樹脂コルクの顚末 | 緑家のリースリング日記 ~Probieren geht über Studieren~

樹脂コルクの顚末

他所の国のワイン事情については全然知らないけれど

ドイツワインに関しては、今では裾モノを中心にスクリューキャップがすっかり定着している。

フランケン地方に至っては、GGなど最高級の辛口キュヴェにまでスクリューキャップ化が進んでおり

これは10年程度の熟成にはスクリューキャップにしても何ら問題がないという判断によるものであろう。

慣れというのも恐ろしいもので、昨今ではこの流れにあまり抵抗感がなくなりつつある自分が居る。


ところで10年ほど前、裾物ワインによく使われていた樹脂製のプラスチックコルクはどうなったんだろう?

最近殆ど見かけなくなったような気がする...少なくとも自分が飲んでいる範囲内では。

スクリューキャップにガラス栓、王冠、圧縮コルク等いろいろある中、結局淘汰されてしまったのだろうか?


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で、ここからは経験に則った完全に個人的な見解なのだが

「樹脂コルクの存在意義は、ブショネが無いという一点にしか無いのではなかろうか」と考えている。


実は今夜開けることにした2003年産ユルツィガー・ヴュルツガルテンのリースリング・カビネット半辛口。

ちょうど9年前に醸造所から買って、友人に日本まで送って貰ったボトルの1本なのである。

モーゼルのJJクリストッフェル・エルベン醸造所 は、この年からカビネットの半辛口に樹脂コルクを採用。

当時、同じボトルを4本買って、もちろん開けようとした際に初めてこの樹脂コルクに気付いた訳である。

中身にはもちろん問題はなかったが、残りの3本をワイン庫の棚に寝かせて保管していたら

予想外のトラブルが発生した。あろう事か、横にしていた瓶口から中身が少しずつ漏れてきたのであった。


自慢ではないが、これだけ数を飲んで日々ワインボトルに接していると素人と言えども解ることは解る。

コルクは本来乾燥した物だが、ボトルを寝かせてコルクがワインの水分を含んで膨張することにより

瓶口との機密性が高まり密栓状態に近くなる。ワインボトルを寝かせて保管する理由はここにある。

立てたままだとコルクは乾燥して縮み、単に隙間の空いた栓にしかならない。結果、ワインの酸化が進む。


ただし湿気てはいてもコルクは完全な密栓ではない。身近な解り易い例を挙げてみよう。

気温の高い時期、その温度に晒された、冷やしていないワインボトルをよく観察してみるがいい。

ボトル内に有る空気の量を。中には殆ど空気が無く、コルクが浸るほどワインが満たされたモノもあるだろう。

それを涼しいセラーや冷蔵庫の中に入れ、1時間でも冷やした後観察してみるとどうなっているだろうか。

先刻ほとんど入ってなかった空気がちゃんと入っている。要は温度が下がってワインの体積が減ったぶん

外から空気が入り込んだのである。つまりコルクとボトルの間から空気は容易に出入りするのである。

そして元々空気が少なく、コルクのすぐ下まで充填されているボトルは温度が上がれば簡単に噴くのだ。


では樹脂コルクはどうなのか。当然水分でふやけることのない樹脂コルクは寝かせる必要などなく

樹脂コルクとボトルの間は常に空気が出入りする程隙間が有り、質が悪ければ寝かせると漏れてしまう。

瓶詰めからすぐに消費してしまうモノなら問題はなかろうが、刻々と酸化や劣化は進むものと思われる。


慌てて残りのボトル3本は立てて保管し、うち2本はサッサと3年以内に飲んでしまったが

悪い癖で、最後の1本はどうなるかそのまま実験に置いておいた。10年ぐらい経ったらどうなるのか。

10年には1年ばかり早かったが、そろそろ邪魔になって来たので今夜開けてしまうことにした次第。

まぁ結果は目に見えているようなものだが...。


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抜栓しようとスクリューをねじ込むと途中から回るんだ、この樹脂コルクが。如何に気密性が乏しいか。

グラスに注ぐと、麦藁色がかった明るい黄金色。色は思ったほどでもない。


但し香りの方はそうはいかない。リースリングでは滅多にお目にかからないような甘い香りで

焼きリンゴやシェリー、ヨード、トマトジュースなど、かなり酸化の進んだ香り。怖々飲んでみる。

口当たりからアフターに至るまでベタッとした甘さが付いて回り、甘味は意外に残っている。

酸も予想外に有るが、ギュッとコンパクトに纏まっていてあまり伸びない。

かなりヒネた独特の味わいで、ミネラルは完全に埋没していて識別不可能である。うーん、かなり逝ってる。


瓶詰直後や1年半後、2年半後 と、それほど悪い経年変化でもなかったと記憶しているが

当時の記録をじっくり振り返ってみれば、やはり通常より早い速度での瓶熟であったのかもしれない。

そのまま飲むのが少々辛くなって来たので、料理に合わせることに活路を見出してみる。

まず小ジャガイモの素揚げとは可も無く不可も無し。剣先イカのオイル漬けとは、まぁまぁ。

元々ある程度の残糖はあるので、トマトソースパスタとの相性は悪くなかった、と言うよりヒネ感は気にならず。


2日後。香りは落ち着き、甘さも殆ど感じられなくなって予想外に辛口的である。

ヒネた香味の名残はもちろん有るが、妙にスッキリとしており食事酒としてそれほど悪くないし

古酒的な香味も無くはない。77/100


とは言え、「樹脂コルクのボトルを敢えて経年させるとは、我ながら馬鹿であった」と改めて実感。

樹脂コルクはワインの栓としては不適当な代物だと思う。もうウチには1本も無かったはずだが...。


2003 Uerziger Wuerzgarten Riesling Kabinett feinherb

Weingut Joh. Jos. Christoffel Erben (Uerzig/Mosel)

A P Nr 2 602 041 001 04,Alc 11.5%vol,11.80€