■時代を超えて伝わる「情」 私たちはそれが一番大切なんです。

 色とりどりの幟が立ち並ぶ大阪・日本橋の国立文楽劇場。文楽の初春公演が3日から華やかに幕を開け、連日大勢の観客でにぎわっている。太夫、三味線、人形が三位一体となって繰り広げられる文楽の芸。そこには大阪人の情、日本の心が生きている。文楽太夫の最高峰、竹本住大夫さんとコンビを組む文楽三味線の実力派、野澤錦糸さん(52)は「日本人だったら文楽に描かれている情は誰にもわかるはず」と語った。(聞き手 亀岡典子)

 --お正月から文楽を見に行くというのは、とっても日本人らしいですね。劇場が近づいてくると、気持ちがワクワクしてきます

 錦糸 文楽のお正月は特におめでたい雰囲気がして、いいものですよ。初日の3日は劇場前で鏡開きがあって大サービスでしょ。劇場内に入ると、舞台の上方に大きな2匹のにらみ鯛が飾られています。初めての方はびっくりされるみたいですね。客席には着物姿の方も多いし、舞台の上も客席も季節感が感じられるのが文楽のいいところ。

 --私も8日に文楽劇場にうかがって、昼の部、夜の部と一日たっぷり拝見しました。お正月らしいおめでたい演目もあって…

 錦糸 幕開きの「二人禿(ににんかむろ)」なんかそうですね。京・島原の遊廓を舞台に2人の幼い禿が羽根突きに興じる姿から廓の華やかな様子が描き出されます。

 --錦糸さんの仕事始めも3日でしたか

 錦糸 初日は3日なんですけど、年末年始は家で稽古(けいこ)してましたね。初春公演は特別なんですよ。いつもの月だと、初日の前の日まで舞台稽古があるのですが、初春公演だけは暮れのうちに舞台稽古をすませてしまって、12月29日から1月2日まで正月休み。でも僕は間があくと忘れちゃいますから、自宅で暮れの大掃除の手伝いをしながらお稽古もしていました。貧乏性ですね。

 --今月は大曲「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」のクライマックス「御殿の段」をお勤めですね。「伽羅先代萩」は、江戸時代に伊達藩で実際に起こったお家騒動をもとにした曲。主人公の乳人政岡(めのと・まさおか)が、幼い鶴喜代君を敵方から守るため、日頃からわが子の千松に何かあったら身代わりになるよう言い含めている。鶴喜代君が敵方の持ってきた毒入り菓子を食べかけたところ、千松が身代わりに食べてしまって敵方に殺されるというお話です。住大夫師匠と錦糸さんの浄瑠璃を聴いていると胸がつまるようでした。千松がけなげで哀れで。

 錦糸 政岡もすごい女性ですよね。敵がいるときは、千松が殺されても顔色ひとつ変えない。誰もいなくなって初めてわが子の亡きがらを抱きしめ、母に戻る。母としての悲しみが噴出するんです。名曲中の名曲ですよ。

 --「でかしゃった、でかしゃった」と、政岡が千松の亡きがらをかき抱いて褒めてあげるところなんか本当に悲しいですね。先日聴かせていただいて、政岡って現代の働く女性とどこか重なり合うなと思いました。仕事と母の板挟みという点で。これほどの事態は現代ではありえませんが、子供が熱が出ても仕事があったりとか、そういう苦悩は似ている気がします

 錦糸 文楽に描かれていることは、設定や状況は現代とはかけ離れていても、日本人だったら必ずわかる情なんです。ええこと言うなとか、かわいそうやなあとか。文楽は情のかたまりで、それこそ私たちが一番大切にしているものなんです。

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【プロフィル】野澤錦糸

 のざわ・きんし 昭和32年6月11日、東京生まれ。52歳。国立劇場文楽研修3期生。53年、人間国宝だった四世野澤錦糸に入門、野澤錦彌を名乗って初舞台。平成10年、師の名跡を継いで五世野澤錦糸を襲名。若いときから将来を嘱望される存在で、平成7年以来、人間国宝・竹本住大夫の三味線を勤めている。平成5年度「咲くやこの花賞」(大阪市)、9年度「芸術選奨文部大臣新人賞」など受賞多数。

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