駅弁「品川名物 貝づくし」


やおら「タイトルに偽りあり」かと思われるところでしょうけれど、
まあ広島名物に繋がる話の枕と思し召していただけますよう。
要するに往路の新幹線で食した駅弁が「品川名物 貝づくし」というものであったわけです。


明治日本の文明開化を象徴するように新橋横浜 間に鉄道が開通したのが明治5年(1872年)。
その話題性は「汽笛一声、新橋を」と歌い出される「鉄道唱歌」が全国を巡る形で作られ、
都合三百何十番かまで歌詞があることからも偲ばれますですね。


で、歌詞の第1番が件の「汽笛一声、新橋を」ですけれど、
2番では泉岳寺が見えてきて四十七士に思いを馳せ、続く3番に品川が登場します。
♪窓より近く品川の台場も見えて波白く…と海沿いを走る汽車が思い浮かぶように、
品川といえば海、そして江戸期から続く潮干狩りの名所であったとなれば
「品川名物 貝づくし」とはごもっとも。


古く古く遡れば、この汽車に乗っていたモース博士が発見した大森貝塚もあるわけで、
(大森貝塚とされる場所は2カ所ありまして、品川区側と大田区側双方に碑がある)
太古の人たちも品川の海で貝を取っていたのですから、由緒はばっちりですね。

で、肝心なのは駅弁の中身でありますが、こんな具合になってます。


「貝づくし」弁当は貝尽くし


茶飯のご飯が見えないほどに敷き詰められた貝は、ハマグリ、しじみ、あさり、貝柱とのこと。
玉子焼きと煮物が添えられて、見た目以上に満腹感を得られます。
煮付けた味と紅生姜のマリアージュ(とは大げさですが)は絶妙でありました。


ところで、上の写真で玉子焼きの隣に菜っ葉が見えましょう。
これが「広島菜」なのだそうですよ…というところで、
長い枕が終わって、話は広島名物へ。


こんなふうな言い方をしますと、さぞ広島で美味いもの、名物料理を食して来たかのようですが、
実のところ、朝はホテルで供せられ、昼は仕事先のイベント会場で用意されており、
夜には夜で付き合いが…となると、話に出せるのはこれだけなのでありますよ。

広島御膳は牡蠣づくし


先に静岡に出掛けたときに食した「静岡弁当 」同様に、
差し当たり地元の美味いものを見つくろってみました…的なもの。
称して「広島御膳」でありました。


これのど真ん中にある小鉢が、やはり広島菜。
恥ずかしながら白状しますと昔から漬物が大の苦手でして、
歳を重ねてようやっと最近は多少なら口に入れられるようにはなってきたという程度ですから、
漬物に関する知識は皆無に等しいのですが、「広島菜」とは想像以上に有名だったのでしょうかね。
Wikipediaには、こんなふうに紹介されていますし。

九州の高菜、信州の野沢菜と共に日本の三大漬け菜の一つとして知られている。堂々たる風格と程良い歯切れ、豊潤な風味から「漬け菜の王様」ともいわれ…ている。

「漬け菜の王様」とはこのほど初めて聞きましたですが、
所詮は漬物苦手がなんとか食べるという状況下では、
「堂々たる風格」
も「程良い歯切れ」もあんまりピンと来てないのは申し訳のないところかと。


ですので、「広島御膳」の個人的なお目当てはそれ以外のものになるわけでして、
手前左手から反時計回りに、焼きがき、かきフライ(隣はタルタルソース)、かきのお吸い物、
たこ刺身、そして穴子飯と並んだ数々、これこそが!でありました。


やはり当然のように牡蠣、カキ、かきでありますけれど、
有名なだけあって広島県のかき生産量は日本一、2位の宮城県を大きく引き離しているそうで。


ただし、牡蠣の天然物というのは結構レアものらしく、
全国に出回っているのは養殖ということになるようですが、
広島湾はその養殖場としての環境が整っているのだとか。
地形や潮流、水温変化などなどが関わっているようです(と、広島漁連では言ってます)。


一般に牡蠣と言えば、「R」が付く月が旬と聞きますけれど、
これまた漁連によりますと「近年では夏に水揚げする夏がきなども登場し、
1年中美味しいかきを食べることができるようになりました」とのこと。


この事自体はうれしいようでもある一方で、
「旬」というものを考えるときには、どうなんだろう…と思ったりもしますですが。


ところで広島名物のもう一つの雄である「穴子飯」、

これは牡蠣が養殖で一年中食べられるのと違い、
どうも穴子は稚魚からの養殖が非常に困難なのだそうですね。
(ある程度の大きさのを捕まえてから大きくすることはできるらしい)


ですから、結構な量を輸入で補っているとなると、

うなぎに似てるのは見た目ばかりではないようで。


で、広島県で水揚げが多いというわけでもないのに名物とはこれ如何にですが、
もとは近辺の漁師めしであったようで、それが「旨い!」と広まったという。
(と、元からたくさん消費される前提にないわけで、水揚げが多いことと一致しない所以ですね)


ただし、牡蠣の方は調理の仕方がシンプル(生か、焼くか、フライにするか)ですので、
良し悪しは素材の牡蠣そのものが握っていると思われるのに対し、

穴子飯の味付けは千差万別でしょうから、その辺りに優劣ができてしまうような。


今回の「広島御膳」についた穴子飯もまずまずではありましたですが、
やはり宮島口駅前の駅弁(前回食べた記憶も鮮やか)が秀逸ではないですかね。


と、駅弁から始まって駅弁で終わるのはおあとがよろしいようで。
おっと、広島名物といって「広島焼」のことに触れてませんが、
今回は食べる機会が無かったものですから、またいつぞやの折にということで…。