日日是好日 | p・rhyth・m~映画を語る~

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監督:大森立嗣
キャスト:黒木華/樹木希林/多部未華子
配給:東京テアトル/ヨアケ
公開:2018年10月
時間:100分




唐末の禅僧・雲門文偃(うんもんぶんえん)の言葉とされる『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』。文字通りの「毎日毎日が素晴らしい」という意味だけでなく,「毎日が良い日となるよう努めるべきだ」とする解釈や,さらに進んで「そもそも日々について良し悪しを考え一喜一憂することが誤りであり,常に今この時が大切なのだ」「あるがままを良しとして受け入れるのだ」などと解釈されている禅語だ。

この言葉をタイトルに冠し,人気エッセイストの森下典子が,茶道教室に通う日々の中で体験したいくつもの気づきや感動を綴った『日日是好日 -「お茶」が教えてくれた15のしあわせ-』を映画化した人生ドラマを今夜は紹介。監督は『さよなら渓谷』(2013年・ファントム・フィルム)『セトウツミ』(2016年・ブロードメディア・スタジオ)の大森立嗣。

真面目で理屈っぽい20歳の大学生・典子(黒木華)。おっちょこちょいな自分に嫌気がさす彼女に,ある日,母親(郡山冬果)が突然「お茶,習ったら?」と勧める。困惑する典子だったが,同い年の従姉妹・美智子(多部未華子)が興味を持ち,一緒にお茶を習うことに。稽古初日,茶道教室にやって来た2人は,“タダモノじゃない”と噂の武田先生(樹木希林)に迎えられ,さっそく稽古を始める。折り紙のような帛紗さばき。ちり打ちをして棗を「こ」の字で拭き清める。茶碗に手首をくるりと茶筅を通し「の」の字で抜いて,茶巾を使って「ゆ」の字で茶碗を拭く。お茶を飲み干すときにはズズっと音を立てる。茶室に入る時は左足から,畳一帖を6歩で歩き7歩目で次の畳へ…など,意味も理由も判らない所作に戸惑うばかり。毎週土曜,そんな2人の稽古は続いた。

大学卒業後,貿易会社に就職した美智子がお茶から離れてしまったが,就職につまずき出版社でアルバイトをしながらお茶を続ける典子には後輩もできた。お茶を始めて2年が過ぎる頃,梅雨時と秋では雨の音が違うことに気づく典子。冬になり,お湯の“とろとろ”という音と,“きらきら”と流れる水音の違いが判るようになる。がんじがらめの決まり事に守られた茶道だが,その宇宙の向こう側に,典子は本当の自由を感じ始めるのだったが…。

20歳から45歳までの典子を演じる黒木華の上手さは言うまでもないが,やはり特筆すべきは故人となった樹木希林。自然体に映るのにちゃんと演じているのが,誰の目もそうと判る俳優は希有であったと,今更に実感する。

もちろん,茶道の啓発映画ではない。静かな時間なのに,音と時間が確実に過ぎていく。茶道を通して,季節を五感で味わうことの素晴らしさや,日々を送る中で経験する嬉しさや悲しさ,そして生きる歓びを,少しずつ実感していく典子の姿が瑞々しいタッチで綴られ,引き込ませてくれる1本だ。


映画クタ評:★★★★


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