さて、ノルウェー人の冒険家魂にまつわる第2弾でありますが、
何とまあコンティキ号博物館 のお隣というか斜向かいというか、ほんの目の前にある三角形の建物、
フラム号博物館(Framhuset)の中にそれを見ることができるのですね。


三角形と言いましたけれど、バス停とは反対側、フェリー桟橋の方から見るとこんな形。
こういう三角形とは思わなかったでしょう?!


フラム号博物館


この形はひとえに船をそのまま収めるためのものでありまして、
ヴァイキング船博物館といい、結構形にはこだわりを見せるノルウェー人かもしれません。
そして一歩中へと入ってみますれば、やおらフラム号を見上げる!という具合になっとります。


フラム号


これを見ても、フラム号を収めるのに最適の建物ということが分かりますですね。


と、ここまで来て何ですが、「はて、フラム号とは何ぞや?」となりましょうか。
たぶん日本での有名度合いではコンティキ号の方が優っておりましょうけれど、
アムンゼン(ノルウェー的にはアムンセンのようですが)を南極まで運んだ船というと、

「おお、そうなんだ!」と思っていただけるかも。


これもひとえに南極点到達に向けてアムンゼンのノルウェー隊とスコットのイギリス隊が
互いに一番乗りを目指してデッドヒートを演じたというドラマティックさによるものではないかと。


ですが、フラム号にとってアムンゼンを南極へ運ぶのは再利用に他ならないのでして、

実のところはフリチョフ・ナンセンが北極の探検航海用に作らせたというのが
フラム号の誕生理由なのですね。


ただこれまた日本での知名度でフリチョフ・ナンセンはアムンゼンに負けている感があろうかと。
南極を目指したアムンゼンと北極を探険したナンセンとで、なぜ違いがでるかと考えてみますと、
先程も言いましたように南極点到達というのが非常にドラマティックな反面、
北極の方がどうも今ひとつ盛り上がりに欠けるというか、地味というか何というか…。


そうは言ってもですね、改めてナンセンの北極探検記でもある「極北」を読んだりしてみますと、
何だってこんな過酷なところへと出かけていかねばならんのか…と思わずにいられない。
こちらもやはりとんでもない冒険者魂の持ち主だったと知るのでありますよ。


極北―フラム号北極漂流記 (中公文庫―BIBLIO)/フリッチョフ・ナンセン


この「極北」という本でありますが、副題に「フラム号北極漂流記」とあるように
確かにナンセン一行はフラム号に乗ってノルウェー北部の港から北極海へと船出します。


で、ここで勘違いというか、認識不足であったと思うことはですね、
「南極は大陸であり、北極は海である」と、これは基本的によいとして、
一年中ずぅーと海なんじゃないかと思ってしまう点でありますね。


冬になると北海道にも流氷がやってきますけれど、寒さで海も凍りつくわけで、
以前観たノルウェー映画「孤島の王」ではオスロ・フィヨルドのあたりでも
陸地と小島の間の海水が結氷し、その上を歩いて渡る姿が描かれていました。



孤島の王 [DVD]/ステラン・スカルスガルド,クリストッフェル・ヨーネル,ベンヤミン・へールスター


ですから、さらに高緯度の北極海においてをやということになります。

ところが、南極のように大陸の上ではありませんから氷の広がりは決して安定はしておらず、

気温の上がり下がりで微妙に溶けたりかたまったり、海流の動きに揺すられたりと実に落ち着きがない。


ナンセンが北極点にたどりつくことを必ずしも目標とはしていないことに

最初は「あらら?」と思ったものですけれど、当時としてはあまりに過酷なことだったのだろうと

想像するわけでありますよ。


フラム号で北へ北へと向かいつつも、いったん流氷に閉じ込められるや、

それは単に停滞として位置がキープされるのでなくして、

船を挟んでいる氷ごと波に揺られ、風にあおられして、東西南北、どこへ漂うかわかったものではない。

これではいくら北極点へ近づこうとしても、自然に弄ばれているようでもありますね。

まさに「漂流」という点ではコンティキ号以上にあなた任せ(自然任せ)の状態なわけです。


さすがに、いよいよもってフラム号の進退が極まったと見るや、

ナンセンは同僚一人と連れ立って、たった二人で船を降り、

安定していない氷の上を犬ぞりを使い、開氷面ではカヌーを使っての探査行に向かいます。


船に残る方も降りる方も、傍から見れば今生の別れを覚悟してのことと考えてしまいますが、

彼らには生還の可能性があることのみを考えて行動しているようす。


そして、実際にナンセンたちは1年半ほどを氷の上をさまよい歩き、

フランツ・ヨーゼフ諸島(現ロシア、ゼムリャフランツァヨシファ)に来ていたイギリスの調査隊に出会い、

生還を果たすのですね。フラム号もまた、同時期にノルウェー帰還を果たします。

出航してからおよそ3年後、いやあ凄いですねぇ。


と、すっかりナンセンの話になってしまいましたが、

ナンセンのフラム号建造につけた注文は氷に挟まれたら挟まれたなりに

持ち上がって倒れないような船底だったようでありますね。


そして船名の「フラム」ですが、ノルウェー語で「前進」を意味する言葉だとか。

名にも体にもナンセンの思いがやどっているようではありませんでしょうか。


館内では、ナンセンが体験したような氷点下30度、40度といったところに及ばぬにしても、

極地の寒さを体験できる部屋もあったりします。

実に寒い、寒い部屋ですけれど、そこで何年も過ごすことを想像して、

ナンセンの偉業に思いを馳せるというのも、フラム号博物館ならではなのではなかろうかと。


建物の外にはナンセン一行と思しき像(確認はしてないですが)がありました。

暖かな陽射しを浴びて、さぞやほっとしていることでありましょうね。


ナンセン一行の像?@フラム号博物館