【本編】L.S.A.G.S.F. その10 | 魔人の記

【本編】L.S.A.G.S.F. その10

L.S.A.G.S.F. その10

「やるしかねぇ、ってのはわかってるが…!」

ヴァージャの顔からは、いつもの強気な表情が消え去っている。
だがギリギリのところで、戦意までは喪失していない。

その原因は、彼と征司の前に現れたリアライザの姿にあった。
リアライザとは人と獣が混ざり合った怪物を指すが、今回のリアライザはこれまでのものとは比較にならないほど恐ろしい姿をしていた。

それは、「人の頭を持っている」ということ。
人の頭を持ち、虎の体を持つリアライザが今回の敵だということである。

これとは逆の、虎の頭を持つリアライザの場合は全く問題がなかった。
しかし今、ヴァージャたちは恐怖に体を震わせている。

「今回ほど…今回ほど『見た目なんてどうでもいい』って言葉が、薄っぺらく思えたことはねぇ! 逆に、今回ほど見た目が重要だと思ったこともねぇ…」

直接的に、その姿が恐ろしいというのではない。
人の頭を持つリアライザなら、以前にも戦ったことがあるのだ。

だが問題なのは、「人と獣の境界線」が首にあることだった。
ヴァージャのうっすらとした嫌な予感は、まさにこれを指していた。

「できればチェンジしてもらいてぇとこだが…そういうわけにはいかねーんだろうなァ。やるしかねぇ、コイツをぶっ倒すしかねぇんだが…」

ヴァージャはちらりと征司の足を見る。
今もまだ、その足は小刻みに震えていた。

「くそ、まだセェジはビビりから抜け出せてねぇ! それもそうか…ヤツを倒すには首を落とさなきゃならねぇ。人間の首をよォ…!」

リアライザは人ではなく、怪物。
ふたりとももちろん、その認識は持っている。

だが、頭は人間のものなのだ。
それだけでなく、このリアライザは人語をも解する。

そんな相手の首を何のためらいもなく落とせるのは、プロの殺し屋くらいのものだろう。
だが、征司たちはそうではない。

ちょっとした超能力を持っている、男子高校生でしかないのだ。

「くそっ…! こういう時、俺が攻撃できりゃ一番いいんだがな…! セェジは毎日、たくさんの人間と会ってる。だが俺はそうじゃねぇ…俺の方が、いくらか抵抗がねぇはずなんだ」

だが、今は征司の意識が完全に覚醒している。
それに彼が意識をなくしているとしても、ヴァージャが完全に体を操れるとは限らない。

「ルサグスフの野郎に1回やられた時、どうにか動かそうとしたが無理だった…昔はもうちょっと動かせたような気がしたんだがよ…くそっ!」

「グル…グルルゥ…」

人面虎のリアライザは、にやにや笑いながら征司の周囲をゆっくりと回っている。
ヴァージャはリアライザの周囲をぐるぐると回っているが、彼の姿は征司に見えるだけで攻撃ができるわけではない。

「ちくしょう…!」

何もできない、してやれない悔しさを感じるが、だからといってぐるぐる回ったところで何かが解決するわけでもない。
ヴァージャもそれをわかっていた。

だから彼は、悔しげな表情のまま征司のそばに戻る。
征司は、そんな彼の方を見ないままこうつぶやいた。

「ヴァージャ、大丈夫か?」

「俺の心配なんかしてんじゃねぇバカ野郎。お前こそ大丈夫なのかよ、セェジ!」

「いや…正直、全然大丈夫じゃない」

「なんだよそれ! だが、いつまでもじっとはしてらんねー…」

「わかってる」

短く言い、征司はリアライザを見た。
人面虎のリアライザは、征司の周囲を回りながら少しずつ近づいてきている。

「…何を…グルルル…ぶつぶつ、言ってル…」

「か、関係ないだろ…こっちの話だ」

「グルル…! 声が震えてるぞ、オマエ…! 怖いんだろう? おれの姿が、怖いんだろう? 正直に言ってみなよ」

「……」

さすがにそれには答えられず、歯を強く噛み締める征司。
この直後。

「ガアア!」

リアライザは突然飛びかかってきた!
征司は慌てて後ろに飛びのく。

すると、背中がすぐに5番ホームに当たってしまった。
線路に降りている彼にとって、ホームは壁に等しい。

「ククク…」

一方、リアライザは征司に飛びかかった直後、すぐにまた元の位置に戻っていた。
どうやら攻撃を仕掛けたというよりも、ちょっと威嚇する程度の行動だったらしい。

それに気づいたヴァージャは、あらん限りの声で怒号を発する。

「あンの野郎、ナメやがってチキショー! リアライザの分際で、遊び半分な攻撃だと!?」

「…!」

その怒号で、征司はハッと我に返る。
静かな声でヴァージャに声をかけた。

「ヴァージャ」

「なんだよ! 俺ァ今、あの野郎のナメきった態度に腹ん中が煮えくりかえって…」

「煮えくりかえってないだろ? 実は」

「あァ?」

征司の言葉に、怒りの表情でヴァージャは振り返る。
だが征司の顔を見た途端、彼の怒りは解けた。

「…なんだよセェジ、気づいてたのかよ」

「いや、ついさっき気づいた…オレがまだ攻撃できる状態じゃないから、わざとやかましくしてるんだって」

「俺がお前の代わりに戦ってやれればいいんだが、そういうわけにもいかねーからな…俺にイライラできるくらいになりゃ、きっと戦えると思ってよ」

ここでヴァージャは、「だがな、セェジ」と神妙な顔をする。

「お前、それに気づいちまったんなら…そしてそれを俺に言っちまったんなら、もう後戻りはできねーんだぜ。そこらへん、わかってるか?」

「ああ、わかってるよ。もともとオレたちに、逃げるとか止めるなんていう選択肢はないんだ…やるしかない」

征司がそう言った直後、震えていたひざが止まる。
そして、真っ直ぐな目でヴァージャを見つめた。

「それに、ヴァージャ…オレはひとりじゃないんだって、また思い出させてもらえたんだ」

「セェジ…てめー、クセぇこと言ってんじゃねぇ」

「言わせてるのはお前だぞ、ヴァージャ」

「やかましい! 戦えるようになったんなら、さっさとどうにかしやがれってんだ!」

「言われなくてもっ!」

恐怖を克服した征司の背中から、「第3の手」が現れる。
それは鞭以上のしなりを見せつつ、人面虎のリアライザへ向けて飛ぶ。

(首だ…首を狙うんだ! その後のことは、その後でいい! やるだけやったら、逃げ出せばいい!)

後退した時にリアライザとの距離が開いていた。
「第3の手」でその首を落としたとしても、それを間近で見る確率は低くなっている。

征司が戦えるようになったのは、それも大きかった。
だがやはり一番大きいのは、一番近くにいる口やかましい誰かの声だった。

(そうだ…オレがやるしかないんだ! ヴァージャは自分で動きたくても動けないんだから! オレが動けないことでイライラしてるだろうけど、それでもオレに任せるしかないんだから!)

ヴァージャが征司のことを考えていたように、今は征司がヴァージャのことを考えている。
互いへの思いがなければ、征司は恐怖を克服できなかっただろう。

「第3の手」は、征司の感覚を乗せて伸びる。
視覚も乗っているため、彼は別の視点でリアライザの姿がどんどん大きくなっていくのがわかる。

今、この状態でその首を掴めば、人の頭が落ちる瞬間を一番アップで見ることになるだろう。
だが征司には考えがあった。

(首をつかんだ瞬間、視覚だけ『手』から切り離す! それでいい…見たくないものを見なくてもすむ!)

征司はもはや冷静といってもいいほど、攻撃の前後までも考えることができる。
戦うことに関する障害は、今やすっかり取り払われていた。

一方、人面虎のリアライザは、征司が全く向かってこないことを不思議がるようになっていた。

「グルゥ…なんだ、おい…何もして、こないのか…?」

上空に放たれた「第3の手」は、リアライザの首を目がけて垂直落下を始めていた。
だが人面虎にはそれが見えていない。

見えていないのだが、征司が攻撃を始めるまでの時間を長引かせてしまったのが、ここで悪い結果として出てくる。

「来ない、なら…こっちから、行くぞォォォ!」

「…なにっ!?」

垂直落下していた「第3の手」が、あと少しでリアライザの首を掴むというところで、リアライザはその場から走り出してしまった。

(曲がれ…! 首をつかむんだ、首を!)

征司は強く念じて軌道を曲げようとするが、ギリギリのところでリアライザが走り出したために対応することができない。

そして「第3の手」は、首とは違う場所に接触することになる。

「ウグォッ!?」

人面虎のリアライザは、背中に何かが触れるのを感じた。
征司に向かって突進しようとしていたが、それを即座にやめる。

「なに…? 今のは?」

頭をぐいっと後ろに向け、何があったのかを確認しようとする。
だがそこには何もない。

何もないのだが、リアライザはすぐに気づいた。

「そうか…! お前の能力、能力だな!」

征司が能力を持っているのを聞いているのか、リアライザはすぐにそう判断した。
そしてすぐに突進を再開させる。

「グオオオオオオッ!」

強靭な四つ足を使い、征司目がけて、しかし真っ直ぐ向かってくることはせず、左右にステップを踏みながら向かってくる。

「く…!」

(なんてスピードだ! 『手』の狙いがつけられない!)

虎の四肢を持つだけあり、その走りは豪快そのもの。
ステップも歩幅が大きく、巨体が素早く丸ごと移動するので目だけでは追いきれない。

「くそっ…!」

「セェジ、ここが正念場だぜ! ヤツは必ず、お前に『飛びかかってくる』! 空中じゃステップも使えねぇ!」

焦る征司に、ヴァージャが声をかける。
その言葉で、彼は落ち着きを取り戻す。

「空中じゃステップは使えない…そうだ、ジャンプしてる間は『移動できない』!」

「その通りだ、虎頭の時と同じだぜ! ただちィッとばかし、今回の方がでけェけどな!」

「大丈夫だ…今度こそ決めてやる!」

征司の眼光が鋭くなる。
そしてそれに合わせるかのように、人面虎は地面を蹴った。

「能力などォォォォ! 使わせるかァァァァァッ!」

巨体は征司に向かって飛び、すぐさま両手を振り上げる。
ただでさえ鋭い爪に、巨体の体重をかけて切り裂こうとしているようだ。

だが、ヴァージャが言ったようにこの状態ではステップを使うことはできない。
まさに今がそのタイミングだった。

「今だ、セェジ!」

「おおおおおおおおおおっ!」

征司は、伸ばしていた「第3の手」を素早く引き戻す。
そうしながら軌道を調整し、「手」の向きを征司自身の方へと向ける。

見えない首輪となったそれは、首に到達する前にまたも虎の体に接触した。
だがそれは失敗ではない。

「!?」

人面虎は驚いて、思わずそちら側を見る。
だが何もない。

何もないが、そこには「手」がある。
虎の体をなぞり、体毛を逆立てる。

「グウオオアアア!?」

能力を使われたことを悟り、見えない「手」に向かって爪を向けようとするも、見えないために狙いをつけることができない。

これにより、本体である征司が攻撃を食らうことはなくなった。

そして「第3の手」は、虎の体をさらになぞり上がって行き…
ついに、その首を掴む。

「よし!」

「う…!?」

征司が声をあげると同時に、虎の巨体から力が失われた。
彼にもう少しというところで届かず、目の前に着地してしまう。

だが力を失ってしまったせいで、たくましい四肢で着地、というわけにはいかなかった。
体ごと地面に落ちてしまい、線路に叩きつけられた骨が何本か折れてしまう。

折れた骨は主に、体の下に巻き込まれた足の骨だった。
巨体の体重と線路に挟まれることで、太い骨でも簡単に折れてしまったのだろう。

「ぐう…お……」

これではもう立てない。
立てない虎は、もはや猛獣ではなかった。

「う、う…!」

そして、この虎は頭部がそもそも虎ではなかった。
なぜかあらぬ方向を見つめながら、人面が泣き始める。

「死にたくない…うう…! 死ぬのは嫌だ…!」

「……」

「なんでおれが…! ついこの間まで、幸せに暮らしていたはずなのに……」

「…」

「死にたくない…死にたくない…死にたくな」

「…!」

何かが、ずれる。

征司は、思わず目を背けた。
瞬時に「手」からも、感覚を切った。

だが、足元に何かが落ちた振動が伝わってくる。
それは視覚でも「手」からの感覚でもない、征司自身の足が感じたもの。

「くそ…」

思わず、そうつぶやいていた。
なぜか体が小さく震えた。

「……セェジ」

ヴァージャがそっと声をかける。
征司はただうなずいて、その場を離れようとした。

だが、その足が止まる。

「…?」

「どうした? セェジ」

「今、何か…」

征司はそう言いながら、右手で左腕の後ろをさする。
どうやら後ろから何かが飛んできたらしく、左腕に付着したらしい。

さすったあとで右手を見てみると、何かしみのようなものがついていた。

「なんだそりゃ?」

「なんだろう…」

闇の中ではわからないので、手だけをホームの影から出して照らしてみる。
だが、明暗の差が激しすぎて「黒っぽい何か」ということしかわからない。

「…?」

意味がわからない征司は、その手を鼻に近づけてみた。
ヴァージャは征司の背後を確認する。

「…なんだろ、鉄サビみたいな臭い…」

「お、おいセェジ」

「ん?」

「走れ」

「え?」

「いいから走れ! 早くここから逃げるんだよ!」

「逃げるってヴァージャ、もう戦いは終わっ…」

征司はそう言いながら、自らも後ろを見ようとする。
その瞬間。

「…うっ?」

何かに背中を押された。
背中だけでなく、足も前へ押された。

そして征司の周りが、鉄サビのような臭いで満たされる。
彼を押したものは液体であり、足の周りもその液体で濡れてしまった。

「な、なんだ? これ…」

「バカ野郎、早く逃げろっつっただろーが! 俺はやっと理解したってのによォ!」

「理解?」

「いいから逃げるんだよ! Y.N.が『注意しろ』って言ってたのはこれのことだったんだ!」

「…?」

征司にはヴァージャがなぜ慌てているのか、意味がさっぱりわからない。
だがこの直後、さすがに征司も慌てさせられることになる。

突然、警報が鳴り始めたのだ。
そして駅長室のある1番ホーム方向から、人の声が聞こえてきた。

「誰だ! 誰かいるぞ!」

「何事だ、こんな時間に!」

「なっ…!?」

予想しなかった事態に、征司の顔は真っ青になる。
ヴァージャにさんざん言われても動かなかった彼の足が、ようやく動くようになった。

だが、征司がここから逃げるということは、まず5番ホームの影から出なければならない。
それは彼の存在が見つけられてしまうことに通じる。

「あっ、誰か逃げたぞ!」

「警察に通報しろ! 早く!」

「け、警察だって…!?」

それは、今一番聞きたくない言葉であっただろう。
走る征司の足は、さらに速度を上げる。

必死に走り、歩道橋の金網までやってきた。
誰かが追いかけてくる様子はないが、それは駅員が追うのを止めただけで、今度は前から警察官がやってくる可能性がある。

征司が金網を登るのを見ながら、ヴァージャはこれからのことについてこう指示した。

「セェジ、考えてるヒマはねぇ! とにかくまずはどっかに隠れて、ぶっかけられたモンをどうにかしなきゃならねぇ!」

「ぶっかけられたものって、これ一体なんなんだよ!」

「血だ! あのリアライザの血なんだよ!」

「血…!?」

ヴァージャが征司の背後を見た時、ちょうど切り落とされた首から大量の血液が吹き出してくる直前だった。

この時に征司が逃げていれば血を浴びることはなかったのだが、今となってはもう後の祭りである。

「でも、血なんて今まで出なかったじゃないか! リアライザを倒しても、今まで一滴も血なんか!」

「同じこと2回も言ってんじゃねぇ! んなこたァ俺だって知ってんだよ! だが今回はなぜか違った! Y.N.の『注意しろ』ってのは血のことと、今回は見つかっちまうってことだったのかもしれねぇ!」

「そんなの、先に言ってもらわなきゃわかるわけないじゃないか!」

「そのとーりだ! もちろん俺もそう思うが、今そんなこと言ったって始まらねーだろうがバカ野郎! とにかく服をどうにかして着替えなきゃならねぇ!」

「服、って…!」

金網を下り、左右を見回す征司。
どう進むべきか、一瞬で判断がつかない。

それほどまでに、起こったことが突然すぎたのである。
しかし急がなければならない。

「こんな朝方に服なんか売ってるとこないぞ…!」

「あっても店で買うなんざ無理だ! お前は今、血まみれなんだからな!」

「じゃあどうするんだよ! どうしたらいいんだよ…」

「そうだな…」

ヴァージャにもすぐにはわからないらしく、腕組みをして考える。
征司は歩道橋と自販機の影に隠れながら、彼が早く答えを出してくれるのを待っている。

「うーん…」

「ヴァージャ、早くしてくれ…」

「わーってるよ! っていうかセェジ、お前も少しは考えろ!」

「頭真っ白なんだよ…! 隠れられて服もある場所なんて、そう簡単に思いつくわけ…」

「…どうした?」

征司の言葉が止まったので、ヴァージャは尋ねる。
だが彼は何も言わなかった。

「…お」

直後、光がすぐそばに投げかけられる。
それは懐中電灯の光だった。

「ま、マジか…!」

ふたりが思っているより、追跡の手は早かったのだ。
光は、自販機と歩道橋の間を照らそうとしている。

この場で隠れられる箇所といえば、そこしかなかった。
そしてそこを見つけられてしまえば、ひとたまりもなかった。

「…ん?」

懐中電灯を持った何者かが声をあげる。
なぜか懐中電灯はいきなり消えてしまった。

それはもうひとりのものも同様だった。
実は征司が「第3の手」で懐中電灯を消したのだが、持ち主たちにはそれがわからない。

「なんだおい、電池切れか?」

「いや、そんなわけないぞ。新しい電池を入れといたはずなんだ…ほら、つい…あれ? また消えた」

スイッチをいじればまた懐中電灯はつくのだが、すぐに消えてしまう。
これも征司が「手」を使って、つけたその場から消しているためだった。

「なんだこれ、壊れてるのか? 今までこんなことなかったのに…」

「変だなー、中が壊れてるのか? 買ったばっかりだと思うんだが」

「不良品つかまされたのか?」

「いや、それはわからんが…とにかく、新しいのを持ってこよう…」

懐中電灯を持った何者かたちは、そんな言葉を交わしながら去っていった。
征司は間一髪、彼らに見つけられずにすんだ。

「…ふぅ…心臓に悪いぞ…!」

「だがセェジ、お前よくあれを乗り切ったな…お前じゃなきゃ無理だったな、あれは」

「そんなことよりヴァージャ、すぐにここを離れないといけない」

「ああ、そうだな。またここを調べそうな雰囲気だったしな…となると、どこへ行くかが問題なんだが」

「とりあえず、学校はどうなんだろう?」

「学校?」

いきなりの提案に、ヴァージャは目を丸くする。
征司は、もうそこへ向かい始めつつこう言った。

「あのリアライザと戦う前にも隠れてたし、隠れるのはあそこでいいと思うんだ」

「ああ、そりゃそうだな。で、服は?」

「服は…多分、どっかの誰かが何か置いてると思う」

「…まあ、今回ばっかりはしゃーねぇ。俺も全然思い浮かばねーしな…」

こうしてふたりは、また学校へ戻ることになった。
早く帰らなければまた家族会議が始まってしまうのだが、それについては敢えてふたりとも口にしなかった。

血まみれの格好では、無人駅である椎葉宮前から始発に乗ることはできても、家の最寄り駅である貝塚駅は無人駅ではないため、そこで見つかってしまう。

また、そうでなくても警察に連絡が行っているらしいので、貝塚駅に着く前に捕まってしまうかもしれない。

もはや、家族会議を心配するようなレベルを超越し始めていた。

(くそっ、『注意しろ』ってなんだよ! 先に言っとけよホントに…!)

征司は心でぼやく。
人面虎のリアライザを殺した心痛などかなぐり捨てつつ、またも裏門から夜明け前の学校へ侵入するのだった。


>L.S.A.G.S.F. その11へ続く