2月の頭頃から先週まで、1ヶ月ちょっとの間に、7枚のCDのライナーノーツを書いた。

これは、自分の音楽ライター歴において、かなり多いほうだ。


雑誌に書くのと違い、やはりライナーとなると、特別なモードになる。

雑誌に記事を書くより気合が入る……というと、じゃあ雑誌には気合が入らないのかと突っ込まれそうで語弊があるのだが。

なんかこう、ちゃんと準備を整え、さあ書くぞ!と自分の気を高めた状態でガッと集中して取り組まないと、ライナーは書けないのだ。


先月、ソニーの洋楽の方々と食事会があり、その時に、こんな質問を受けた。

「内本さんは、何に書いている時が一番楽しいとか、これに書いてる時は気持ちが上がるとか、そういうのってあるんですか?」。

ある。そういうの、確かに、ある。

雑誌に限って考えても「この雑誌なら喜んで書きたい!」とか「この雑誌はまあ……」とかいろいろあるのだが、それはそれで書き出すとキリがないので、ここでは置いとくとして。

「やっぱり、ライナーは特別ですよね」。僕はそう答えた。


ライナーを書くというのは、やはりモチベーションがあがる。

なぜか。

まずひとつは、雑誌の記事と違って長く残るものだから。

1週間とか1ヶ月で新しい号が出る雑誌と違い、CDの場合、なんらかの事情で切り替わらない限り、ずっとその時のライナーノーツがそのまま使われることになる。

いや、これはこれでいろいろ思うことがあって、例えば最近よくあることだが、音がまだ未着にも関わらず進行上の都合でとりあえず書き上げなくてはならなかったライナーがそのままずっと使われるというのはいかがなものなのかとか、DVDや追加収録曲が増えた状態のスペシャル・エディション盤が元の盤のライナーと一緒でいいのかとか、CDが出てから数ヶ月経ってそのアーティストを取り巻く環境や状況がどんどん変化しているのに最初のままでいいのか、ライナーは更新しなくていいのかとか……いろいろ思ってることはあるんだが、それは論旨が異なるのでまた別の機会に書くとして……。まあとにかく“長く残るから”というのが一点。


もうひとつは、読み手の気持ち、アーティストに対する思いが、雑誌の記事とは違うから。

例えばAというアーティストの記事を僕がある雑誌に書いたとして、読者はそのAの記事が読みたいからその雑誌を買うなんてことはまずない。たまたまその雑誌の特集かなんかに惹かれてそれを買い、ペラペラとページをめくっている中で音楽ページをあけたらAというアーティストの新作紹介が載ってた……というのが普通だろう。だからもちろん、そういう人に興味を持ってもらえるよう、わかりやすく、入りやすく文を書くことを意識するわけだが。

一方、CDのライナーノーツはといえば、これはそもそもそのアーティストのことが好きで(あるいは興味をもって/知りたくて)そのCDを買っているわけだから、ライナーを読むという行為の真剣さも違うはず。

書く側としては、それに応えたいとも思うわけで、だからそれなりに気合が入るのだ。


輸入盤のほうが安いけど、日本盤を買う。

例えば地方に住んでて、外資系のCDショップが現実的に近くにないとか、そういう理由は別にして。

両方売ってる際に、わざわざ日本盤のほうを選んで買うとしたら、それは日本盤のみのボーナストラックを聴きたいからか、歌詞の対訳やライナーをちゃんと読みたいからだろう。

いろんな人と話してみると、「対訳とかライナーをちゃんと読んでる人なんて、そんなにいないんじゃない?」と言われることがある。「CD買っても、解説なんか読んだことない」と言う人もいた。

ボートラはともかく、対訳やライナーを必要としない人は多くいる。

それはわかっている。承知している。

が、割合としてどのくらいなのかはわからないけど、それを必要としている人もいる。確実にいる。

解説を読みたいから、あるいは歌詞の対訳を読みたいから。だから日本盤を買うという人は……仮に必要としないという人の割合より少なかったとしても……絶対、間違いなくいるのだ。


僕は、まだこんな仕事をしてなくて、ただの一音楽ファンだった頃、CD(やレコード)を買ったら、そのライナーを読むのが楽しみだった。

CDを聴くという行為と、ライナーを読む、または対訳を読むという行為が、1セットとしてあった(今もある)。

ライナーを読んで、そのアーティストの詳しいことを知ったり、どんな思いでその歌詞を書くに至ったかを想像したり、そのシーンがどんなことになっているかを知ったりして、ワクワクしていた。

どんな音楽が聴こえてくるのだろう、というワクワク感と同じように、どんなことがライナーに書いてあるのだろう、というのもやはりワクワクすることだったのだ。

だから、つまらないライナーには、やはりガッカリした。

誰もが知ってる当たり前の情報だけのものとか、その人の思い入れだけが延々書いてあるだけで知りたいことが何も書かれてないものとか、逆にチャートの数字ばかり書いてあるもの(チャート・マニアには、これは嬉しいのだろうが)とか。そういうライナーがついてくると、なんか、外れくじを引いたような気になった。


で、僕が学生だった頃と今とじゃもちろん時代が違うし、当たり前だがあの頃はiPodなどデジタルのディバイスなんかなかったので、CDというパッケージ商品の価値そのものが今とは全然違うけど。

でも、それを承知の上でというか、それだからこそというか、ちゃんとした解説を読みたいという人はいるわけで。

ダウンロードするのではなく、輸入盤を買うのでもなく、解説を読みたいから日本盤を選ぶという人も確実にいるわけで、書く側になった今は、そういう思いに全力で応えたいと、僕はそう思って書いている。


ナハハ。なんか熱くなっちゃったな。

ま、なにしろ、そんな思いもあって、ライナーはかなり気合入れて書いてるってことなんですよ。


ということで、自分としては、「このライナーは傑作でしょ」と思われるものを書きたいと常々思って取り組んでいるわけだが、そうは思ってても、やはり、完璧だ、自信作だと思えるものが毎回書けるわけではなく。

特に最近は、多くのアーティストがCD発売日の1ヶ月前とか、へたすりゃもっとギリギリで音を完成させたりするので、ライナーの締め切りの時点で数曲しか聴けてないということがよくあるのだ。

となると、聴けてない曲については正確に伝えられないし、ゲストがいたり、重要なプロデューサーが手掛けたりとかしていても、それについて一言も触れられない場合なんてのも出てくる。

それこそ、リンジー・ローハンのこの前のアルバムなんかは、ライナー執筆の時点でたったの1曲しか届いてなくて、それで僕は苦肉の策として、「ブログでライナーノーツ」と題して、このブログでライナーの補足をするという方法を見出したわけだ。

これが最良の策なのかどうかはなんとも言えないが、今のところ、これ以外に対応する術が見つけられないので、しばらく僕はこのやり方をしていくと思う。

ま、そんなのもありつつ、でも基本的には、「大好きなこのアーティストのライナーが書けて、僕ったら幸せだな~」なんて思いを抱いて、いろいろ書いたりしているわけであります。はい。


長くなったが、最後にこの1ヶ月ちょっとで書いたものについて簡単に。



リトル・ウィリーズ 『リトル・ウィリーズ』 (発売中)


これは書きやすかった。

去年の段階で、全曲試聴することが出来たし(その時点で逸早くこのブログに印象などを書いていたし)、ライナーを書く時には手元にも音が届いていた。その上、執筆前にメンバーのリチャード・ジュリアンに電話インタビューすることが出来て、全曲についてのコメントももらっていた。

なので、数時間で一気に書き上げた。約5200字。



Ne-Yo 『イン・マイ・オウン・ワーズ』 (発売中)


これも書きやすかった。

というのも、去年の11月の段階で、マイアミで彼のライヴを観ることが出来、その翌日にはしっかりインタビューすることも出来たからだ。

つまり、新人ではあるが、彼の人となりを僕は早い段階で把握することが出来ていた。

ただ、そのマイアミでの取材時には2曲の完成版と3曲の一部だけが手元に届き、それ以外の収録曲が完パケて手元に届くまでにはずいぶん時間を要したのだが。しかし、ライナー締め切り日の直前に彼が来日し、そこで全曲も届き、さらに再び取材することも叶ったので、書き手としてはほぼ理想的な状態にあったと言える。彼のコメントも混ぜながら、1日半で書いた。

今の時点で、Ne-Yoについて、どこよりも詳しく、人となりや基本的な情報が書かれているのがこのライナーであると自画自賛しておく。けっこういいライナーが書けたと自分では思ってるんだけど。約7600字。



クリス・ボッティ 『トゥ・ラヴ・アゲイン』 (5月発売予定)


これは正直、けっこう苦労して、1日では書き終わらなかった。

というのも、CDは聴いていたけど、僕はまだクリス・ボッティのライヴを観たことがなく、もちろんインタビューなどもしたことがなかった上、めちゃくちゃ思い入れが強いアーティストであったというわけでもなかったから。それでも引き受けることを決めたのは、今作にはスティング、ポーラ・コール、マイケル・ブーブレ、ジル・スコット、スティーヴン・タイラーなど、大好きなアーティストが多数参加していたからなのだが、音を聴いたらそのコラボレーションの仕方も、ボッティのゲスト陣に対する思いも、そしてもちろん彼のトンペットの鳴りも素晴らしく、ライナーを書きながらどんどん思いが入っていった。やって、よかった。約5500字。



プリンス 『3121』 (3月20日発売)


プリンスのライナーを書くのもこれで4作目とはいえ、やはりものがプリンスなだけに、書くのも緊張する。マニアックなファンが多いからね。っていうか、そういうことじゃなくて、自分にとっての神様みたいな存在だから。存在がデカすぎちゃって、恐れ多い感じなのだ。が、今回は発注されてから締め切り日までが短かったので、逆によかった。慎重に言葉を選び、丁寧に書いたらもっと時間がかかってたところを、デッド・ラインが早かったため、ノリと勢いに任せて一気にダッと書いちゃったのだ。時間かけりゃいいものが書けるとは限らないですからね。

ただ、後半で1曲1曲について簡単に触れているのだが、これはあってよかったのかどうなのか、自分ではまだなんとも言えない感じがある。

というのも、そこでも書いたが、シングルの「テ・アモ・コラソン」と「ブラック・スウェット」以外の曲は全て試聴会の場で一度通して聴いただけで、その時のメモ書きをもとにしたものだから。その試聴会の段階では、まだ僕がこのライナーを書くということは決まってなくて、どこかの雑誌のレビューを書く時のためのことを考えてメモっていただけだったのだ。って、なんか言い訳みたいだけど。ま、改めて盤になったのを聴いてみて、ちょっと書いたことと違ってたかなという曲があったら、またこのブログにでも書きますわ。約7500字。



リチャード・ジュリアン 『スロー・ニューヨーク』 (4月12日発売)


これは、早くから全曲が入ってまとまったものを聴くことが出来ていたし、先に彼の電話インタビューも行なっていたので、そういう意味では書きやすかった。が、自分的に、聴いて思いが強く入りすぎたため、まとめるのに時間を要して、結局2日かかってしまった。けっこう長文にもなってしまったが、まあ、いいライナーが書けたんじゃないかなと自負してる。自信作です。約7600字。



リアーナ 『ガール・ライク・ミー』 (4月上旬発売予定)


聴く層のことも考えて、ヘンに丁寧にカタい文体で書くよりノリで書いてしまうほうを選んだ。なので、1日でダッと書いた。このライナーを書いている時点で(というか、今現在も)届いているのは5曲のみで、それ以外の曲はまだ聴けてない。またクレジットも未着で、プロデューサーやゲストについて触れられなかったのが心苦しいのだが、それについては改めてこのブログに書くつもりだ。

そんなわけで、ライナーとしての完成度はあんまり高くないかもしれないけど、必要とされる情報はそれなりにおさえたつもり。

で、実は昨日、ナイキのイベント出演のため来日してたリアーナに会ってインタビューすることが出来た。それについては次に書きます。約5800字。



トリニティ 『ラガ・ホップⅡ~ドゥ・オア・デア』 (4月12日発売)


これも聴く層のことを考えて、カタい文体は避け、わりとラクな感じで書いた。収録曲と順番がまだこの時点では完全に決まっていたわけではなく、クレジットも未着で弱冠の大変さはあったが、2月にインタビューしていたので、彼女の言葉からわかる範囲で制作陣のことにも触れることが出来た。やはり事前に本人の話を聞けたりすると、文もそれなりのふくらみが出て、いい。本人の言葉ばかりに頼ったライナーというのは、読んでいてもどうかなと思ってしまうのだが、何もないよりはあるほうが深いところで書けるというのもまた確かなことではある。約6700字。