夏がくれば思い出す、のは解剖のこと…
医学部で解剖のある科というと、主に3つ。
その名の通り解剖学、
そして病理解剖の病理学と
司法解剖の法医学である。
解剖学の試験はマジ厳しく、
社会人として当然とは言えるが金髪茶髪は不可。
学生のピアスも不可。
試問を受ける権利さえ、無い。
口頭試問も、4分の1は落ちたのではなかったか。
たとえ私のように黒髪であったとしても、
100人中95人が落ちるという前代未聞の厳しい
ペーパー試験だった。
ペーパーで落ちたら追試を受ければOKだが、
試問で落ちた学生は夏休みの再解剖実習が決まった。
エアコンも利かぬ閉めきった解剖室内で、みな汗をたらしつつ
真面目に実習していた。
エアコンは…古くてしょっちゅう止まっていたのである…
猛暑だったのに…。
たまに先生が見回りに来る以外は、解剖室は学生たちだけ。
一発で合格した者たちにも増して、私語もろくになく
朝から晩まで、昼食とトイレ以外には休憩すらろくにせず、
もくもくと実習に打ち込んでいた。
長い沈黙ののち、学生Y君が、ふと一言をもらした。
「Aって、すごいガタイしてるよね。
あいつの筋肉を見てみたいから
オレはAを解剖してみたいと思うよ。」
解剖学のA教授は、確かに筋骨隆々の見事な肉体。
それはもう、洋服の上からもありありとわかるほどだった。
いつもなら、「だよね~」「そうか?」くらいの軽口をたたく
学生たちは、押し黙っていた。
「なんでみんな黙ってんだよ?」
いぶかしげなY君…なぜって?
それはね…
君の後ろに、
足音なく忍び寄ったA教授が
仁王立ちしてるからです!
きゃーーーっ。
Y君は、入り口に背を向ける感じで実習してたので、そろ~っと
入って来たA教授に気付かなかったんですね…
教授を解剖してみたい って、
しかもAとか呼び捨てちゃったりして。
いったいどうなってしまうのか?!
Y君、もしかして逆鱗にふれるとかなんかで試問を
受けられないんではないのか?
と、学生たちは心配したけれども彼は優秀だから試問にすんなり
合格。
おとがめは、なかったみたい。
教授を解剖してみたいだなんて、
感心な、やる気のある学生だと思われたりして…?
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