言の葉の庭 | p・rhyth・m~映画を語る~

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英題:The Garden of Words
監督:新海誠
キャスト:入野自由/花澤香菜/平野文
配給:東宝映像事業部
公開:2013年5月
時間:46分




星を追う子ども』の2年後に公開された作品。シーンの8割を占める“雨”と,監督自らが初めて主題にしたという“恋”を,美しい描写と瑞々しい感性で捉えた物語。

個人的には,さり気なく織り込まれる『万葉集』の恋歌にも心惹かれ,その勢いで一気に物語に感情移入してしまったので,まずはその2首を紹介。

雷神(なるかみ)の 少し響(とよ)みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ
「雷が少し鳴っています。空が曇って雨も降らないかしら。あなたを引き留めたいもの」
そしてその返歌となる,
雷神の 少し響みて 降らずとも 我(わ)は留らむ 妹(いも)し留めば
「雷が少し鳴ってるね。雨なんか降らなくても僕はここにいるよ。君が居て欲しいというのなら」
1200年の時を経て共有することができる“恋”と“雨”の情緒。機微のある日本語という“言の葉”を母国語とすることが,とても幸せに思える。

高校1年生のタカオ(入野自由)は靴職人を目指し,アルバイトをしながら,こつこつと自分で靴を作っていた。雨の朝は学校をさぼって,日本庭園で靴のスケッチを描きデザインを考えている。ある雨の日その東屋で,昼間からチョコを食べながらひとりで缶ビールを飲む謎めいた女性・ユキノ(花澤香菜)と出会う。ユキノはタカオに「また会うかもね。雨が降ったら」と告げ,その場を後にした。

こうして2人は約束もないまま,雨の日の公園で逢瀬を重ねるようになる。「歩き方を忘れた」と,ユキノが自分の居場所を見失っていることを知り,タカオは彼女が歩きたくなるような靴を作りたいと思うのだったが…。

「彼らの頭上に降り注いでいるものは,ビジュアルとしては雨だけれども,象徴としては恋や社会的な問題。ユキノが抱える悩みは否応なく降りかかったものだし,タカオにとってはユキノが突然降ってきた存在かもしれない。恋という状況を描く場合にも,雨がふたりの間を隔てるようなカーテンに見えることもあれば,ふたりの背中を押してくれる優しい手のように見えることもある」という新海監督の言葉が全てを表す。“愛に至る前の恋”が,見る者の心に,美しく,穏やかに,そして切なく残像を作る。

ちなみに,この作品のヒロインであるユキノ(雪野 百香里)は,『君の名は。』で,三葉の通う学校の古典教師・ユキちゃん先生と,同一人物という設定になっている。


映画クタ評:★★★★★


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