癌の発見は、自ら触診でみつけた。

しかし、この時点では、その固いものが癌とは思ってもいない。

まだ、何も知らないところから、癌との闘いは、始まった。


(回顧録:2007年3月8日夜のできごと)

大学病院の入院病棟、夜八時半。

患者達は、とっくに消灯し、寝に付かなければならない時間だった。


私は、整形外科の入院病棟に居て、右足首には固くギプスがまかれている。

車椅子で移動をする不自由な入院生活中だ。


そんな中、私は、寝付けるはずもなかった。



「大変なことを見つけてしまった。」



見つけてしまったことは、直感的に、「非常にまずい事なんだ」と解る。 それは、



「睾丸が、右と左で大きさが全然違う。。」



右側が、硬く小石のように小さくなっている。



「実は、昔からこんなだったのかもしれない、、、」


と自分にうそぶくが、大変な事だと思っている。


左右で大きさが違うはずがない事は、解っている。

もしかして、右足首の骨折手術の際、尿チューブを付けた際、バイ菌が入ったのかもしれない。



未だ続く微熱は、これが原因なのだろう。


誰かに相談したくてたまらないが、巡回する看護師には恥ずかしくて言えない。

部位が睾丸だから。



「もしかして、とんでもない病気だったら、どうしよう。」



気味が悪く、不安で仕方がない。押しつぶされそうな気持になっている。



こういう時、人間の心は弱いものだ。

現実を受け入れられない。

全力で否定している自分がいる。


「多分、大丈夫だろうから、取り敢えず、今日は誰にも黙っていよう。」


「もしかしたら、明日は、元に戻ってるかもしれない。」


きっと、そうに違いないと信じて寝ることにした。


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