先月、ムスリマ友のKちゃんが、トルコ人の婚約者と結婚しました。
Kちゃんは、私と年齢が10近く離れているけど、去年インドに一緒に旅行したり、共通点も色々あって可愛い妹分みたいなお友達。
もちろん、トルコ関係者には定番イベントの結婚前夜パーティー、クナ・ゲジェスィもやりました。
てなわけで、以前クナ・ゲジェスィ(結婚前夜のヘナ・パーティー)について 解説した文章を書いたので、ブログにも載せておきます。
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Kına Gecesi(クナ・ゲジェスィ)とは?
クナ・ゲジェスィとは直訳すると「ヘナ(kına)の夜(gece)」のという意味。
結婚の前夜に、花嫁になる娘の手にヘナを施し、花嫁の結婚生活の幸せを祈る、トルコの伝統儀式です。
結婚前夜パーティ、と訳すのが一番分かりやすいのかな。
ヘナ(ヘンナ)とは
ヘナは、ミソハギ科の植物の葉を乾燥させた染料。
これを水に溶いてペースト状にして、肌にのせて時間を置くと、色素が肌に入りこむので、色が1週間~1か月ほど残ります。
最近 日本でも毛染め用となどで知られるようになりましたが、ヘナの産地である南アジア・中東・北アフリカでは、古代から人々がこれを使って爪や髪を染めたり、身体にタトゥーのように模様を描いたり、または呪術用や薬として使用してきました。
かのクレオパトラもこれで美にさらなる磨きをかけたと言われていますし、聖書にも登場するなど、ヘナの利用の歴史は先史時代まで遡ることができます。
なぜヘナを花嫁に施すのか?
その強い殺菌効果や、染まった時の鮮やかな色から、古代、ヘナには魔除けの効果があると信じられていました。トルコに限らず、南アジアから北アフリカにかけての地域で広く、結婚を控えた娘の肌にヘナを施す習慣があるのは、美的目的だけでなく、このような意味が大きいと思います。
トルコでは花嫁だけでなく、兵役に赴く若者や、イスラームの祝祭である犠牲祭(イード・ル・アドハー)で屠る犠牲獣にもヘナを施す習慣がありますが、これも同じ理由からでしょう。
また、赤の色は広くアジアから北アフリカの地域では、おめでたい色として花嫁が結婚式に着る衣装の色でした。赤く染まるヘナは、そういった意味でも花嫁にふさわしいものとして愛用されてきたのでしょう。
(左)モロッコの花嫁のヘナ (右)インドの花嫁のヘナ
ヘナとイスラームの関係
トルコのクナ・ゲジェスィでは、式の一部にイスラームの聖典クルアーンを詠んだり、アッラーに祈り(ドゥアー)を捧げたりするパートがありますが、ヘナを花嫁に施す伝統そのものは直接イスラームとは関係がありません。
前述のようにイスラーム以前からヘナを身に施す習慣があり、イスラームが広まると、従来からのヘナの伝統にイスラーム的な要素も取り入れられるようになりました。
とはいえ、ヘナを使用することはイスラームにおいても奨励される行為で、イスラーム教徒が聖典クルアーンと共に規範とする預言者ムハンマドの言行録にも、ヘナの利用に関するものが多くみられます。
トルコのクナ・ゲジェスィ
伝統的には結婚式の前夜、新婦の実家で、女性だけ(新婦側の親戚、新郎側の親戚、新婦の女友達など)で行なわれます。
花嫁はbindallı(ビンダッル)と呼ばれる赤い民族衣装を着て、赤いヴェールを頭から被ります。
前半にはコーランを読んだり、お祈りをしたりという宗教的な部分があります。
その後に、ヘナを花嫁の手に施すメインイベントに移ります。
ペースト状に練られたヘナは花や蝋燭で誕生日ケーキのように飾られ、結婚前の娘達が蝋燭を手にして踊るçaydaçıra(チャイダチュラ)という舞いとともに、会 場に運ばれます。
ヘナを花嫁の頭上にかざして祝福をしつつ、花嫁の友人たちが花嫁を囲んで回りながら、悲しい歌を歌ったり、手紙を読んだりして、なんとか花嫁を泣かせようとします。クナ・ゲジェスィの晩に涙を流せば、結婚後に悲しい思いをせずに済むと言われているからです。
花嫁が涙を流したら、彼女の手の平にヘナを施す段階に移ります。
しかし、花嫁はすぐに手を開きません。義母となる花婿の母親が、花嫁の納得する金(またはそれ相当の贈り物)を提示して初めて、彼女は手を開き、ヘナが乗せられます。
もちろん、現在では花嫁が義母の贈り物を気に入らないからと言って結婚が破談になることはありませんが、習慣としてポーズだけ受け継がれています。
トルコでは花嫁の手に乗せるへナで、インドやモロッコのような流麗な模様を描くことはありません。
伝統的には、手の平にスプーンでヘナをポンと乗せてたら軽く閉じ、すぐに手ごと特性のミトンに包みます。花嫁はそのままの手でその晩過ごし、ヘナの色を定着させます。
残ったヘナは参加者の中の未婚の娘たちが、次は自分が結婚できるようにという願いを込めて手につけます。
無事ヘナの儀式が終わると、花嫁もヴェールを外し、会場の雰囲気はドンちゃん騒ぎに一転し、ノリノリな音楽をかけて歌ったり踊ったりと、全員で楽しい時間を過ごします。夜中遅くまで楽しみ、新婦の友人達などはその晩は新婦の家に泊まります。
家族との別れや結婚後の新生活のことで心細い思いをしている結婚前夜の花嫁を、みんなで楽しく送り出してあげる歓送女子会という感じかな。
さて、女性たちがクナ・ゲジェスィを楽しんでいる間、男どもはどうしているかと言うと、新郎の家では男性達だけ集まり、これまた踊ったり歌ったりと男性同士でよろしくやっています。
よろしくやっている、と言うと変な印象を与えるかもしれませんが、アメリカ映画で観るようなストリッパー呼んで今夜は無礼講だぁ~!みたいな破廉恥なのはありませんよ。
ただし、このような伝統も今では変化してきていて、新郎側と新婦側が全員集って男女一緒にクナ・ゲジェスィを行ったり、結婚前夜ではなく何日も前に行ったり、実家でなくホテルで、民族衣装ではなく洋装のドレスを着る人もいます。
一時期は古臭い習慣としてちょっと下火になっていた気もしたのですが、近年は楽しいイベントとして逆に見直されていて、いかにオシャレなパーティにするかがブームかも。
衣装もドレスより伝統的なビンダッル(でもスタイリッシュ)を選ぶ人が以前より増えているようですし、可愛いクナ・ゲジェスィ用のグッズもどんどん作られているので、トルコに行く人は「冠婚葬祭グッズ屋さん」に行くと流行最新のクナ・グッズを見ることができますよ。
これはKちゃんのクナ・ゲジェスィで使った、チャイダチュラ用のキャンドル
ここのとこ定番になってきたグッズは、短いヴェール付きカチューシャ。
花嫁の赤いヴェールに合わせて、参加者もみんなヴェールっ娘になっちゃう☆っていう、なんか激しく自分大好き感が漂うアイテム。 Kちゃんのパーティには、これもちゃんと準備されてましたー。
クナ・ゲジェスィで歌う歌
クナ・ゲジェスィで花嫁を泣かせるために歌うもので一番有名な「yüksek tepelere」の歌詞、前に訳したものがあるので置いておきます。 もちろん歌われるのはこの曲だけではありませんが、一例として。
yüksek yüksek tepelere ev kurmasınlar
高い高い山に家を建てないでおくれ
aşrı aşrı memleketlere kız vermesinler
遠い遠い国に娘を連れて行かないでおくれ
annesinin bir tanesini hor görmesinler
母さんの大事な娘を ぞんざいに扱わないでおくれ
★uçanda kuşlara malum olsun
空飛ぶ鳥達よ伝えておくれ
ben annemi özledim
私はお母さんが恋しいと
hem annemi hem babamı
母さんと父さんとを
ben köyüm? özledim
私は村が恋しいと
babamın bir atı varsa binse de gelse
父さんが馬を持っていて 乗って来てくれたら
annamin yelkeni olsa açsa da gelse
母さんが船を持っていて 帆を立てて来てくれたら
kardeşim yol bilse de gelse
兄弟たちが道を知っていて 来てくれたら
★を繰り返し
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Kちゃん、末永くお幸せに~♪