の『브로커』は「ブローカー」の意味。第75回カンヌ国際映画祭では最優秀男優賞(ソン・ガンホ)と,人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞の2冠を達成。その後,全世界188ヶ国で公開された。

釜山で古びたクリーニング店を営むサンヒョン(ソン・ガンホ)。借金に追われる彼は,“赤ちゃんポスト”を運営する教会の施設で働く若い男ドンス(カン・ドンウォン)と手を組み,赤ん坊をこっそり連れ出しては,新しい親を見つけて謝礼を受け取る違法な“ベイビー・ブローカー”の裏稼業をしていた。ある土砂降りの雨の夜,若い女ソヨン(イ・ジウン)が“赤ちゃんポスト”に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る2人。ところが翌日,思い直して戻ってきたソヨンが現れる。

「ちゃんとした養父母を見つけるため」と言い訳する2人に,自分も同行すると言い出すソヨン。こうして思いがけず赤ん坊の母親と一緒に養父母探しに旅に出るハメになったサンヒョンとドンス。そんな彼らの旅路を,現行犯で逮捕しようと目論む刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)が執拗に追いかけるのだったが…。

一貫して“家族の在り方”と“社会性”をテーマとしてきた是枝監督。自らの手で育てられない赤ん坊を匿名で預けることができる“赤ちゃんポスト”の持つ社会性と,是か非かの問題提起,それを取り巻く人間模様。そこに,殺人事件にまつわるサスペンスが加わる是枝テイストは見事。

まがいものの共同体としての“擬似家族”が,時として,伝統的な共同体である“本物の家族”の結び付きをも凌駕することを,場面の進むごと,そしてエンドロールの後に,見た者の心に刻みながら,様々な思いを抱かせる秀作だ。


映画クタ評:★★★★


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