ハウルの動く城 | p・rhyth・m~映画を語る~

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英題:Howl's Moving Castle
監督:宮﨑駿
キャスト:倍賞千恵子/木村拓哉/美輪明宏
配給:東宝
公開:2004年11月
時間:119分




イギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジー小説『魔法使いハウルと火の悪魔』(原題:Howl's Moving Castle)を原作とし,呪いで老婆にされた少女と魔法使いの奇妙な共同生活が,宮﨑監督により「戦火の恋」を柱として脚色され描かれている。原作者のジョーンズは「ハウルの性格を変えないように」とだけ注文をつけ,映画の感想を「とても素晴らしかった」「宮﨑は私が執筆したときと同じ精神で映画を作った」と語っている。

ソフィー(倍賞千恵子)は父が遺した帽子店で働く地味な女の子。恋にもオシャレにも消極的で,華やかな妹や義母から心配されている。ある日,ソフィーは町で兵士に絡まれているところを,美しい青年に助けられる。不思議な力を持つ彼こそ,人の心臓を食べると噂されている魔法使いのハウル(木村拓哉)だった。そうとは知らないソフィーは初めてのトキメキを感じるが,その夜,突然訪ねてきた荒れ地の魔女(美輪明宏)に魔法をかけられ,90歳の老婆に姿を変えられてしまう。このままの姿では家にいることはできない…と旅に出たソフィーの前に,巨大なハウルの動く城が現れる。旅の道中で助けたカカシのカブ(大泉洋)に導かれるように城の中へ入ると,散らかった部屋の中に小さな暖炉があり,城の動力源である火の悪魔・カルシファー(我修院達也)の姿があった。カルシファーは,ハウルとある契約を交わしたせいで城の外には出られなくなってしまったのだという。カルシファーのお願いを聞く代わりに姿を元に戻してもらう約束を取り付け,ハウルの弟子・マルクル(神木隆之介)も味方につけたソフィーは,しばらく掃除婦として城で暮らすことになった。好奇心旺盛だが憎めないソフィーのペースに次第に巻き込まれていくマルクルとカルシファー。城の中を無断で整理整頓してしまうソフィーを迷惑がっていたハウルも,徐々に彼女のいる生活を楽しみ始める。しかし戦争は次第に激しさを増していき,ハウルは魔法使いの師匠で王室付きの魔女であるサリマン(加藤治子)から呼び出しを受ける…。

たまらなくキュートでつつましくて,それでいて生命力にあふれた物語。昨夜紹介した『千と千尋の神隠し』では隠喩にされた“自分探し”が,この作品では自然な物語として映し出される。90歳の老婆に変えられた少女も,本当は臆病な魔法使いも,火の小悪魔も,カブ頭のカカシも,みんな本当の自分を,自分の居場所を探している。変わることを受け止め,小さな家族をつくる。それぞれの魔法を解くのは,大切な人からのキスと温もり。

計算され,これまでの作品より一歩引いた宮﨑監督の立ち位置が,キャラクターたちに鼓動と豊かな個性を与える。そんな彼らの物語が,見る者にまた“自分探し”をさせてくれる。