確かMETライブ「チェネレントラ」
を見に行った映画館でだったと思いますけれど、
公開予定とされる映画ポスターのひとつに目が向いたのですね。
タイトルは「超高速!参勤交代」。
これを見て「ううむ、こりゃまたトンデモ映画に違いあるまい」と思い、
江戸時代にドラえもんが現れてどこでもドアで参勤交代するとか…
てな想像までしてしまったですが、それでもいささか気には掛かっていたわけです。
それが公開間近となるに及んで、さる新聞評に曰く
「優れた新人脚本家を発掘する城戸賞で、初のオール満点を記録した」受賞作の映画化
と見かけ、「やっぱ、行くか!」と考えたような次第。
極めて個人的な思いですけれど、昨今頓に小説の映画化が多くあり、
それはそれで構わないことながら、その原作たるやおよそ映画のスクリプトでしなかい、
つまりストーリーの面白さを追いかけるにはどちらであってもあまり代わりがないようなのが
多いような気がしていたのでありますよ。
ですから、この作品のようにいっそ最初から脚本として「見られる」ことを意識して書かれたとは
むしろ潔い(?)気がして「どれどれ」と出掛けていったわけです。
そうはいってもタイトルがタイトルですので、
過度な期待は慎む方向でいたわけですが、いやあ、これは面白いですなぁ。
これからご覧になる方もおいででしょうから、
ストーリーにあまり多くは触れずにおくとして、
江戸幕府に対抗する小藩の心意気を、全編にわたる笑いがあったうえでも
感じたものでありますよ。
あたかも赤穂四十七士に通ずる心意気とでもいいますか(大げさですが)。
あらぬ嫌疑を掛けられて、それを晴らすためにすぐさま参勤せよとの命が下るも、
形式ばった大名行列を仕立てるだけでの金もなく、限られた江戸着到の刻限は
その時代では常識的でない、つまり辿りつけるはずがない日数が設定され…という
どだい無理な注文を突き付けられた湯長谷藩(実在したようです)の面々が
頭を捻りに捻って繰り出す作戦の数々。
戦国期や江戸期の話でもって
「今のビジネスシーンにも通用することがたくさんありますよ」的なことを展開する
ビジネス本の類いは遠のけておきたい性質なのですけれど、
仮にこうした類いに擬えるならば、大した危機管理能力だということはできましょうかね。
そして、一見ハチャメチャでありそうに見えて、
細かいところにも歴史的なところを押さえたらしきあれこれが配されて、
「なるほど」「そうだぁね」と思うようなところもちらほら。
これはちと想像で、しかも元からフィクションですから、益体もない話になってしまいますが、
二代将軍秀忠の時代には50万石もの広島藩
・福島家を改易にする力技が罷り通っていたものを
八代将軍吉宗の頃ともなるとたかだか1万石の小藩藩に進んで釈明の機会を与えるようになるとは、
これも幕府権威の移り変わりを反映してもいようかと思ったり。
また、ここでの小藩・湯長谷藩というのが現在の福島県いわき市でありまして、
そこのお殿様(佐々木蔵之介)が実に民のことを考えるお人、
江戸表への献上品として大根の漬物を献上しますが、
これも皆が励んでいい土にした賜物と考えているのですね。
福島と作物を育むいい土との関係を示唆される、
そして原作シナリオが2011年という年に城戸賞を受賞したとなれば
今のご時勢どうしたって考えるところが出てくるわけで、
そうした要素もこれにはあるのだろうと。
ところで、先ほどの「心意気」ではありませんけれど、
散々笑わせといて、最後にぐっとくる仕立ての妙も忘れずにいる。
いい塩梅の人情噺を味わったような気にもなろうというものです。
いやあ、本当にタイムスリップ
ものとか、時代SFとか
そんなんでなくって良かったなぁと思いつつ、
泣き笑い顔を俯けて映画館を後にしたのでありました。