2016年2月16日(火)

ビルボードライブ東京で、ホセ・ジェイムズ(2ndステージ)。

ビルボードライブの冊子の巻頭に載っていたホセの紹介記事に「ジャズに軸足を置きながら、R&B、HIP-HOP、ロック、フォーク、そしてエレクトロまでも取り込み、常に新たなステージを目指しているのが彼の最大の魅力。」とあって、その端的な一文が今回は特に核心をついたものに思えてくるのだった。

そう、ホセ・ジェイムズは「常に新しいステージを目指している」。彼はけっこう頻繁に来日してビルボードライブで公演を行なっているが、そのモード・構成・編成は毎回異なっている。ジャズの色合いの濃い公演を行なうときもあれば、ソウルの色合いの濃い公演を行なうときもある。因みに前回はビシッとダーク・スーツでキメて、ビリー・ホリデイのカヴァー集の曲を中心に全編ジャジーな落ち着いたトーンで迫っていた。

ビリー・ホリディのカヴァー・プロジェクトがジャズ方面における彼のルーツ表現のひとつだったとするなら、(橙系のライダースに模様入りパンツという)衣装も髪型も180度逆方向に振り切っての今回は、ざっくり言うならヒップホップ方面のオレ表現。前回がジェントリーなら今回はファンキー。スタンドアップマイクにはわざわざ星条旗を巻き付けてたりして、そのへん含め、いかにも攻めてる感じを表わした2016年モードのホセだった。

メンバーがステージに登場する前に、まずはサム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」(前回公演の確か最後に歌われもした)が流れ、映像が映し出された。いろんな人たちが自分の信じる言葉を書いたボードを見せ、それを繋げていく映像。PEACE・POWER・CHANGEとも映ったが、新作のテーマはそこに重なるものとなるのだろうか。果たして星条旗もそのへんに絡めてのものなのか。

そして開演。今回のメンバーは、ホセ、大林武司(Kye)、ネイト・スミス(Dr)、ソロモン・ドーシー(bass)。
「今のメンバーが最高で、まるでドリームチームだ」とは前パブかなんかで目にしたホセの言葉だが、演奏が始まってその意味がわかった。まず、ネイト・スミスの変則リズムが怪物的。お馴染みのソロモン・ドーシーくんはベース以外にコーラスつけたりリード部分を歌ったりギター弾いたりとこれまでの何倍も大活躍。そのファンキー傾向に呑まれることなく流麗に、かつ控えめながらも主張するところはしっかりしながら味を出すのが大林武司。3者3様。その合わさりが面白い。

で、総体としての感想を先に書くなら、今回の公演、間違いなく過去最強。それはもう、ちょっと衝撃受けたほど。ホセさん、もしかしていままで本気出してなかったの? とか思えたくらい。

ショーってのは大体、後半からだんだんと熱を帯びてく作りにするものじゃないですか。ところが今回のものはそうじゃなく。序盤の曲からホセさん、延々と続く生声スクラッチ。いままでもアレ、見せ場で度々やってはいましたよ。記憶に間違いなければ確か前回のビリー・ホリディ・カヴァー公演のときですらも終盤にちょろっとやってみせていた。けど、今回のその長さはこれまでの比じゃなくて。終わりがないんじゃないかってなくらい、ネイトの妙ちきりんなリズムに絡めて延々としつこくアレをやりながら、手ではレコードをスピンする(真似をする)。で、そこからさらに今度は熱を込めたラップへと展開。それ、いままでのようなクールなお洒落ラップではなく、オレだって本気出したらこんなだぜってな念を感じるほどの熱いもので。もしかしてホセさん、昼間、ホテルでグラミーの生中継見てケンドリック・ラマーのパフォーマンスに刺激されたんじゃないか… とか思っちゃうくらいの熱量でね。いや、凄かった。

言うなれば、それ、ジャズ+ヒップホップの新次元。で、僕はこう思ったな。絶対ホセ、ケンドリック・ラマーの新作を聴いての刺激・影響がいまの新モードに繋がってて、恐らく次作にもそれが繋がってるんだろうと。今のアメリカについていろいろ考えてて、それについての言いたいことはだいぶヒップホップ側に振らなきゃ表現しきれないんだろなと。言わば自分内揺り戻し。

まあそんな感じで、この日は序盤から熱量がとてつもなく。そして中盤以降ではその新作(秋頃出るっぽい。タイトルは『LOVE IN A TIME OF MADNESS』だそうな)からの新曲を続けて3曲披露したりも。そのうち「I'm Yours」という曲は、それこそ「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」っぽいメロも微妙に入ったあたたかなラブバラッドで、途中、ドーシーくんがいい感じで歌ったり。それから1曲おいてあと1曲はディスコ~ファンク系の感じでありました。

そしてさらに、デヴィッド・ボウイの「世界を売った男」をロックな鳴らし方でやり(これはまあ想定内の出来ではあったかな)、ラストは「トラブル」!。お馴染み曲ながらもメンバー変われば出音も変わるもので、これ、過去最強の厚みある響きだった。それに何より、ホセの歌声ね。その出力は以前に比べてずっと大きく、ああ、歌手として堂々と、ずいぶん感情入れ込んで歌うようになったんだなーと。そこにチェンジと経験を積み重ねがらもとにかく近道などしないでここまで続けてきた、そのことの自信なんかも見て取れて、それも含めてめちゃめちゃ進化の感じ取れる公演だったわけです。

いやー、興奮したなー、本当に。昼間のグラミーのラマーのパフォーマンスも凄かったけど、負けじと夜のホセの公演も凄かった。帰ってしばらく寝付けなかったもんね。新作が待ち遠しい限り。