自走砲 | 戦車兵のブログ

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自走砲と戦車が別物だということを理解しない人がいるので自走砲について紹介する。

 

自走砲は、何らかな動力を有し、大砲を自走可能な車体に射撃可能な状態で搭載したものである。

 

 

よく混同されることがあるが、レール上を移動する列車砲は牽引に機関車との連結が必要で、砲単体では移動手段を持たないので自走砲ではない。

 

また、近年では牽引式榴弾砲の中には、陣地展開時や陣地変換のために補助エンジンによって短距離を自走できるものもあるが、これも自走砲には含まれない。

 

補助エンジンによって短距離を低速で自走出来る牽引式榴弾砲の例として、FH70やTRF1がある。

 

 

装備する大砲の種類によって自走榴弾砲自走迫撃砲自走無反動砲自走対空砲などと呼ばれる。

 

 

21世紀の現在では、単に自走砲と言えば自走榴弾砲を指すことが多く、自走カノン砲という呼び方もされるが自走榴弾砲と同じものである。

 

 

過去には自走臼砲、自走対戦車砲、自走歩兵砲なども存在し、運用する軍組織によって書類上の分類から突撃砲や砲戦車などと呼ばれることもあった。

 

 

小型トラックに砲を載せただけの物から、重さ120トンを超えるカール自走臼砲まで、多種多様な物が開発された。

 

 

野戦で砲兵が扱う大砲は、人間あるいは牛馬、自動車などによる牽引式で移動するが、迅速な移動には問題があった。

 

射撃陣地に到着後、牽引状態から射撃状態に移行し、射撃後に移動するため再び牽引状態にもどすのに時間が必要である。

 

又、大砲は徐々に大型化し人・馬が扱うのには困難なほど大型化し重量を増していった。

 

自走砲はこのような問題を解決するために生まれた。

 

 

対砲兵レーダーが発達すると、自走砲の射撃後の陣地変換が非常に重要な要素となった。

 

同じ位置から射撃を続けると、弾道を電波で探知・計測する敵の対砲兵レーダーによって発射位置が特定され、砲やミサイル、空爆による反撃を受ける可能性が高くなる。

 

 

これを避けるために数発砲撃した後に素早く移動するための機動性として自走能力が必要となっている。

 

さらに、射撃管制装置と自動装填装置の進化により、短時間に大量の連続射撃を行うバースト射撃能力が求められている。

 

 

バースト射撃能力の例として、ロシアの2S19では、持続射撃時には毎分2発の砲撃を行うが、バースト射撃の際には毎分8発の砲撃を行うことが出来る。

 

 

このほか、最新型の自走榴弾砲では単一の砲から発射された複数発の砲弾が同一目標にほぼ同時に着弾するように高仰角から少しずつ仰角と装薬量を小さくしながら連射するMRSI(Multiple Rounds Simultaneous Impact:多数砲弾同時着弾)砲撃を可能としている。

 

 

MRSI射撃が可能な自走榴弾砲としては、南アフリカのG6-52やドイツのPzH2000、スロバキアのズザナ、スウェーデンのアーチャーなどが挙げられる。

 

また、陣地展開から射撃、再移動へのプロセスの時間短縮も重視されている。

 

ドイツのPzH2000では、8発を発射する砲撃任務を、射撃準備に30秒、射撃に1分、撤収に30秒と、わずか2分間で完了できる。

 

 

ただし、上記のようなバースト射撃能力やMRSI射撃能力などを持つ自走榴弾砲は高価な上に重量も大きくなるため、調達数が制限されたり輸送機による空輸に支障が出たりするようになった。

 

このため近年では自走砲の原点に立ち返って迅速な移動に焦点を絞り、トラックの荷台部分に榴弾砲を搭載する自走榴弾砲も登場するようになった。

 

 

代表的な例としては、フランスのカエサルやイスラエルのATMOS 2000などが挙げられる。

 

トラック利用型の自走榴弾砲は牽引式榴弾砲と同様に操作・装填されるため連射性能が下がること、また、車体が装輪トラックなため不整地踏破能力や防御力が装軌車両型より劣ることが弱点であるが、低コストなのが利点である。

 

 

戦車と自走砲を分ける境界線はいくぶん曖昧である。

 

21世紀現在、近代的な戦車には移動する物体を砲撃する能力(動目標射撃)や、自ら移動しながら砲撃する能力(行進間射撃)が備えられている。

 

対して自走砲では、自衛戦闘時に直接射撃が行なえるように照準器を持つものもあるものの、あまり重視されていない。

 

自走砲では、長距離の目標へ向けてどれだけ多くの砲弾を短時間で投射できるかがより重要となる。

 

 

戦車の砲弾は、比較的近距離の低伸弾道を高速で飛翔して短時間のうちに目標に弾着する事を想定しており、敵戦車を攻撃する場合のように硬い目標に対しては徹甲弾や成形炸薬弾が用いられ、軽装甲車両や人員のような軟かい目標には多目的対戦車榴弾が用いられる。

 

 

第二次大戦中には視界内の目標を直接砲撃する「対戦車自走砲」なども多く用いられていたが、現在「自走砲」と呼ばれ、対地目標を砲撃する物の多くは自走榴弾砲である。

 

自走榴弾砲の砲弾は、放物線を描いて遠距離まで投射される。

 

 

自走砲の射程は15km程度から30kmほどが多いが、PzH2000ではRAP弾を使って射程56kmを有する。

 

誘導砲弾の開発が進められているが、2009年現在、量産されるまでには至っておらず、ほとんどが無誘導なので目標への直撃よりは炸裂することで加害する榴弾が用いられる。

 

 

 

戦車の砲塔は360度全周旋回が可能なものがほとんどであるが、自走砲では車体前方の限られた範囲しか砲を動かせないものや、砲塔そのものを持たないものもある。

 

遠距離へ曲射する自走砲では、直射する戦車より、仰角が大きく取れるようになっている。

 

大口径砲を搭載する自走砲では、車体後部に駐鋤(スペード)を備えて車体の動揺を抑制するものもある。

 

 

敵と目視距離まで近づいて最も危険な戦場を駆け回る戦車では、主に敵戦車が発射する徹甲弾・成形炸薬弾・粘着榴弾や、歩兵や軽車両、攻撃ヘリコプターなどが発射する対戦車ミサイルの直撃に耐えられるだけの装甲を備えるように設計されているのに対して、戦闘に対し比較的安全な後方から間接攻撃によって参加する前提の自走砲では、敵砲弾の直撃に耐えるのではなく、周囲へ弾着する砲爆撃から飛散する破片や爆風や、機関銃による銃弾程度に耐えられれば良いだけの比較的薄い装甲になっている。

 

このため装甲を持たない自走砲も存在する。

 

 

本来、戦車は防御された陣地の突破を目的に開発され、自走砲は大砲に機動力を与えるため開発された物である。ただ、広義に戦車であっても狭義では自走砲の任務も果たす場合があり、その逆もある。

 

 

構造的にはほぼ同じ兵器であっても、国や時代が異なれば違う分類になることもある。

 

運用する兵科や元となった開発目的がそのような兵器の分類を規定することがあるが、それも変化しやすく明確な分類法とはならない。

 

 

例えば第二次世界大戦のドイツ国防軍では、無砲塔の戦闘車両が戦車部隊に配備されれば駆逐戦車、砲兵部隊に配備されれば突撃砲、または密閉装甲を持たないと自走砲と呼ばれた(似たような事例に日本では戦車部隊では砲戦車、砲兵部隊では自走砲と呼ばれたが、どちらかといえば公式的なものではない場合も多く、しばしば前線の戦車部隊が独自に自走砲を砲戦車と呼称した)一方で、イタリア軍やソビエト連邦軍では、配備先や防御方式(密閉式か否か)による分類はされず、全て自走砲と呼ばれていた。