ついに始まった言論統制 | 語り得ぬものについては沈黙しなければならない。

ついに始まった言論統制

総務省が、インターネットプロバイダなどに対し「ネット上の流言飛語」に対して「削除を含め、適切な対応をとることを要請」した http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_01000023.html )ことは4/22に書いた。

そもそも、この要請の根拠となっている「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」 ( http://www.telesa.or.jp/consortium/illegal_info/pdf/20100907guideline.pdf )とは、「違法な情報~~」という表題からもわかるように、猥褻、児童ポルノ、売春防止法、出会い系サイト規制法、薬物関連、振り込め詐欺関連、携帯電話不正利用防止法などの「法令違反」に対応するためのものであり、これを「流言飛語」に適用するというのは拡大解釈も甚だしく、「表現の自由」を冒す憲法違反などという以前に「要請」としても体をなしていないと僕は思ったのだった。

ところがどっこい、笑い話では済まされない。

この「要請」を受けた「社団法人テレコムサービス協会」のWebsSiteを見てみよう。
http://www.telesa.or.jp/taisaku/
3月24日、あるコミュニティサイトの投稿に対して「事故を起こした原発の、原子炉製造メーカーについての投稿記述が事実でないため、削除されたい」という要請があった。

間違ってはいけないのは、これは、その原子炉製造メーカーからの要請ではなく、行政機関(つまり国)からの削除等対応の要請である。
(行政機関から削除等対応の要請を受けた情報等について、関係の事業者等が、「インターネット上の違法な情報への対応に関するガイドライン」や約款に基づき、自主的に削除等の対応を行ったものを、当該事業者等から情報提供いただいたもの、と書いてある)
つまり、国が「特定企業についての情報が間違っているからネットの書き込みを削除しろ」と言ってきたのだ。
はっきり言っておくが、お前らにそんなこと言う権利は一切ない。

ていうか、これじゃあ行政機関とその原子炉製造メーカーが深い利害関係でつながってるってことがバレバレだね!

産官馴れ合い体質を自分でばらしちゃったね! ところでそのメーカーってどこ?

ちなみに、福島第一原発プラントの「主契約者」(まあ製造元ってことだが)は、1号機はGE、2号機はGEと東芝、3号機は東芝、4号機は日立だ。
http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/intro/outline/outline-j.html

要請を受けた「社団法人テレコムサービス協会」の会員企業も、さすがにそんな理不尽な要請には従えない。
「内容を確認するも、削除基準に抵触するものではないため削除せず」という適切な対応をした。

他にも、行政機関(国)からの要請として「震災後の死体等が写った画像が掲載されていたため、削除されたい」などがある。
これも滅茶苦茶だ。

つまり、エログロについては、映画なんかだと自主規制団体があって、ここはモザイクを入れようとか、ここは芸術だからOK、という風に自分たちで規制している。
ネットの場合は、たぶん規約に公序良俗云々と書いてあるのだろう。

その線引きを、各プロバイダがやるのは問題ない。
しかし、エロは猥褻図画とか児童ポルノなどの法律があるからまだしも、死体の写真について国につべこべ言われる筋合いはない。
これも、勘違いしてはいけないところだが、亡くなった方の遺族が名誉毀損や民事とかで訴えるというのは当然その権利があるわけだし、良識的に考えて「これは酷いだろ」というような死体写真がネットに載っていたら、僕だって腹立たしい。でもそれは、決して国家が口を出すことではない。

4/8に総務省コンプライアンス室長の郷原信郎氏が発表した「「東日本大震災に係るインターネット上の流言飛語への適切な対応に関する要請」について」という文書がある。( http://www.soumu.go.jp/main_content/000110859.pdf



それにはこう書いてある。
「わいせつ物、児童ポルノ、規制薬物等に関連するもの等違法又は公序良俗に反する情報提供に関するものであり、真実性が問題となる情報についての対応を内容とするものではない。したがって、「流言飛語」が同ガイドライン上問題となることは実際上考えられない。
「あたかも、情報内容の真実性の観点から問題があると判断した特定の情報をインターネット上から削除すること等の「流言飛語」に対する特別の対応を要請するものであるかのように誤解される恐れがあることも否定できない」が、「従来の対応を超えた格別の措置をとることを求めるものではないことが十分に理解され、総務省による情報統制の意図によるものであるかのように誤解されることがないよう」にしてほしい。」

つまり、
「真実性が問題となる情報についての対応」ではなく「流言飛語が問題になることは考えられない」
当たり前だ!

ではなぜ、「『流言飛語』への適切な対応に関する要請」というタイトルの文書を出したのか?
流言飛語が問題にならないのであれば、そんな文書は必要ないではないか。

さらに言えば、「社団法人テレコムサービス協会」には、前述したように
「事故を起こした原発の、原子炉製造メーカーについての投稿記述が事実でないため、削除されたい」という要請があったわけだが、これは「真実性が問題となる情報」以外の何物でもないと思うのだが、どうだろう?
こんなのもあった。

「2011年3月28日 今回の地震は、ある国が人工的に起こしたテロであるとする誤った情報の書き込みが掲示されているため、削除されたい。」
「2011年3月17日 今回の地震が人工地震だとの誤った情報の書き込みが掲示させれているので削除してほしい。」
「2011年4月20日 関東にM7以上の地震が来るといった地震予測や、地震が天災ではなく何らかの実験であるといった記載があり、有害情報に当たるため削除されたい。

笑っちゃうような話で、僕はそんなもんはもちろん信じないが、でもこれらもまさしく「真実性が問題となる情報」としか言えないだろう。

僕の国語能力が低いからそう思うだけなのかな?
それとも「社団法人テレコムサービス協会」のWebSiteに「行政機関から削除等対応の要請を受けた情報等について、」と書いてあるのは「行政機関から~~」の間違いなのかな? どっかの馬鹿がチクっただけなのかな?

行政機関であれどっかの馬鹿であれ、言った人は手を挙げてほしいな。
どっかの馬鹿ならともかく、万が一にでも行政機関が言ったのであれば、それは郷原信郎氏の言う「真実性が問題となる情報」に対する国家の口出しである。誰が要請したのか直ちに明らかにしてほしい。

この件は、郷原信郎氏のtwitterがあるから、そこに書き込んでおこう。

さて。

情報統制に関してもう一点。

文科省が、児童生徒の年間被曝許容量を20ミリシーベルトとして、話題になっている。
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1305173.htm

ノーベル賞も受賞した国際的な医師の団体がワシントンで会見し、文部科学省が子供の1年間の許容被ばく線量の目安を「20ミリシーベルト」に設定したことに疑問を呈しました。
 アイラ・ヘルファンド医学博士:「衝撃的だったのは、日本政府が福島の子供たちの許容被ばく線量の基準を高く設定したことだ」
 ヘルファンド博士は、「子供の場合、がんになるリスクが成人よりも2倍から3倍高くなる」と指摘して、許容される被ばく線量の基準を引き下げるよう求めました。
http://news.tv-asahi.co.jp/news/web/html/210427018.htm l

文科省が文書を出した一週間後の4月26日。
福島県郡山市立橘小学校のホームページ「緊急情報」に、こんな文書が掲載された。

橘小放射線測定値報告の中断のお知らせ
先日来、本校独自で実施した校舎内及び校庭等の放射線測定値をホームページに掲載してまいりましたが、インターネット等での測定値の発表は、文部科学省や県など公的な機関が測定したものに限るとのことから、今週からホームページへの掲載は中断することとなりました。
http://www2.schoolweb.ne.jp/swas/index.php?id=0710015&frame=weblog&type=1&column_id=297026&category_id=8032
http://twitpic.com/4qce58

おやおや?
僕は違うと思うぞ。
子供のためを思うなら、むしろいろんな場所で積極的に計測した方が良いと思うぞ。

ポイントはここだ。
インターネット等での測定値の発表は、文部科学省や県など公的な機関が測定したものに限るとのこと
、誰が「限った」んだ???

それまで、福島県郡山市立橘小学校のホームページでは、4/11の始業式以来、土日を除く毎日、その日の放射線測定値が公開されていた。
担当の先生が、子どもたちの健康を思って、1階教室、南昇降口、東昇降口、2階教室、2階廊下、3階教室、3階廊下、玄関前、体育館前、中庭、校庭中央、3階屋上、校庭整地部分、校庭南東角、と、いろんなところで計測して発表してくれていた。

ところで、僕は自慢だが、大学受験科目で言えば現代国語と倫理社会だけは良くできた。
論説文の読解や小論文もそうだが、小説なんかでも、人物や書き手の気持ちを的確につかむことができたので、現代国語だけは早慶でもほぼ満点を取れた(国立は共通一次があったから受けてない)。

そんな僕が「橘小放射線測定値報告の中断のお知らせ」を読んだとき、書き手(担当教員)の思いを想像して感じたのは、その「無念さ」だ。

だって、悪いことやってないじゃん。
子どもたちのためを思って、毎日放射線量を計測してきたのだ。
それが
公的な機関が測定したものに限るとのこと
だって。

注目すべきは
「限ること」ではなく「限るとのこと」、つまり「」である。
そこに、先生の無念さをひしひしと感じるのだ。

次の日には、公開を中止した理由について校長名でこう書かれている。
「まず第一に、現在、国や文部科学省から正確な数字が公表されていること。」

あのさあ、文科省が、3/11から測定を開始してすでに何千枚以上のデータがあるSPEEDIの情報公開を決めたのは、やっと4/26になってからなんだよ。

僕の国語能力では、ここには誰かの圧力があったとしか思えないね。
あっちこっちで放射線量を測定されたのでは困る、都合のいい場所でのデータしか世の中に出したくない、と思う誰かがいたんだ。

大学受験からもう30年も経つから、僕が馬鹿になったのかな?