学者の良心 | 語り得ぬものについては沈黙しなければならない。

学者の良心

福島原発事故への対応に当たるため、3月16日に内閣官房参与に就任した小佐古敏荘東大大学院教授が、昨日、菅直人首相宛てに辞表を提出。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819481E0EBE2E0978DE0EBE2E6E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2

小学校などの校庭利用を制限する限界放射線量を年間20ミリシーベルトに決めたことについては「20ミリシーベルト近い被曝(ひばく)をする人は約8万4000人の放射線業務に従事する人でも極めて少ない」と疑問を投げかけた。同時に「容認したと言われたら学者生命が終わりだ。自分の子どもにそうすることはできない」と見直しを求めた。
(日本経済新聞4/30)

気象学会理事長が研究者の放射線物質拡散情報公開自粛を要請したが、学者たちはこれに反発
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011042901000402.html

(新野宏理事長日本気象協会理事長(東京大教授)は)3月18日付で、学会のホームページで学会関係者が不確実性のある情報を出すことは「いたずらに国の防災対策に関する情報を混乱させることになりかねない」と指摘。「防災対策の基本は信頼できる単一の情報に基づいて行動すること」と、放射性物質の拡散予測結果などの公表を控えるよう求めた。(中略)これに対し「危機的状況だからこそ予測を発表して政府を動かす必要がある。科学者としての各人の役割があるはずだ」と言うのは気象学会員の山形俊男東京大教授。「学会は官僚主義的になってしまっている」と指摘
(東京新聞4/29)

ちなみに、理事長が出した文書はこれ。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj/others/News/message_110318.pdf

僕は少しほっとした。

僕は、基本的には学者は現実政治に関わるべきではないと思っている。
現実政治というのは利害関係であるわけで、学問の世界に利害関係が介入することは大変よろしくないと思うからだ。
(そのいい例が原発御用学者たち。電力会社からがっぽり寄付をもらい、なになに委員会とかの肩書きまでもらって原発を擁護している)

しかし、自然科学、社会科学などの多くの学問分野は、いまや、社会システム、産業システムと深く関わっていおり、学者が研究したことは、単に学会の中にとどまることはなく、経済界や役人、政治家などの手によって、社会に大きな影響を及ぼす。

だから、せめて、学者としての良心は持ち続けてほしい。

小佐古敏荘東大大学院教授の会見要旨は、東京新聞(4/30)には、こう書かれている。
「この数字(年間20ミリシーベルトの被曝)を、乳児、幼児、小学校に求めることは、学問上の見地からも、私のヒューマニズムからも受け入れがたい」

小佐古敏荘氏は、日本保健物理学会、日本原子力学会、日本放射線影響学会、日本ラジオアイソトープ協会、日本応用物理学会・放射線部会に所属し、研究分野は、
放射線安全研究(ICRP、IAEA等とリンクした、放射線防護、放射性廃棄物安全基準の研究放射線遮蔽研究(モスクワ物理工科大学等との原子炉施設遮蔽実験、ほか加速器施設での実験的研究)
放射線線量評価(環境放射線・ラドン、広島・長崎の原爆線量評価、体内極微量放射能線量評価等)

まさに、放射性物質が人体に及ぼす影響について、第一人者の研究者だ。

そんな研究者が、良心にしたがって声を上げる。
これには、ほんとうに少し救われたような気がする。

かつて、アインシュタインがバートランド・ラッセルとともに核兵器の廃絶や戦争の根絶、科学技術の平和利用などを世界各国に訴える「ラッセル=アインシュタイン宣言」を提言したことはよく知られている。
(ちなみに、全然関係ないが、バートランド・ラッセルという人は、僕の尊敬する哲学者ウィトゲンシュタインの先生でもあった人だ)

「政府に逆らうと研究費が…」などという研究者も多いと思う。
だけど、良心だけは捨てないでほしい。


あと、これは笑えない笑い話。

「これは私が世界で始めて研究して」「これが私が世界で始めて発見して」などという自慢が続くのがおかしいから暇な方はどうぞ。



今回の福島原発の放射線線量率について、栃木、群馬、茨城等のレベルは非常に体が元気になって、免疫系、生理系、代謝系、脳、中枢神経系、筋骨格系が大変良い状態になり、持病のある人は改善され、予防医学系にも効果があって、健康寿命を著しく延長させる。それが医学的科学的真実なんです。


…だって。

ちなみに、肩書きは「東京大学 医学博士」と書かれており、公式サイト(http://yasuhiro-ina-dmsc.jp/index.html)のプロフィールにもそう書いてあるが、東京大学のデータベースで調べても、研究者、教員としての稲恭宏という名前は出てこない。

あと、この人、とちぎTVにも出てる。



「(政府の暫定基準についての食品出荷規制について)全くナンセンスで、むしろ食べて良いことはあれ、放射線による悪い影響は一切ありません
「政府がやることは、一生懸命頑張っている現場の人たちを支援して、消防隊も自衛隊もみなさん心配はない。敷地内ですら、私の低線量~~(聞き取れない)の線量域の中に入っていて安全です
原子炉本体が吹き飛ばない限りは今の生活でまったく放射線に対する影響、心配はありません
「湯気のように出てくる放射性物質は(中略)全く心配要りません」


ぶったまげたなあ。

番組のテロップでも「東京大学 医学博士」と出して、「東京大学の稲恭宏氏」とアナウンサーも紹介してるけれど、ちゃんと確認とったんだろうな?

とちぎTVに問い合わせのメールを送ったところだ。


さてと。

昨日のブログで書いたように、総務省コンプライアンス室長の郷原信郎氏に、総務省の流言飛語対応要請について、twitterで次のような質問をした。

RT @nobuogohara 総務省の流言飛語対応要請。「テレコムサービス協会」のwebsiteには、「行政機関から削除等対応の要請を受けた情報等」として、明らかに「真実性が問題となる情報」が掲載されていますが、これは私の間違いでしょうか? http://p.tl/_CLX

回答してくれないので寂しい。