海よりもまだ深く | p・rhyth・m~映画を語る~

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英題:After the Storm
監督:是枝裕和
キャスト:阿部寛/真木よう子/小林聡美
配給:ギャガ
公開:2016年5月
時間:108分




小学校の同窓会があると,決まって誰かが持ち込む卒業アルバム。当時の写真やら「将来の夢」を肴に酒がすすむものだ。先月,2016年度版・小学生の「将来なりたい職業」が発表されたが,ベスト3は,男子=①サッカー選手・監督 ②野球選手・監督 ③医師,女子=①保育士 ②医師 ③パティシエール,とか。今時の小学生はもっと現実的なのかと思っていただけに,子供らの持つ“夢”の存在に安堵した。ちなみに,約30年前の小学生の「将来なりたい職業」は,男子=①エンジニア ②プロ野球選手 ③サラリーマン,女子=①スチュワーデス ②デザイナー ③先生,だったらしい。

さて,今夜紹介するのは3世代の家族の夢と現実をコミカルに描いた作品。脚本・監督は『そして父になる』(2013年・ギャガ),『海街diary』の是枝裕和。

自称作家の中年男,篠田良多(阿部寛)。15年前に新人賞を受賞したものの,その後は鳴かず飛ばず。ギャンブル好きで,今は“小説のための取材”と称して探偵事務所で働く日々。当然のように妻の響子(真木よう子)には愛想を尽かされ,一人息子の真悟(吉澤太陽)を連れて家を出て行かれてしまった。その真悟との月に1度の面会が何よりの楽しみでありながら,肝心の養育費はまともに払えず,おまけに響子にも未練タラタラで,彼女に恋人ができたと知り,本気で落ち込んでしまう始末。

そんな甲斐性なしの良多にとって頼みの綱といえるのが母の淑子(樹木希林)。夫に先立たれ,団地で気楽なひとり暮らしをしている彼女の懐を秘かに当てにしていた。そんなある日,真悟との面会の日を淑子の家で過ごす良多。やがて真悟を迎えに響子もやって来るが,折からの台風で3人とも足止めを食らう。こうして図らずも一つ屋根の下で一晩を過ごすハメになる“元家族”だったのだが…。

タイトルの『海よりもまだ深く』は,テレサ・テンの『別れの予感』の歌詞に由来する。去っていく男を溺愛でつなぎとめようとする女性を歌ったこの歌がラジオから流れるシーンでは,良多の母親(樹木希林)が「海より深く人を好きになったことなんてないから生きていける」という名言を吐く。人生は思い通りにならないものだが,人や物への執着を捨てれば少し楽に生きられることを,この母親は知っている。しかし息子の良多には執着するものが多い。15年前の文学賞で得た小説家の肩書に執着し,自分が不甲斐なくて壊れた家庭に執着し,さらに少年時代の思い出にも執着する。しかしこの不器用さが愛おしく映るのは,どこか共感してしまうからかもしれない。

大きな出来事やアクションがないのに,最後まで目が離せないのは,リアルで誰にでも在りがちな〈和風〉な気質を,登場するキャラが醸し出しているからではないだろうか。

共演は他に,小林聡美,リリー・フランキー,池松壮亮,小澤征悦,橋爪功,ミッキー・カーチスなど。


映画クタ評:★★★★


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