観劇レポート『死の都』@新国立劇場オペラ | 文化家ブログ 「轍(わだち)」

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(内容に関わる記述がありますので、ご注意ください。)

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先週の水曜日、3/12から始まった新国立劇場オペラ[新制作]コルンゴルト『死の都』。
19世紀ベルギーの古都ブルージュを舞台に、愛妻を亡くした主人公パウルが妻と瓜二つの女性と出会い、倒錯のひと時を過ごす物語を幻想的に描いた作品。わかりやすいストーリーと迫力のある演奏に引き込まれるので、オペラファンだけでなくオペラ初心者にもおすすめの公演です。

作曲家は、20世紀初頭にウィーンの神童として人気を博するも時代に翻弄されアメリカに亡命、映画音楽で名声を築いたコルンゴルト。R.シュトラウス、マーラーを思わせる後期ロマン派の作風で、甘美な旋律と豊潤な管弦楽が魅力です。世界中でパウル役を歌っているケールなどキャストも万全、観劇した15日は土曜日とも相まって満席でした。

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舞台は「北のヴェニス」ともいわれるベルギーの古都ブルージュ。
異国情緒漂い中世の古い家々が建ち並ぶ幻想的な町は、JP制作の美術紀行番組『欧州 美の浪漫紀行』でも訪れた場所でもあり、フランドルの宗教的雰囲気が色濃く残っていて神秘的です。



今回の『死の都』、舞台美術にも大注目。奥に町並みが映し出されていますが、実はこれ写真だけではなく立体的な建物ものっていて、照明効果により浮き上がる町が作品の世界観をより一層引き立てています。とにかく、舞台がとても美しい。そんな印象を終始いだいておりました。

原作は、ベルギーの作家ジョルジュ・ローデンバックの小説『死都ブルージュ』。オペラの台本はコルンゴルトと父ユリウス(音楽評論家)が共同で執筆しました。原作では主人公が踊り子を殺してしまうのですが、死の結末は息子の年齢や楽天的な性格を考えると作曲が難しいと懸念したユリウスは、殺人後にそれが男の幻想であったことにする結末を台本に加えたのです。

tote03【第1幕】
19世紀末、ベルギーの古都ブルージュ。美しい妻マリーを亡くしたパウルは、彼女の遺品に囲まれた「思い出の部屋」に引き籠り、悲しみに耽っている。友人のフランクに「彼女は生きている」と幻想の世界を語り始める。一方、フランクは「死者は戻らないのだから早く立ち直るよう」と忠告するがパウルは耳を貸さない。ある日、パウルは街でマリーに瓜二つの踊り子マリエッタに出会い、家に招待する。ひとりになると、肖像画の中のマリーが動き出してパウルに話しかける。夢と現実の見境がつかなくなった彼はその場にうずくまる。





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【第2幕】
幻想の中で、パウルはマリエッタを追いブルージュの運河沿いをさまよっている。マリエッタをめぐり、友人フランクとは恋敵になる。月の光にマリエッタが現れ、マイアベーアのオペラ『悪魔ロベール』の尼僧が生き返り、男たちを誘惑する場面を演じる。マリエッタと二人きりになったパウルは、自分が愛するのは亡き妻マリーであって、面影だけ似ている君ではないと伝える。マリエッタは悔しさのあまりパウルを誘惑し、彼はその魅力に陥落してしまう。
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tote04 【第3幕】
 翌朝。パウルは、亡き妻と過ごした家でマリエッタと一夜を過ごしたことを後悔している。自分の美しさを誇示するマリエッタは、パウルの敬虔な信仰心を茶化し、故人の遺品に囲まれた生活を嘲笑する。
怒ったパウルは、マリーの遺髪を首に巻いて踊るマリエッタを絞め殺してしまう。

夢から覚めふと我に返ると、マリエッタの姿はなく、全て幻想だったことに気付く。マリエッタが忘れ物の日傘を取りに立ち寄り、続いて友人フランクが訪れる。パウルは、死者への想いと決別し、友人と共に死の都ブルージュを去る。

見どころはやはり幻想に翻弄されるパウル役のトルステン・ケールの歌声、そして情熱的で生き生きとした存在感抜群のマリエッタを演じるミーガン・ミラーの輝くような美声。甘美で美しく時に激しい音楽と合わさり、心打たれる歌詞や台詞が響き渡ります。また、元妻マリーの亡霊役の女優が黙役で舞台に居続ける悲壮な存在感などなど・・・必見必聴どころ満載です。
「生と死」の世界のはざまで揺れ動くパウルの激情、無言で見つめ続ける元妻マリーの不安げな表情、最後に美しく横たわる亡骸には涙を隠せませんでした。気が付くと、斜め前のご婦人も涙されてたもよう。ハンカチーフを手に取る姿が横目にうつりました。ウィーンの神童でありながら忘れられた過去を持つ作曲家コルンゴルトが歩んできた人生そのものが、この作品に反映されている気がします。満場の拍手が鳴り止まなかったほど[新制作]『死の都』は感動を与えてくれました。

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鑑賞される方は、プログラムもぜひ手に取っていただきたいと思います。あらすじやキャスト・演出家紹介はもちろん、コルンコルドの忘れ去られたウィーン時代のコラム、そしてブルージュ紀行が載っていて、『死の都』の背景や舞台に歩み寄れること間違いなし。




残りあと3日!オペラ『死の都』18日(火)19時/21日(金祝)14時/24日(月)14時
チケットはまだまだあるようですので、この機会にぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
 
~世紀末の退廃薫る、喪失と回復の物語。濃密な後期ロマン派の傑作~
[新制作]エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト『死の都』
2014/3/12(水) ~ 2014/3/24(月)
■指揮:ヤロスラフ・キズリンク
■演出:カスパー・ホルテン
■キャスト
【パウル】トルステン・ケール
【マリエッタ/マリーの声】ミーガン・ミラー
【フランク/フリッツ】アントン・ケレミチェフ
【ブリギッタ】山下牧子
【ガストン(声)/ヴィクトリン】小原啓楼
【ユリエッテ】平井香織
【アルバート伯爵】糸賀修平
【リュシエンヌ】小野美咲
 
【マリー(黙役)】エマ・ハワード
【ガストン(ダンサー)】白鬚真二

公演詳細、チケットのご購入などは公式ホームページをご覧ください。
ゲネプロの動画や舞台衣装の注目ポイントなどが掲載されておりますので、鑑賞前に少しでも舞台の世界観に触れてみるとより作品を楽しめるかもしれません。



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