集団的自衛権は自衛隊を米国の戦争に利用させるシステムにすぎない。

2013-01-11 タグ: 孫崎享


安倍政権で、最も重視されるのが「集団的自衛権」である。

日本の国益に反する集団的自衛権は自衛隊を米国の戦争に利用させるシステムにすぎない
日米安全保障関係の最大の問題点は極めて重要な案件について、しばしば目的内容国民に正確に伝えることなくとり進めてきたことにある。集団的自衛権もまた、この範疇に入る。
小泉元首相は2004年6月27日のNHK討論番組で、「日本を守るために一緒に戦っている米軍が攻撃された時に、集団的自衛権を行使できないのはおかしい。憲法を改正して、日本が攻撃された場合には米国と一緒に行動できるような形にすべきだ」と述べた。

集団的自衛権の是非を考える時、日本人の多くはこの小泉元首相の論理を判断の基準にする。しかし小泉元首相が述べた「日本を守るために一緒に戦っている米軍が攻撃された時に、集団的自衛権を行使できないのはおかしい」という表現は間違っている。


では条約上明白なことを何故今必要と述べているのかそれは目指すものが別に存在し、それを一般国民うけする台詞で容認させようと試みているからである。2007年4月発足した柳井元駐米大使を座長とする有識者会議は集団的自衛権行使に関する四の個別事例研究を進めた。これが集団的自衛権の目指すものと言ってよい。
(1)同盟国を攻撃する弾道ミサイルをMDシステムで撃破する
(2)公海上で海上自衛隊の艦船と並走する艦船が攻撃された場合、自衛艦が反撃する
(3)陸上自衛隊がイラクで行った復興支援活動のようなケースで、自衛隊と一緒に活動している他国軍が攻撃された際に駆けつけて反撃する
(4)国連平和維持活動(PKO)で、海外で活動する自衛隊員が任務遂行への妨害を排除するため武器を使用する。
 

この有識者会議は小泉元首相のいう「日本を守るために一緒に戦っている米軍が攻撃された時には日本は行動をとること」とは別の提言をしている。当然である。現行安保条約に含まれていることを必要だと提言するはずがない。


集団的自衛権では有識者会議は(3)(4)で復興支援活動やPKOに言及している。自衛隊が復興支援などで海外に展開することについては米国軍部に次の狙いがある

「陸上自衛隊がイラクで行った復興支援活動のようなケースで、自衛隊と一緒に活動している他国軍が攻撃された際に駆けつけて反撃する」は何を意味するのか。日本が純粋に復興支援を行っていても、米国は敵と交戦を行っている。純粋に復興支援を行う日本と,交戦をしている国とでは敵の対応が異なる。米国と一緒に交戦することで,以降日本は交戦部隊と位置づけられていく。

「新ガイドライン(97年日米間で合意)に盛り込まれた国連のPKO、人道支援、災害援助活動はいずれもグローバルな日米協力を視野に入れたものである。このような頻繁に起こり、緊張度の低い作戦行動を共同で行うことは、同盟の性質を転換させるために不可欠な実際上の手続き、作戦面での政治プロセスを制度化する可能性を持つからである。」(元国防省日本部長ポール・ジアラ著「新しい日米同盟の処方箋」、1999年) 米国は自衛隊に復興支援等で日米協力をさせそれを次第に軍事協力にすることを意図している
それが有識者会議の(3)、(4)の狙いである。

二〇〇五年日本の外務大臣、防衛庁長官と米国の国務長官、国防長官の間で締結された「日米同盟 未来のための変革と再編」は日米軍事協力の範囲を日米安保条約の「極東」から「世界」にし、方法を「国連の目的と両立しない他のいかなる方法も慎む」から「国際的安全保障環境の改善」に変更した。集団的自衛権をめぐる動きは、まさに「日米同盟 未来のための変革と再編」を日本の法制面などで整える動きと言える。従って、集団的自衛権の是非には今日の米国戦略の評価を行うことが不可欠である。


今日の米国戦略は世界の平和と安定に貢献しているか、否か、それが今問われる。
(1)現在米国戦略はテロとの戦いを柱としている。しかし、テロ行為は通常政治的目的のため行われている。外交的手段で解決を図る道がある。 この解決を充分に追求することなく専ら軍事手段で解決を図るのは間違っている。
(2)「ウェストファリア条約」の理念(主権を認め、武力を抑制)は国連憲章に活かされ、日米安保条約も含め、紛争に対応する従来の基本的理念である。しかし「日米同盟 未来のための変革と再編」のめざす「国際的安全保障環境の改善」は将来の脅威を除去することを目指し、むしろ国際社会で不安定を拡大する行動である。





集団的自衛権は日米軍事協力の在り方の変更を目指している。一つは範囲である。安保条約では、「日本国の施政の下にある領域」とされている。今一つは場合である。安保条約では「一方に対する武力攻撃」という場合に限定している。これに対して、有識者会議は「ミサイル防衛のケース」、「公海上併走している時」、「イラクのような場合」としている。
提言の一つミサイル防衛は一見もっともらしい。「北朝鮮が米国に向けミサイルを発射し日本の上空を飛んでいるのに黙って見過ごしていいか?」
こんなバカなことは起こりえない。日本で配備の迎撃用ミサイルは100キロメートルか200キロメートルしか届かない。米国へむかう大陸間弾道弾は1000キロ以上の上空を飛ぶ。届かない迎撃用ミサイルでどうして、撃ち落とせるか。さらに北朝鮮が米国にミサイル攻撃する際、最短距離をとる。地球儀で見ればわかるが、ミサイルは日本上空でなく、ロシア上空を越えて米国に到達する。いつ打ち落とすのか。米国上空ではない。ロシア上空ではない。だとすれば、ミサイル発射前に攻撃することしかない。北朝鮮内にあるミサイルを攻撃すれば、当然北朝鮮は200-300実戦配備されているノドンを日本に発射する。日本にこのリスクをとる国益はない。
現在日米間には日米安保条約がある。この条約の第五条は「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と規定され、「日本を守るために一緒に戦っている米軍が攻撃された時には日本は行動をとること」は条約上の義務になっている。