代表 白崎一裕

 いま、マスコミと出版界で話題となっている、経済学者トマ・ピケティの『21
世紀の資本』だが、私は、以前からピケティにはおおいに批判的である。その理由
は、簡単に言えば、銀行マネーと金融資本に関する分析が不十分!という点にある。
また、ピケティは、経済成長が前提となっており、その点の現状認識も間違ってい
ると思う。もし、私に、万が一暇な時間があれば 、彼の論理を批判することにしよ
うと思う。が、しかし、そんな時間もなさそうなので、気がついたところから疑問
を出しておきたい。

 時事通信の2015年1月31日配信の記事「消費増税より若者優遇を=格差解
消訴え─ピケティ氏会見」によれば、来日したピケティは、『質疑応答で、「万人
に課す消費税(率)を上げても、あまり良い結果を生んでいない。日本の財政再建
は、高所得層に高税を課したり、富を持たない若者や中低所得層の所得税を引き下
げたりする取り組みが優先事項だ」と語った。』ということらしい。このなかで、
問題なのは、「若者や低所得者の所得税を引き下げる取り組み」という部分のとこ
ろだ。消費税率アップを批判するのはいいだろう。高所得 者の資産課税も、まあ、
いいだろう。が、しかし、若者を含む低所得層の課税引き下げがいったいどれほど
の効果をもたらすのだろうか?ここ10年ほどの、大きな課題は、ワーキングプア
層の拡大であることは読者もご存知だろう。生活保護水準にも満たない所得しかな
い層の拡大である。課税総所得195万円以下の金額の所得税は5%とある。年間
97,500円であり、一月あたり8,125円である。これをすべて非課税にする
としよう。もちろん税金は少ないほうがいいに決まっている。しかし、この「減税」
がどれほどの購買力の増加を生むのか疑問だ。ちなみに、ベーシックインカムなら
月8万円~15万円の所得保証になる。これに対して、富裕層からの課税分を「社会
保障 費」に回して若者・低所得者の底上げにつなげればいいだろう、というかもし
れない。しかし、複雑な制度認定で行政から支給される各種社会保障費にどれほど
の効果があるか、これまた疑問である。

 ピケティが批判する富の格差は、銀行を中心とする金融システムから生じている
マネーの機能不全が原因で拡大しているのだ。また、拡大のみならず、銀行マネー
社会は社会全体を破壊してしまう危険性を有している。これら諸問題は、ピケティ
の提案する累進性の強化や税制改革ではとても解決できない。ここは、通貨改革に
よりマネーシステムを変革して、政府通貨を発行し、その一部をベーシックインカ
ムにあて、また、他の部分で社会保障政策などの公的事業に使っていくという こと
が必須なのである。みなさん、決してフランスのエリート学者、ピケティにだまさ
れてはいけない!