Gutsverwaltung von Schubert (Mertesdorf/Ruwer) | 緑家のリースリング日記 ~Probieren geht über Studieren~

Gutsverwaltung von Schubert (Mertesdorf/Ruwer)

2007年5月7日訪問


相棒が戻って来てから我々は、約束の13時にMertesdorfの町とは道路を挟んで反対側にあるマキシミン・グリュンハウス、つまりフォン・シューベルト醸造所にやって来た。もちろん宿泊しているホテル・カールスミューレのすぐ向かいである。

ここには何度来ても、荘厳な歴史を前にした畏敬の念ともある種の郷愁ともつかない特別な感慨を覚える。広々とした原野の中、森に囲まれるようにして建っているのは築数百年のゴシック様式の建物で、その向かいの山の南東向き斜面がシューベルト家単独所有のマキシミン・グリュンホイザーの葡萄畑である。



付近には人家もなく、鳥のさえずりと小川のせせらぎだけが聞こえる。常に俗世の時間の流れとは無縁の趣であるが、それでも付近の道路沿いには、最近立てられたと思われる醸造所への案内の立て札を目にする。やはりここにも僅かながらではあるが変化はあるのだ。

お馴染みの試飲室は、瓶詰めやエチケット貼りなどの作業場の隣にある小ぢんまりとした一室である。この日はオーナーのシューベルト氏は不在で、代わりに新しいBetriebsleiter(支配人)であるシュテファン・クラムル氏が我々の試飲の相手をしてくれることになっていた。

彼は2004年6月から、引退した先代のアルフォンス・ハインリッヒ氏に代わって葡萄畑の世話からワインの醸造・販売までの一切を取り仕切っている。彼の造った2004年産と2005年産のリースリングは既にいろいろ飲んではいるものの、本人に会うのはこの日が初めてである。大柄ではないがガッシリとした骨格で、誠実そうな雰囲気が初対面の印象であった。


この醸造所は例年どちらかと言えば新酒のリリースは遅い方である。ところが2006年産はこの5月初めの時点で既にすべて出来上がっているという。営業的に発酵を早める手段をとったのかと思ったが、単に発酵が早く済んだだけとのこと。原則として天然酵母のみによる発酵を行っているが、2006年産についてはQbA trockenとQbA feinherbのみ、一部に培養酵母を添加したという。早くワインが出来上がってしまったのは、葡萄畑に生息している天然の酵母の意思によるものだということなのだが、理由はどうあれ我々にとっては6月の醸造所試飲会を待たずにこの機会に全てを試飲出来るのは本当に幸運なことであった。


                                               (上写真・試飲室にてクラムル氏)

この時期にワインを仕上げてくれた天然酵母に感謝しつつ以下の17種類を試飲。


1. Herrenberg Kabinett trocken

酸が生き生きとシャープでスタイリッシュ。


2. Abtsberg Kabinett trocken

ミネラルが複雑。まだちょっと飲むには早いか。


3. Herrenberg Spaetlese trocken

より強い酸。やや細身だが、上品な果実のアロマ。造り手は将来が楽しみだという。


4. Abtsberg Spaetlese trocken

凝縮度が抜群。


5. QbA feinherb

鉱物と桃の香り。絶妙の残糖具合。ジュースのよう。


6. Herrenberg Superior

畑の最良区画から、しかも収量を抑えてセレクションを厳しくした収穫を用い、天然酵母と木樽による発酵によって、より寿命の長い伝統的な辛口リースリングを造るというコンセプトを実践しているという。内容がギッシリと詰まっていてポテンシャルが高い。


7. Abtsberg Superior

Herrenberg(6)に比べるとより強い酸があるせいで、残糖は少なく感じる。2005年産に比べてもより引き締まった印象。Alc11%vol。


8. Bruderberg QbA

残糖は50g/l。見事なバランス。


9. Abtsberg Kabinett

Herrenberg(10)より少し残糖が少ないという。親しみ易いBruderberg(8)に比べると味の要素が複雑。


10. Herrenberg Kabinett

ドライフルーツ感、ハチミツ感があり、貴腐っぽさを感じる。


11. Abtsberg Spaetlese

凝縮感と味に厚みがある。酸よりも他の要素の充実ぶりが印象的。飲み頃はかなり先か。


12. Herrenberg Spaetlese

よりドライフルーツっぽさが増す。新樽(使用2度目の)を使ったということで、クラムル氏はその影響を気にしていたが、言われても全然判らなかった。


13. Herrenberg Auslese

よりハッキリとしたポテンシャルの高さ。それでいてエレガント。


14. Abtsberg Auslese

より全体に厚み。


15. Abtsberg Auslese Nr.45

アウスレーゼとしては特別濃い訳でもないが、アプツベルクという畑の典型的な特徴の出た、このヴィンテージでは最も表現力のあるワインだという。ミネラルと果実の厚み。


16. Herrenberg Auslese Nr.49

残糖の満足感。果実感が印象的。


17. Abtsberg Beerenauslese

収穫の後半、腐敗により収穫の3分の1がダメになり、造るのが難しかったという。美味しい。



QbAに関してはBruderbergを除いて、この2006年産より畑名をなくしてすべてMaximin Grünhäuser Rieslingとしてリリースすることにしたという。消費者にとっては元々過多気味のアイテム数が少しでも減るので、下のクラスを一括するのは良い選択だと思う。


畑の格はアプツベルクの方が上なので試飲の際はたいていヘレンベルクが先に出て来るのだが、今回甘口のカビネットとシュペートレーゼにおいては残糖の具合からかサーヴィスされる順序が逆になっていた。確かに現段階では同じクラスだとヘレンベルクの方が美味しく飲めるし値段も安いのでお買い得。だがこれから年月を経てアプツベルクの方もグッと本領を発揮していくだろうとクラムル氏は言う。


クラムル氏の話では、2005年は恵まれた気候により、果実味に富んだボディのしっかりしたリースリングが出来た偉大なヴィンテージだったが、これに対して2006年は近年では最もこの地域らしさの出た典型的なマキシミン・グリュンハウスのワインが出来た年だという。なるほどどれもみな研ぎ澄まされたような酸が素晴らしく、果実味とミネラル味の一体感も素晴らしい。だがこの典型的なグリュンハウスのリースリングは、近年必ずしもそれに見合った評価を得て来たとは言い難い。そして今後の方向性もやはりジャーナリズムの評価云々ではなく、ここのワインが好きな人達に満足してもらえるようなワイン造りをしていくのだという。彼は何度も「ここの典型的な味」という内容を繰り返した。


グリュンハウスに招かれる前、彼はザールのフォン・オテグラーベン醸造所でワインを造っていたのは周知の通り。そして偶然にも我々は当時その醸造所を訪問し、彼の造ったリースリングをいろいろ試飲している。その時試飲して買って帰った2002年産の辛口カンツェマー・アルテンベルクは、今なおこれまでに飲んだ辛口リースリングのベスト3に入るほど素晴らしいものであった。その造り手がこうして今グリュンハウスでその手腕を発揮することは素晴らしいことであり、実際期待以上に見事な出来栄えであるという感想を伝えると、誰が造ってもここのリースリングはこうでありまたこうあるべきだという、意外にも控えめな答が返って来た。そう言えば彼の言動の端々には、職人にありがちな自己主張や功名心といったような生臭さは微塵も感じられない。あくまでもマキシミン・グリュンハウスの伝統を引き継ぎ、そのブランドを維持していくことが自分に与えられた任務なのだという、職人としての純粋さやシューベルト家に対する忠実さをも感じる。オーナーのシューベルト氏は本当に良い人材を得たものだとつくづく思う。


我々の雑多な質問に対して常に真摯に答えてくれたクラムル氏。気付けば2時間以上が経過していた。アルコールのせいもあろうが、試飲を終える頃の彼の表情はより穏やかとなり、試飲室にはリラックスした良い雰囲気が満ちていた。



試飲の翌日、前日注文していたワインの発送の手配と代金の精算をするため再び醸造所に出向いた。持ち帰るワインを貰ってから、道路向かいのMertesdorfの街側にある事務所に案内された。以前から知っている建物だったがここも醸造所の所有だったことを初めて知る。女性スタッフに事後を託して、握手の後クラムル氏は事務所の奥へと引っ込んだ。


今回の訪問ではもう1つ大きな収穫があった。それはリストに新たに加わった蔵出し古酒がたくさん入手出来たこと。1993年産を筆頭に1997年産までのアプツベルクやヘレンベルクの辛口から甘口に至るまで、非常に多彩なラインナップである。このあたりのヴィンテージは個人的に思い入れのある年が多いので、そういった節目になる記念日を今後グリュンハウスのワインで祝うことが出来るようになったのは大変喜ばしいことである。



ルーヴァー川の脇を通る遊歩道からマキシミン・グリュンハウスの葡萄畑を望む