カセットテープ音源をデータ化 していく中には音楽を録音してあるというよりも

FM放送の番組をまんまエアチェックしたというようなのがままありまして、

先には「スイッチオンクラシック」 のことなどに触れましたけれど、

「出光 ミュージックタイム~私と音楽の世界」という番組もあったのですね。

音楽もかかりますけれど、どちらかといえば毎週異なるゲストを迎えてのトーク番組といったところかと。


その「ミュージックタイム」のとある回でゲストとして登場したのが保柳健という方でして、

オリエント急行の通る土地土地にまつわる音楽の話などを聞かせてくれていたのですが、

録音している当時も、そして今でも「この人、いったいどんな人?」と思っていたのでありますよ。


語られるエピソードの数々は面白く聴いたものの、音楽評論家か音楽のプロデューサー?

はたまた鉄道か旅の関係のライター?皆目見当がつかないものですから、

今となってインターネットという強力な検索機能を使って調べてみましたけれど、どうにもはっきりしない。


ですが、いくつかの著作があることが分かったものですから、あちこちの図書館の蔵書検索をして

「音楽と都市の出会い 大英帝国とロンドン」という一冊をようやく借り出すことができました。


タイトルからしても音楽之友社が出していることからしても、

ある程度内容は想像していたところですけれど、ご本人のあとがきに曰く

「本書は、音楽書としても歴史書としても、また観光案内書としても中途半端なもの」と

謙遜気味に書かれているのですね。


で、実態はどうかと言いますと、良くも悪くもその言葉どおりでありましたよ。

ただ、個人的には音楽にも歴史にも観光にも興味がありますから、

受け止め方として「面白い本だったな」となりますが、

当初予想したように音楽、それもクラシック音楽メインというところから離れられないとすると

まさに「中途半端なもの」と感じられるところではありましょう。


個人的には「面白かった」という、その部分を書き出すときりがなくなりますので、

ひとつだけ挙げるとすれば、まさに本書の冒頭の数行、こんなあたりになりましょうか。

誰でも入場料を払えば、身分の上下などと無関係に音楽を楽しめるという、今日では至極当然なこのシステムが、史上初めて行われたのは、1672年12月30日、場所は英国の首都ロンドンのホワイトフライアにあった「ミスター・ジョン・バニスターの家」だったというのが通説となっている。

先頃見たDVDの「シャーロック・ホームズ」 の中でホームズがヨーゼフ・ヨアヒムの独奏による

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴いたことから膨らませた話を書きましたけれど、

別の回ではやはりホームズがサラサーテの演奏会に出かけてましたし、

チャイコフスキー(自身!)の演奏会にも。


こうしたロンドンでの演奏会事情に連なる大もとが先の引用にあるわけでして、

ホームズの時代、つまりはヴィクトリア朝ともなれば

王侯貴族ならずとも演奏会に出かけられる状況が出来していたことは想像に難くないものの、

1672年という時期に身分の上下にかかわり無く音楽会が聴けるという状況は

そう簡単にストンと腑に落ちるものではないような。


時代背景としてはまさしく絶対王政の時期であって、

身分秩序も相当に厳格化していたであろうことを考えると、なんともリベラルな話に思えてきます。

フランスが太陽王とも言われ「朕は国家なり」といったルイ14世の時代であったことから

そんなふうにも思うところですが、17世紀半ばに清教徒革命があり、やがて名誉革命を経験するという

イギリスではやはり事情が異なるということになりましょうね。


この辺りのことも、昔々に学校で習った世界史の(断片的な)記憶でもって

もやもやっと覚えているつもりになっているより、

やはり改めてさらっておく機会を設ける必要がありそうです。


ところで、肝心の(?)保柳健さんですが、本書の著者紹介によりますと

「ヨハン・シュトラウス協会理事、吹奏楽愛好会顧問」とありますが、

どうもこれだけではまだまだ判然としませんですねえ…。