セッション | p・rhyth・m~映画を語る~

p・rhyth・m~映画を語る~

メインブログ【くた★むび】



原題:Whiplash
監督:デイミアン・チャゼル
キャスト:マイルズ・テラー/J・K・シモンズ/メリッサ・ブノワ
配給:ソニー・ピクチャーズ・クラシックス/ギャガ
公開:2015年4月
時間:106分




“コンプライアンス”の次は“セクハラ”,“パワハラ”とニュースを賑わせる。もちろんこれらは許される行為ではない。ただ,流行として煽ったり煽られたりするのではなく,未来に渡り本質の理解と改善に努める必要がある。10~20年前までは当たり前だった“スパルタ教育”も,時代や社会の変遷に伴い改変を迫られる。しかしそれは“社会の成長”で,“パワハラ”なしでも強固な精神や技術を育てる方法・理論を見つけ出す“ヒトの成長”を追いつかせるための,更なる努力が求められているのではないか。

今夜紹介するのは,そんな“パワハラ”を素材にしつつ,求められるものの先を,見る者に問いかける作品。監督はこの作品の2年後に『ラ・ラ・ランド』で史上最年少での監督賞を手にしたデイミアン・チャゼル。この作品でも助演男優賞(J・K・シモンズ)など3冠の評価を受けている。チャゼルの書いた85頁の脚本が2012年のブラックリスト(映画化されていない素晴らしい脚本を載せたリスト)に載ったことで,一気に注目が集まり,資金確保のための短編映画化を経て完成した長編。

原題の『Whiplash』とは作品中にも出てくる1973年に作られたジャズの名曲のタイトル。もともとは7拍子の曲だが,映画では14/8になっていて,この演奏が実に素晴らしい。『Whiplash』に「ムチ打つ」「(首の)ムチ打ち症」の意味であることを考えながら見ると,この原題がいくつものシーンを象徴していることに気づくはず。

偉大なジャズ・ドラマーを夢見て全米屈指の名門“シェイファー音楽院”に入学した19歳のアンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)。ある日,音楽院で最高の指揮者であるフレッチャー教授(J・K・シモンズ)の目に止まり,彼のバンドにスカウトされる。そこで成功すれば,偉大な音楽家になるという夢は叶ったも同然だった。自分が無敵になった気がして,秘かに想いを寄せていたニコル(メリッサ・ブノワ)とデートの約束を取りつけるニーマン。

しかし,自信と期待を胸に練習に参加したニーマンを待っていたのは,フレッチャー教授の登場とともに異様な緊張感に包まれるバンドのメンバーたちと,わずかなテンポのずれも許されない狂気のレッスンだった。それでも頂点を目指すため,フレッチャー教授の罵声や理不尽な仕打ちに耐え,イジメのごとき指導に必死で食らいついていくニーマン。やがて彼は主奏者の座を得るのだったが…。

友人のドラマーは「どれだけハードに練習しても,あんな部分からは出血しない!」と言っていたが,出血も,パワハラも,“リアリティーを増すための素材”であって,感じでほしいのは“音楽という戦場での師弟の格闘”。フレッチャーがどんな思いであれほどに厳しくするのか? ニーマンが何のためにそれに耐えて自己探求をするのか? という2つの疑問を解くカギが,次々に映像と音楽で示されていく。それは,エンディングの『Caravan』の演奏が終わるまで,見る者に“謎解き”をさせ,ラストの1カットで答えを出させる。

しかし,そこで出る“答え”さえも,見る者によって異なるスッキリ感となる。確かなのは最後まで続く2人に共通した“音楽への真摯で狂信的な姿勢”。これら“多様”と“明解”のバランス感覚に特に優れた1本だと思う。

ソフトには資金確保のために作られた18分(脚本の15ページ分)の短編映画『The Spectacular Now』も収録されているが,この短編でのニーマン役はマイルズ・テラーではなく,ジョニー・シモンズが演じている。


映画クタ評:★★★★


右矢印J・K・シモンズ作品まとめ

右矢印アカデミー賞受賞作品まとめ


カチンコもっとカチンコ
『セッション』
▼お友達ブログ▼