監督:湯浅政明
キャスト:片寄涼太/川栄李奈/松本穂香
配給:東宝
公開:2019年6月
時間:96分
劇場で見た予告に,妙に惹かれた。その独特の画風と“水の中にいる彼”というファンタジー性を,予告でこれだけ魅せてくれる作品の本編に興味が湧いた。
がしかし,なかなかスケジュールと公開日程が合わず,半年遅れでようやく見ることの叶ったこの作品を今夜は紹介。監督は,TV『ちびまる子ちゃん』『クレヨンしんちゃん』で活躍し『マインド・ゲーム』(2004年・アスミック・エース)で長編アニメーション監督としてデビューした湯浅政明。『夜は短し歩けよ乙女』(2017年・東宝)では,第41回日本アカデミー賞・最優秀アニメーション作品賞を受賞している。この『きみと、波にのれたら』は,原作のない映画オリジナル作品という点でも期待と好感をソソる。
幼少期を過ごした海辺の町にある大学に進学し,一人暮らしを始めた向水ひな子(川栄李奈)。サーフィンが大好きで,波の上では怖いものなしだったが,自分の未来については自信を持てずにいた。そんなある日,火事騒動をきっかけに出会った消防士の雛罌粟港(片寄涼太)と恋に落ちる。二人はお互いがなくてはならない存在となるが,港は水難者を助けようとして命を落としてしまう。
大好きな海が見られなくなるほど憔悴し,落海から離れた場所に転居したひな子を気遣う港の妹・洋子(松本穂香)と後輩消防士の川村山葵(伊藤健太郎)。そんなある日,ふと2人の思い出の歌を口ずさむと,水の中から港が現れたのだった。「ひな子のこと、ずっと助けるって約束したろ?」と告げる港。ひな子は再会を喜び,港を“持参”して“デート”を繰り返すのだったが…。
童話をイメージするような独特の揺れた線,斜めに傾いた不思議なパースなど,湯浅監督の作り出すシーンは,いつしか見る者を独特の世界観に同化させていく。この作品では特に“水”の描写が素晴らしく,新海誠監督の『言の葉の庭』『天気の子』とはまたひと味違う“あり得ないけれど意思を持つ”水の形が,人の表情と同じように,物語に奥行きを与える。
銚子や釣ヶ崎,千葉ポートタワーにいすみ鉄道,そして湘南と,実際の地名や風景が登場するのも,現実との距離を縮める秀作だ。
クタ評:★★★★☆
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