江原啓之の説
人の死に方にも、意味があります。
その人が、そういう亡くなり方をする、ということもまた偶然ではなく、必然なのです。
そういう亡くなり方をしたということで、本人と、周囲の家族や友人など、それぞれのたましいに、それぞれの学びがもたらされるからです。
人は、生まれ出るときに、自分の今生での課題を決めて生まれてきます。
いいかえれば、それぞれのたましいが抱える何らかのカルマを解消するために、再びこの世に生を受けるのです。
(中略)
たとえば、医療ミスで亡くなった場合を考えてみましょう。その死が大きな問題として取り上げられると、医療システムや社会全体に警告を発することになります。
医療ミスで命を落とされた方のご遺族は、悔しさ、憤りでいっぱいでしょう。怒りをもって告発したとしても、長く険しい道のりを覚悟しなくていけません。しかし、医療界の腐敗や社会全体と闘うなかで、正義を貫くことの困難を実感したり、協力者を得る喜びを味わったり、それは大きな学びがあるはずです。苦しみは大きくても、たましいはその分、ほかの人の何倍も輝きます。
誤解を恐れずにいえば、亡くなった方は、社会に警告を発すると同時に、遺族を鍛え、その生き方を強く輝かせるという役割を担って亡くなったといえるでしょう。
(中略)
戦死は、その時代の「国のカルマ」を引き受けて亡くなる、ということです。
戦争は国と国が起こすもの。国の指導者と、その指導者を選んだ国民がつくったカルマを解消するための死であり、戦うことの悲惨さ、無意味さを訴える死といえます。
第二次世界大戦では、おびただしい数の死者が出ましたが、そういう使命を選んだたましいが、その時期を目指してたくさん現世に生まれていたのでしょう。
現在も内戦が続く紛争地帯はたくさんあります。
そこで亡くなる人も、その国のカルマを引き受けるという課題を選んで生まれてきたのです。
銃撃戦や飢餓による死は、とても悲惨に思えますが、だからこそ、平和の大切さ、命のかけがえのなさがひしひしと伝わってくるでしょう。紛争地帯で命を落とす人々は、そういう貴重な役割を果たすべく現世に生まれ出た、勇敢なたましいの持ち主であるともいえるのです。
メシアの論証
霊能者、霊媒師といった古臭く胡散臭い言葉を“スピリチュアル・カウンセラー”というオシャレな言葉に変えて世に広めた人物、江原啓之。
はじめにいっておかなければならないが、彼はほかの美輪明宏、木村藤子、下ヨシ子などとは比較にならないほどの強敵である。今回とりあげた“死の意味説”にしても、誰にどんな角度からつっこみを入れられても逃げ道がちゃんと用意されているのだから恐れ入る。1秒で欠点やつっこみどころを無数に見出せるほかのスピリチュアル詐欺師とちがい、高度な完成度を誇っているといえるだろう。
しかし、インチキ霊能者を1日も早く世界から撲滅するべく、あえてメシアの私が江原啓之に挑んでみようと思う。
まず、人の死にはひとりひとり必ずなんらかの重要な意味があり、たとえば戦死者は戦争の悲惨さや命の尊さを世の人々に伝えるために亡くなっていったとしている。
『うむ、なるほど……』と得心しそうな説ではあるが、深く追求していくと腑に落ちない点が浮上してくる。
戦死者が戦争の悲惨さを伝えるために亡くなっていったというのはひとつの説としてはわかる。が、だ。では、あといったい何人の戦死者が出れば戦争はなくなるのだろうか?
戦争がはじまったのはここ2、3年のことではない。数千年前の遥か昔から人類は戦争をくり返してきた。よって戦争の悲惨さや命の尊さなど、人類はとっくのとうに理解できているのである。
たとえば現在(2012年)から2000年前の西暦12年の世界で、とあるふたつの国の間で戦争が起こり、1000人の死者が出たとする。
1000人である。戦争の悲惨さと命の尊さを世の人々に伝えるには充分な人数だろう。
江原啓之の説が本当だとするなら、西暦12年に起きたその戦争の戦死者から受け取ったメッセージによって、翌年の西暦13年からは世界からすべての戦争がなくならなければおかしいはずである。そして未来永劫にわたって戦争は2度と起こらなくなるはずである。
が、2000年たった現在もそんな展開にはなっていない……。
いいたいことはなんとなくわかるが、ではあといったい何人の戦死者が出れば戦争はなくなるのだろうか?
これは医療ミスによる死者にも、DVによる死者にも、飲酒事故による死者にも同じことがいえる。あといったい何人の死者が出れば医療ミスが、DVが、飲酒事故がなくなるというのだろうか?答えが見えてこないのである。
そもそも極端な話、核戦争で人類が滅亡してしまったとしたらどうするのだ?けっしてありえない話ではない。人類が滅亡してしまっても江原啓之は━━
「戦争の悲惨や命の尊さを世の人々に伝えるために人類は滅亡したのです」
━━とでもいうつもりなのだろうか……?
このように考えを進めていくと江原啓之の説は大嘘であることがわかると思う。
余談だが、イギリス人によってジェノサイドされた民族にタスマニア人という民族がある。タスマニア人はイギリス人にまさにひとり残らず殺されて人類史から姿を消してしまったのだが、彼らの中に『私の死によって戦争の悲惨さを知ってください』だの『撲の死によって命の尊さを知ってください』だのといったことを思いながら死んでいった人がいただろうか?いないはずである。全員『世界の誰でもいいから私たちをイギリスの魔の手から救ってください!』といったことを思いながら殺されていったはずだ。
そんなタスマニア人たちを『戦争の悲惨さや命の尊さを世の人々に伝えるために亡くなっていった』の一言で片付けてしまうとは。それも江原啓之は戦争をなくす具体的な方法などは一切述べていないのである。
この限りない無責任さと非礼には言葉をなくさざるをえない。