つばめ食堂 | 緑家のリースリング日記 ~Probieren geht über Studieren~

つばめ食堂

ハッキリ言って出不精なので、自分から進んで店を開拓してまわるなんてことはほとんど無い。

最大の理由は、どこへ行ってもドイツ産リースリングに有り付けることなんて滅多にないからであって

妥協して頼んだアルザスやオーストリア産のリースリングにガッカリした経験は数え切れない。

いやむしろアルザスやオーストリア、それに最近人気のニュージーランドやオーストラリアに比べれば

ドイツのリースリングは絶滅危惧種なんじゃないかというぐらい稀少なワインである、世間では。


そんな訳で専ら家飲みが中心の日々なのであるが

つい先日、知り合いから「梅田にリースリング専門の立ち飲み屋がある」との情報を得た。

ネットで調べてみると、テレビ番組でも取り上げられ最近ちょっとした人気だというではないか。

そこでちょっくら、仕事関係の集まりで大阪へ出た帰りの夕刻、偵察を兼ねて覗いてみたという次第。


新梅田食堂街と言えば、阪急梅田駅の改札を出て少し歩いたところにある

小さな飲食店がひしめき合うように集まった飲み屋街である。

昔、学生時代に何かの帰りに3次会か4次会あたりで行った事はあるが、ここが目的で行った事はない。

そんな込みごみとした飲み屋街の一角に、カウンターだけの真新しい店「つばめ食堂 」があった。


新・緑家のリースリング日記


最初は店を見つけるのに苦労し、やっと辿り着いたもののどうやら満席(椅子はないので満員?)の様子。

いったん諦めて、近くの本屋でドイツ語の参考書を買ってから帰りにもう一度寄ってみたところ

幸いにも空いていたので思い切って入ってみた。


入口は2つ。入ったところがすぐカウンターになっていて、そこに立ち飲み客が数人。

真っ赤な顔をした酔っ払いの親爺と、ワインスクールの先生に紹介されて来たという少し上品なおばさん、

そしてカップルが1組。カウンターの向こうにはオーナーと思しき女性と調理担当の男性が1人、それだけ。

とりあえずメニューにあったリースリングのゼクトを1杯頼んだ。


2007 Bacharacher Kloster Fuerstental Riesling Sekt Brut (Weingut Ratzenberger/Mittelrhein)

御存知ミッテルラインのラッツェンベルガー。これが意外にも残糖感があって、スイスイとは行かない。

うーん、一発目はレーヴェンブロイにしときゃ良かった、とちょっと後悔。

アテに「ソーセージとザウアークラウト」を頼む。ゼクトが空になったところでベッカーのリースリングを。


2008 Schweigener Riesling Qualitaetswein trocken (Weingut Friedrich Becker/Pfalz)

これまた残糖があって少々引っ掛かりのある味筋。だがザウアークラウトとは相性良かったなぁ。


「リースリングお好きなんですか?」

「ええ、ちょっとオタク入ってます」

思いの外、客の回転が早いので話はそれ以上進まない。ついでに「うずら卵のスモーク」を頼んでおく。

隣に3人組が入って来たので横に寄って場所を開ける。リースリングでなくレーベンブロイを3杯頼みやがった。

飲んでいるうちに1人がフラフラしてこっちにぶつかって来るのをマダムが気遣って注意してくれる。


そうこうしているうちにベッカーも空いた。3杯目はKusudaワイナリーのリースリングを頼む。

この日のワインメニューには、他にドイツのローゼン、そしてスペインとアルザスのリースリングがあったが

残念ながら酸性人にはこのニュージーランドのリースリングしか選択肢は無いように思えたからである。

ついでに「焼き餃子」も頼んでおく。餃子とリースリングならこちらも一家言ある身なのだ。


「実はついさっきまで楠田さんがここにお見えになってたんですよ」とマダムが天井を指す。

なるほど、マジックで走り書きした真新しいサインがある。

「へーっ、あの楠田さんですか。実は6~7年前に1度だけ御一緒させて頂いたことがあるんですよ」

昔入り浸っていたワインバーで、Kusudaワイナリーのピノ・ノワールを飲む会に参加したことがある。

当時はまだ日本で売り出し始めた頃で、ピノ・ノワールに対する情熱を語る彼に

ドイツでの醸造学校時代の話やリースリングに関する質問ばかりして、とても失礼な事をしたものである。

ちなみに最も尊敬する醸造家は?という質問に、彼はヘルムート・デンホフ氏の名前を挙げたっけ。


2011 Kusuda Riesling (Kusuda Wines/New Zealand)

クリーンな果実香で、とことん辛口な造り。液質の洗練度は見事だが、ミネラル感はちょっと単調かな。

飲んで感じたよりもアルコール度数が低いのが意外だった。

餃子との相性はまぁまぁ。やっぱりルーヴァーのリースリングじゃないと。


「マダムもリースリングお好きなんですか?」

「ええ、あればいつも飲んでます。でも甘口というイメージが強くてまだまだお客さんには浸透してません。

ソーヴィニョンを置いて欲しいと言う方もおられますが、それはお断りしています」

確かにお店のメニューはレーヴェンブロイ以外はすべてリースリング、と徹底している。

「たまに無性にピノが飲みたくなる事があるんです。試飲会に行くと赤を忘れてしまってる自分が居たりして。

それでも赤に対する要望も多いので、仕方なしにこのボルドーだけは置いてるんですよ」

なるほど、カウンターに1本赤ワインが置いてある。

「ただ、Kusudaに負けないドイツリースリングも入れといて下さいね」と釘を刺しておいた。


最初に飲んだラッツェンベルガーのゼクトをもう1杯頼む。サービスなんだろう、なみなみと注いでくれた。

ん?1杯目とは違ってかなりドライに感じる。ボトルが違ったからか、自分の味覚が好い加減なだけか。

店の名物であるポテトサラダとは見事な相性であった。


「どんな造り手さんがお好きなんですか?」

「ルーヴァーのマキシミン・グリュンハウス、フォン・シューベルトです。最近あまり入って来てませんが。

今度機会があったらお持ちしますよ」

客は入れ替わり立ち替わりで、あまり長居する雰囲気でもなかったのでゼクトを飲み干して〆とした。


リースリングに特化した立ち飲み屋さんとはなかなか面白い試みだと感心する半面

まだまだリースリング=甘口という固定観念が根強く残っているこの国の現状を再確認させられた。

小さなお店だがこれからもその凝り固まったイメージを打破すべく頑張って頂きたいものである。

また機会があったら寄ってみようと思う。心地良い酔いとともに帰途に就いたのであった。

マダム、楽しいひと時をありがとうございました!