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2016-12-01 12:00:02

【本編】episode46 孤独と微笑みの白

テーマ:ボクのご主人さま:本編
episode46 孤独と微笑みの白


「……ここね」

小さくつぶやく紫苑の髪を、ほこり混じりの風があおる。
誰もが目をかばいそうなほど強い風だったが、彼女は腕を組んで身じろぎひとつしない。

彼女は何人かの召使いをつれて、巨大な廃墟にやってきていた。
その後ろから、真っ白なスーツを着た太った男が近づいてくる。

「お、おい紫苑! お前マジでここに入る気なのか!」

「こんなところに観光で来るほど、ヒマじゃないのよ私。入るつもりがないなら来ないわ」

「そりゃそうだろうけど…いや、だってここは義継(よしつぐ)おじさんが死んだ場所なんだぞ?」

「だから知ってて来てるって言ってるじゃない」

「ここは本当に怖い場所なんだよ…そう、それこそ呪われてるって言ってもいいくらいなんだ」

「……」

紫苑は、男の言葉に強く歯噛みする。
後ろを振り返り、扇子を勢いよく開いて自らをあおぎながらこう言った。

「怖いなら帰ればいいじゃない。なにも私についてくる必要はないのよ?」

「な、なあ、考え直してくれないか紫苑。やっぱりここはヤバいって。調査団の結果を聞いて、僕がどんな気持ちになったと思う? 何日間眠れなかったと思う?」

「そんなことは知ったことじゃないのよ…何があろうと、私はここをじかに調べなきゃならない。『すべての始まり』を、私だけが知らなかったんだから…!」

紫苑は、決意とはまたちがった炎をその瞳に宿している。
そんな彼女に、困惑とも恐怖ともつかない表情を向けながら男は吐き出すように言った。

「僕はお前のことが心配で言ってるんだよ紫苑」

「あなたに私のことを心配してもらう義理はないわ」

「そ、そんな…『秘匿』されてたこの場所を教えてやったのは僕なのに」

「それについてはありがたいと思ってるわ。だからこそ、今こうしてお話してあげてるの…そうじゃなきゃ、あんたみたいなのを近づけるわけないでしょ」

「う、うぅ…」

太った男は、反論できずに顔をゆがめる。
やがて少しうつむきがちになり、紫苑にこう言った。

「や、やっぱり…親父がやったこと、恨んでるんだな…」

「当然よ。私が生きてる限りは恨みぬくわ」

開いたばかりの扇子を、紫苑は瞬時にたたむ。
わざと大きな音を立てたのは、男の言葉をシャットアウトする狙いもあっただろう。

彼女は険しい表情で、男にこう続けた。

「義継おじさまが亡くなったこと、お兄さまと榊だけが生き残ったこと…その両方を利用して、どちらの家も叩きつぶしたのはあんたの父親」

「そ、それは…」

「その時子どもだったあんたには何もわからなかったでしょうけど、一族の中心に成り上がった恩恵を受けてきたのは間違いない…それだけで、私の恨みを買う条件は充分にそろってるの」

「………」

「ただ、あんただけは私に従順だから、私の役に立つことを『許してあげている』…それだけのことよ。変な動きを見せたら、あんたも父親や姉のようになる…覚悟しておくことね」

「…僕は、紫苑を裏切ったりはしない…」

「口ではなんとでも言えるわ」

「キミが天馬のことを好きなのもわかってる。それでも僕は、紫苑のために…」

「紫苑さま」

男の言葉に割り込むように、サングラスをかけたスーツ姿の召使いが紫苑に報告にやってきた。
召使いは、男の様子を見て会話に割り込んだことを気にしていたが、紫苑が閉じた扇子で構わないと合図したため、報告の義務を果たす。

「お話中のところ申し訳ございません。研究所の入口が開きましたのでご報告にあがりました」

「そう、ご苦労さま」

紫苑は報告を聞いてニヤリと笑った。
その後で男の方を見る。

「雅人(まさと)、あんたはもう帰ってくれていいわ。ここからは私だけで調べるから…くれぐれも、今回のことは秘密にしておくのよ」

「あ、ああ…わかったよ。どうか気をつけて、紫苑」

「言われるまでもないわ」

フン、と鼻を鳴らして、紫苑は雅人と呼んだ男に背を向けた。
そして廃墟となって残されていた『研究所』へと向かっていく。

雅人はそれを心配げに見つめていたが、やがてがっくりとうなだれた。
後方にある車に戻っていくと、運転手があわてて車を降りて彼を迎え、気づかいつつ後部座席へ乗せるのだった。

紫苑は、はるか後方で車のドアが閉まる音を聞いた。
雅人が車に乗ったのだろうというのはわかっている。

だからこそ、彼女は口の端を少しだけゆがめた。


「…内部は、雅人さまの調査団から報告があった通りです。ただ、空気の組成に少し変化があるようですね…」

廃墟となった研究所の通路内。
スマートフォンのような大きさと形をした器具を持った召使いが、紫苑に報告する。

召使いも紫苑も、この中では宇宙服のような全身を覆うパワードスーツを身にまとっている。

「それは、お兄さまにとりついてた悪魔の細胞が、そこらに浮いてるってことかしら?」

「いえ逆です。空気以外の詳細不明の物質は、報告より濃度が下がっています」

「へぇ…? でもこれは脱がない方がいいのね?」

「はい。やはりどういう影響があるかわかりませんので、万全を期すという意味でも」

「わかったわ」

雅人に対する態度とはうってかわって、紫苑は召使いの忠告に従った。
転倒してスーツに傷をつけないように、足元に気をつけて通路を歩いていく。

当時としては最新の設備だったらしく、ところどころはまだ光沢が残っている場所もある。
だがほとんどはガレキと土砂にまみれ、悪魔が暴れた跡なのか穴が空いていたりもした。

「……」

パワードスーツの頭部にあるライトが、洞窟のような通路を照らしていく。
どこから入り込んだのか、ネズミがたまに走り回っているのが見えるが、それ以外の生き物がいる気配はない。

「…もっとぐちゃぐちゃの死体とかあるかもって覚悟してきたんだけど」

紫苑がそう言うと、召使いのひとりがすぐにこう言った。

「さすがに年月がたってますからね…ネズミどももいるんじゃ、もうそういうのは…」

「わかってるわ、言ってみただけよ」

紫苑はそう言って、やれやれと息を吐いてみせる。
それで話は終わるはずだったが、ふと召使いはこう続けた。

「でも不思議ですね、骨も残ってないというのは…」

「…え?」

紫苑は召使いの方を見る。
ここで全員の足が止まった。

「あ、えっと」

紫苑の足を止めてしまったことで、召使いは少しとまどう。
だが言ってしまった限りは説明しなければならないと思い、彼女にこう言った。

「紫苑さまもご存知の通り、ここは事故があってすぐに封印されました。遺体もほとんどが判別不明なのと、何が起きるかわからないというのもあって…」

「知ってるわ。義継おじさま以外、ほとんどほったらかしになってるんでしょ。だから私はさっき…」

「紫苑さま!」

突然、別の召使いが紫苑にぶつかってきた。
彼女はなすすべもなくよろけてしまい、その場から3歩ほど右に移動する。

そのすぐそばを、白い何かが通り過ぎた。

「!?」

全員がその気配に気づいた。
そちらを見ると、頭部のライトが視線の先を照らす。

そこには…

”ナニモノ ダ”

白く細い骨が組み合わさった、しかしどの動物でもない何か。
それが、声帯もなさそうな体から声を出していた。

「な、なんだこいつは!?」

召使いたちは、白い異形に向かって一斉に銃を向ける。
白い異形は、1本だけ細長い骨を前方に出し、それを左右にゆらゆらとゆらし始めた。

「…待ちなさい」

紫苑がその様子を見て、召使いたちを止めた。
彼女は白い異形に対して、声をかけてみた。

「あなた…お兄さまにとりついた悪魔の…残りカス、ね?」

”アクマ? ナニヲ イッテイル”

「…質問を変えるわ。あなた、ずっとここに住んでるの?」

”ソウダ。 ココハ ワレノ ナワバリ”

白い異形は、前方に伸ばした細い骨を、さらに伸ばしてきた。
それを揺らしているのは、こちらの動向を見ているのか牽制しているのか、どうにも判然としない。

だが、問答無用というわけではないようだ。
警戒しつつも、相手の出方を知りたいということらしい。

”オマエタチ ナニモノ ダ”

「私は皇 紫苑。この場所の、今の持ち主よ」

”ココハ ワレノ ナワバリ”

「それはあなたのルールね。私が言ってるのは、私たち人間のルール…ここは昔、私の親戚が『月の石』を研究していたの。事故があって、ここにいた人たちはほとんどが死んでしまったわ」

”…オマエ ナニヲ イッテル?”

「ここで昔起こったことを言ってるの。多分、あなたが生まれる前の話よ」

”……?”

白い異形は、前方に出した骨を上に向け、それを少しだけ右に傾けた。
首をかしげているように見える。

だがやがて、また骨は前方に向けられた。
左右にゆらゆらとゆらし始める。

”ココハ ワレノ ナワバリ”

「…どうやら、あまり知能は高くないみたいね」

紫苑はそう結論づけ、スマートフォン状の器具を持った召使いに声をかける。

「コイツの分析、終わった?」

「はい。大部分がリン酸カルシウム…つまり、見た目通りほぼ骨です」

「なんで動いてるかはわかる?」

「体内、というより…スカスカなので骨の内部ということになりますが、その内部にやはり『詳細不明』の物質が存在しています。恐らくこれが、例の…」

「し、紫苑さま、見てください!」

「!?」

急に呼ばれ、紫苑はあわててそちらを見た。
すると、召使いが前方を指差している。

そちらを見ると、白い異形が前方に出した骨をさらに大きくゆらしているところだった。

「なに? やる気なの」

”ココハ ワレノ”

そう言ったところで、白い異形の体が一部くずれる。
自分が起こした緩慢なゆれを踏ん張りきれず、骨で構成された体はどんどんくずれていった。

”ナワバ…リ”

そこまで言ったところで白い異形は骨の山と化し、ゆらしていた骨も地面に落ちた。
紫苑たちが驚愕している前で、やがて異形はまったく動かなくなった。

この時、スマートフォン状の器具から音が聞こえてくる。

「なに、なんの音?」

「どうやら…死んだ、ようです」

「え?」

紫苑は意味がわからず、器具を持った召使いに近づく。
画面を見ると、心電図のようなグラフにまっすぐ横の線が入っていた。

「恐らく、ここに残された遺体を食べていたようですが…これまで言語機能を使う機会がなかったために、そのストレスに耐えきれずに死んでしまったのではないかと…」

「…どういうこと?」

「これは推測でしかありませんが…」

召使いはそう言いながら、器具の音を止める。
その跡で紫苑に推測を語った。

「話す機能そのものは持っていたようですが、それに足る栄養素が不足していたと思われます。食べるものもなくなって、かなりたっていたでしょう…そこに我々が現れて、警戒をする必要に迫られた」

「それで?」

「そのことがストレスになって、自分で自分を殺してしまったのではないかと…いわば、悪魔のなりそこないだったのではないでしょうか」

「悪魔の…なりそこない…」

紫苑は神妙な面持ちで、くずれ落ちた白い異形を見る。
そのそばにはもうネズミたちが集まってきていたが、食べられる肉がないためか、ただ周囲をうろうろしているだけだった。

「要は、死んだのね?」

紫苑が尋ねる。
召使いはうなずきながら、彼女にこう報告した。

「はい。詳細不明の物質は、活性化せずに活動を止めました。もしかしたら、私たちは貴重なサンプルを失ってしまったのかも…」

「…いえ、貴重なサンプルなんかじゃないわ」

「えっ?」

「お兄さまにとりついた悪魔は死んだわ。死ぬべきだったし、人の手に渡るべきものじゃない。あの白いバケモノもそれは同じよ…かわいそうな言い方だけど、ここで死んでよかったんだわ。きっと」

「紫苑さま…」

「ただの生物として死んだんでしょ? 誰かに利用されるとか、そういうことは起こらない…だったら、もうそっとしておくべきだわ」

紫苑は、白い異形をしばらく見つめていた。
だがやがて、キレのある動きで後方に向き直る。

「調査は中止よ」

「え!?」

紫苑の言葉に、召使いたち全員が驚く。
彼女は、彼らにその理由をこう述べた。

「ここは、あのバケモノの墓になる…これまで通り、封印を続けるわ。撤収よ」

「よ、よいのですか、紫苑さま…この研究所には、義継さまがハメられた形跡が必ずあると、それを見つけるために雅人さまにもご助力いただいてましたのに」

「悪魔が生まれたのは、義継おじさまが単に研究を失敗したからってわけじゃない。雅人の父親がわざと失敗させたせい…それはもう、雅人の調査でもわかってることよ」

そう言いながら、紫苑は今来た道を歩き出す。

「今回は、それを私が自分の目で確認したいと思ったから来た…そしてあの白いバケモノも死んだわ」

「は、はあ」

「ここから、あの悪魔みたいなものはもう万に一つも現れない。そういうことよね?」

「それは…ほぼ間違いないと思われますが…」

「じゃあ、あとはここを厳重に封印しておけばいいだけのことよ」

「…な、なんともったいない…」

召使いは紫苑についていきながらも、白い異形がいた位置を何度か振り返る。
そんな彼に、彼女は笑ってみせた。

「生物学的には、とんでもない発見なんでしょうね…アレを利用すれば、私はもっと財を得られる」

「はい、それはまちがいありません」

「でもね、もうかるからって何にでも手を出せばいいってもんじゃないわ。それが、あたしのやり方」

「それは、存じ上げておりますが…今回ばかりはなんとも…」

「あきらめなさい。その分、ギャラは上げてあげるから…そのかわり、ここの封印はしっかり頼むわね」

「…そうまでおっしゃられては私たちももう、何も申し上げますまい。かしこまりました、紫苑さま」

紫苑は召使いたちをつれ、研究所を出た。
すぐさま召使いたちによって、出入口は厳重にふさがれる。

その作業を紫苑はしばらく見守っていたが、ふとある方向を見た。

出入口から少し離れた場所、黒塗りの車が停められている。
それは雅人の車なのだが、そのすぐ前に雅人がひざ立ちになっている。

何事かとよく見ると、彼は組んだ手を額に当てていた。
陽の光を反射して輝くようなほど白いスラックスが、砂にまみれている。

どうやら、何かについて祈っているようだ。

一度車に乗ったはずなのだが、また外に出てきたらしい。
研究所の出入口付近は少し高低差が複雑で、雅人側からは紫苑たちが出てきたのが見えなかった。

「…紫苑、紫苑…! どうか無事に帰ってきてくれ…!」

風に乗って、雅人の声が聞こえてくる。
それを聞いた紫苑は、小さく、どこか困ったように笑う。

召使いのひとりが、その表情を見て彼女に尋ねた。

「紫苑さま、いかがなさいました?」

「ううん…ちょっとだけ、見直してやろうかなと思ってね」

「え?」

「こっちの話よ」

「は、はあ…」

召使いは意味がわからず、首をかしげた。
紫苑が小さく微笑むと、その髪を風が優しくなでるのだった。


>episode47へ続く
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2016-11-28 12:00:02

【本編】episode45 つーでいずあふたー

テーマ:ボクのご主人さま:本編
episode45 つーでいずあふたー


「なんかいい話で終わらせようとしてるけどよォ…みんなオレのこと忘れすぎじゃね?」

じっとりとした目でそう言う風野は、ビニールに覆われた新品のソファを持っている。
そんな彼に苦笑しながら玲央菜が答えた。

「ごめんなさい風野さん、昨日はさすがにボクもいっぱいいっぱいでおかまいできなくて…」

「それに片付けのバイトってよォ、オレ一応忍者なんだけどなァ」

「まあまあ、一応お給料も出ますし」

「それなんだよなァ」

やれやれといった表情で、風野は首を横に振る。
玲央菜に指定された場所にソファを置いた後で、両手を広げてみせた。

「天馬の旦那に頼まれた上にバイト代も出るっつーんじゃ、オレが断る理由もねェ」

「あ、今度はテーブルお願いします」

「嬢ちゃんも何気に『オレづかい』荒いしよォ」

「まあまあ。ボクにちゅーしかけたこと、まどかさんには黙っててあげますから」

「うぅ…世知がれェ話だなーったくよォ!」

風野は盛大にぼやきながら、玄関へと向かっていく。
それを見送った後で、彼女は手にした紙に視線を移した。

それには家具の名前、品番と個数が記されている。
項目を指差し確認しつつ、彼女は風野に運搬をやってもらっていた。

「テーブルはそこで…次は椅子ですね」

「なァ、嬢ちゃんよォ」

「はい?」

「あの時ぶっ壊れたモンって、こんな多くなかったろ」

「そうですね…あれだけ大変だった割には、ほとんど壊れなかったですよね」

「じゃあなんで、こんなにいっぱい家具がぶっこまれてくんだよ?」

「えっと…それは、紫苑さんが…」

そこまで言いかけて、玲央菜は一度言葉を止める。
なぜか険しい表情になり、咳払いをしてから声色を変えた。

「『壊れた家具を買い換える? だったらちょうどいいわ、この際だから私が気に入らなかった家具も処分させてもらうわね』」

「ぶっは」

風野は思わず吹き出す。
玲央菜は、紫苑の声色と言い方を真似してみせたのだ。

もちろんもともとの声がちがうので完璧には似ないのだが、しゃべり方のポイントは押さえているため、普通に聞く分にはすぐに『紫苑のモノマネ』だとわかる出来になっている。

「ははっ、嬢ちゃんなかなかやるじゃねーか。結構似てるぜ?」

「えへへ、そうですか?」

風野から高評価をもらって、玲央菜は笑顔になって声も戻す。
そして彼に、モノマネのコツを語り始めた。

「紫苑さまのマネをするポイントは、ちょっとこう…某歌劇団の男役っていうか、りりしい感じを出しつつ、でもそれとは別にちょっとイジワルな感じもプラスするっていうか」

「ほうほう、なるほどな」

「バランスが難しいんですよね。りりしすぎると舞台のセリフみたいになっちゃうし、イジワルすぎるのもちょっとちがうし」

「へぇ~…」

玲央菜の講義に、風野は感心しつつうなずいている。
だがふと、その顔に青みが差した。

その目は玲央菜の背後を見ているようだ。
だが彼女は、そんな風野に気づかない。

「紫苑さまって今まで会ったことがないタイプの人だったんで、こう…なんていうかマネできたらちょっと楽しいだろうなーなんて思ったりして」

「お、おい嬢ちゃん」

「でもまだ、天馬さまと榊さんには見せてないんですよ~。もしかしたら怒られちゃうかな、とも思いますし、風野さんはどう思います?」

「え、えーとな…」

「…ん? どうかしたんですか?」

玲央菜はここでようやく、風野の異変に気がついた。
彼の目が自分を見ていないことを不思議に思う。

「風野さん、一体どこ見てるんです?」

「あのふたりに怒られるっつーか…まず本人に怒られるんじゃねーかなっつーか…」

「え、本人?」

意味がわからないまま、彼女は風野が見ている方向を見ようと後ろを振り返った。
そこには…

眉を釣り上げた紫苑が立っていた。

「…この私のモノマネですって? ずいぶんいい度胸してるのね、バカメイドの分際で」

「あ、あれぇー?」

振り返った体勢のまま固まる玲央菜。
そして紫苑の雷が落ちる。

「いつまでたっても追加の家具取りに来ないと思ったら、あんたたち何やってんのッ!」

「す、すまねぇー!」

「ごめんなさーい!」

風野と玲央菜は同時に逃げる。
少し離れた場所でそれを見ていた天馬が、腹を抱えて笑った。

その隣で榊は軽く嘆息している。
それはいつもより賑やかなひとときだった。

天馬が目覚めた日、紫苑と玲央菜に説明をすませてから、天馬はまたしばらく眠った。
それから1日おいて翌々日に、紫苑が突然新しい家具をいくつか取り寄せ、風野と玲央菜に配置を命じた。

入れ替わりで古い家具は紫苑に回収される。
彼女は家の者を呼んでそれを運ばせ、玲央菜にはモノマネ禁止を言い渡してから住良木家を去っていった。

「はぁ…大変でしたねぇ」

「モノマネに関しては、嬢ちゃんの自業自得な気もするけどな」

「えへへ、ちょっと調子乗りました」

玲央菜はそう言って頭をかく。
その後で、新しい家具が置かれた場所を見た。

紫苑は、リビングの家具を総入れ替えさせていた。
そこだけ家具が新しいので、家具そのものだけでなく空間そのものが真新しく感じられる。

「でも、どうして紫苑さまは急に家具の入れ替えなんてしようと思ったんでしょう?」

玲央菜が問うたのは天馬だった。
天馬は早速新しいソファに座り、横たわり、その感触を確かめつつ楽しんでいた。

「そうだなー…」

玲央菜からの問いを考えつつ、彼はソファの寝心地を堪能している。
やがてまぶたを閉じると、静かに寝息を立て始めた。

「あら…」

「旦那、寝ちまったな…まァ無理もねェ。魂精丸の効きが解けてまだ2日だからなァ」

「肌掛け持ってきます」

玲央菜は静かに、しかし素早くその場を離れた。
その数秒後、天馬は薄くまぶたを開ける。

「…風野」

「あ、旦那? 起きてたのかよ?」

「忍者なのに、搬入のバイトなんかさせて悪かった。紫苑もあれで考えがあってのことだから、気を悪くしないでくれ」

「別にそんなのァいいんだよ。オレぁ金さえもらえりゃ、その分の仕事はするからよ」

「そう言ってくれると助かる」

「…嬢ちゃん向こうに行かせてまで、オレにしたい話ってそれか?」

「いや。実は…」

天馬が続きを話そうとすると、玲央菜が肌掛けを持って戻ってきた。
気配で気づいたのか、天馬は「またあとで連絡する」と言ってまぶたを閉じた。

風野もそれで了承し、ふたりの話は終わる。
そして彼は、何事もなかったように玲央菜を迎えた。

「お、早かったな」

「これでもけっこう探したんです…紫苑さんが勝手に、いっぱい持って帰っちゃってて」

「え、布団をか?」

「はい。榊さんに訊いても理由は教えてもらえなかったみたいで」

玲央菜はそう言いながら、ソファで眠る天馬に肌掛けをかけた。
風野は少し不審に思いながらも、それを彼女には話さない。

「まあ紫苑さまのことだし、普通の神経で考えてもな」

「あはは…そうですね」

「じゃ、バイトも終わったしオレぁ帰るぜ。嬢ちゃんもしっかり休めよ」

「あ、はい。それじゃあ、また」

「おう、またな」

風野は玲央菜に右手を挙げてみせ、別れのあいさつをした。
少しがに股で飄々とした歩き方をする背中を見送った後で、玲央菜は天馬の寝顔を見つめる。

「…もしかして紫苑さま、天馬さまのにおいが残ってるから、お布団とかも持って帰っちゃったのかな…」

そう言った後で、一度周囲を見回す。
榊の姿は見えない。

というより、玲央菜は榊が今39階部分で片付けをしていることを知っていた。
周囲をわざわざ見回したのは、念には念を入れた確認だった。

その確認を終えた彼女は、少しずつ天馬に近づいていく。

「……」

天馬は寝息を立てているが、寝てはいない。
風野と少しだけ話をした時と同じように、意識ははっきりとしている。

そのため、気配で玲央菜が近づいてきているのを感じている。
一方の玲央菜は、まさか天馬が起きているとは思わず、だから近づくことをやめない。

彼女は、彼を起こさないように、ソファのひじかけに置かれた彼の頭に顔を近づける。
そして髪に触れるかどうか、というところでくんくんとにおいを嗅いだ。

「……はあ」

ゆっくりと離れ、大きく息を吐く。
その後で玲央菜は静かにその場を去っていった。

「………?」

彼女がいなくなってしばらくして、天馬はまぶたをぱちりと開ける。
一度首をかしげ、その後で頭を右手で軽くかいた。

その右手を鼻先に持ってくる。

「におい…嗅いでた、よな……?」

自分の右手に残っているであろう頭のにおいを嗅ぐ。
だが、特に何かのにおいがあるようには思われない。

だがふと、顔を真っ青にしてまさかと考える。

「まさか…まさかとは思うけど、俺にもついに加齢臭が…!?」

本人は若い感じのおじさん、という気持ちでいるが、三十路に入ったのは昨日今日の話ではない。
それに、加齢臭は自分ではわからないという話を聞いたことがある。

玲央菜が自分のにおいを嗅ぎ、息をついたのは…それが理由ではないのかと天馬が疑うのも自然なことだった。

「あの『はあ』ってのは、まさか…やっぱりおじさんはおじさんね、とかそういう…!?」

玲央菜は女子高生であり、男のにおいにはことさらに敏感な年頃でもある。
天馬はソファから体を起こし、頭を抱えた。

「さ、榊に相談してみようか…」

そんなことをつぶやきながら、思い悩む。
玲央菜に直接尋ねたところで気をつかわれるのがオチだと考えると、彼女に確認するわけにもいかなかった。

一方、その玲央菜はゲストルームを片付けながら、少し顔を赤らめている。

「…やっぱり、いいにおいだったな…ふふ」

彼女は、天馬のにおいが好きだった。
彼のことが異性として気になり始めたのも、その汗のにおいを嗅いでからだった。

「犬みたいでなんかおかしいけど、でもボクはやっぱりあのにおいが好き…寝顔もかわいかったな」

照れくさいような、恥ずかしいような。
胸の奥がむずがゆくなるような感覚が、彼女を思わずにやけさせる。

本人がどれだけ思い悩んでいるかなど想像できるはずもなく、彼女はニコニコしながら仕事に勤しむのだった。


>episode46へ続く
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2016-11-24 12:00:02

【本編】episode44 ただひとつだけ

テーマ:ボクのご主人さま:本編
episode44 ただひとつだけ


天馬の話を聞いた後で、紫苑はゲストルームに案内された。
いつもの彼女からは考えられないことだが、その案内に彼女は素直に従った。

ゲストルームに案内された彼女は、玲央菜に着替えを手伝わせた後で、倒れ込むようにベッドで眠ってしまった。
恐らく、天馬のことがあまりに心配で、限界まで眠れずにいたのだろう。

そもそも、ゲストルームに紫苑を案内することになったのも、彼女の顔色がよくないことに天馬が気づいたからだった。

「…紫苑の具合は?」

部屋に玲央菜が戻ると、天馬はすぐさま彼女に尋ねる。
彼女が心労と寝不足によるものだろうと説明すると、そこまで深刻ではないと気づいた彼は少し安心したようだった。

その後で、今度は玲央菜を呼ぶ。
紫苑が座っていた椅子に座るよう言うと、彼女は彼の言葉に従った。

だが直後にその表情は曇る。
曇ってしまったのも隠さないままで、彼女は天馬にこう問うた。

「あの…天馬さま、お体は大丈夫なんですか?」

天馬が自分についての話をしようとしているのは、玲央菜ももちろんわかっている。
だからこそ、彼女はそう尋ねた。

彼の体調が本当に心配なのもあるのだが、どこか話を聞きたくないような気もしている。
気もしているというのは、それが本当の気持ちなのかどうか彼女自身にもわからないからだ。

自分の出自について、概要のようなものはすでに榊から聞いている。

聞いた当時は、戦いが終わったばかりなのもあってよくわからないというのが正直なところだったが、風野の家に世話になるという時間があったおかげで、少しだけ自分の中にその内容が定着している。

だが、話の内容が定着したのと、それを受け入れられるかどうかは別の話だった。

そして榊ではなく、天馬がそれを説明してしまえば、受け入れるかどうかという玲央菜の気持ちは意味のないものになってしまう。

問答無用の事実の前には、まさに当事者の意志など意味をなさないのだ。
そのことが、彼女の胸の中をどんよりとにごらせてしまっている。

そして天馬も、なんとなくではあるが玲央菜の『にごり』を感じ取っていた。

「…俺は、大丈夫だけど…」

じっ、と玲央菜を見る。
玲央菜は目を合わせられない。

そんな彼女に、天馬はこう続けた。

「キミが大丈夫じゃないというのなら、俺はこのまま何も言わずにいることもできる」

「…!」

天馬からそっぽを向いたまま、玲央菜はごく小さく体を震わせる。
目を見開いてはいるが、彼の方へ向き直ることはできない。

どちらかというと、見開いているというよりは、まぶたを閉じる力を失っているという方が正しかった。

天馬はさらに続ける。

「キミが望むなら、何も言わずに…そうだな、今回のことも全部忘れて、今まで通りでいることだってできる」

「…いままで、どおり…」

「紫苑はあの性格だし、俺のことを知っても誰にも何も言わないだろう。もちろんキミにも何も言わない。絶対に相談なんかしないだろう」

「……」

「風野は…ちょっと口は軽そうだけど、俺が頼めば何も言わないでくれるんじゃないかな。アメジストを買い取った件で、一応恩義を感じてくれているみたいだし」

「………」

「もちろん榊だってもうキミには何も言わない。キミに預けたものも、キミが知らないうちに回収するし、その痕跡はまったく残さないようにすることができる」

「…………」

「俺は俺で、何かの拍子に自分のことをペラペラしゃべったりはしない。紫苑に対しては俺も少し甘いけど、皇の家のスキャンダルを狙う連中にボロを出すほどマヌケじゃない」

天馬は、彼自身の体質に関する情報を知る者たちが、玲央菜に何も言わない可能性を示している。

それはつまり、彼が最初に言ったように『玲央菜が望むなら戦いに関することだけをなかったことにできる』ということだった。

でも、と玲央菜は言葉を返す。

「でも、それは…『あのこと』をごまかすって…そういうことですよね」

「そうだね」

天馬は即答した。
ここでようやく、玲央菜はまばたきをする余裕を取り戻した。

とてもゆっくりとした動きで、彼女は天馬の顔を見る。
だがやはり、目は合わせられないままこう言った。

「ごまかすっていうのは…よくないんじゃ…」

「そうでもないさ」

「…え?」

思わず目が動く。
まともに天馬と目が合った。

「あ」

玲央菜はあわてて目をそらす。
そんな彼女に、天馬は小さく苦笑した。

その後で真顔に戻り、自分から目をそらしつづける少女に優しく言葉をかける。

「…確かに、ほめられたものじゃないかもしれない。一般的に、ごまかすっていうのはよくないこと…そう言われてる」

「……」

「だけど、一般論より大事なのは自分の気持ちじゃないかな」

「…ボクの…きもち」

「ああ。もし、心が壊れてしまうくらい苦しいことなら、ごまかしてみたっていいんだ。いつか受け入れられるような気がした時に、あらためて挑戦したっていい」

「………」

「それは逃げだって思うかもしれない。だけど、百獣の王だって形勢が不利ならためらわずに逃げる。逃げるのは別に、悪いことじゃないと俺は思うよ」

「……」

天馬の言葉に、玲央菜は唇をきゅっと引き結ぶ。
そしてもう一度彼を見た。

「どうして…」

「ん?」

天馬はふと気づいた。
玲央菜の目つきが、これまでとは変わっている。

彼がそれに気づくのとほぼ同時に、彼女は少しだけ声を震わせながら言葉を吐き出した。

「どうして、そんなに優しいことを言ってくれるんですか」

「優しいことを言ってるつもりはないよ。俺の考えを言ってるだけさ」

「でも、紫苑さんにはそんなふうに言わなかったじゃないですか」

「…キミは紫苑じゃない」

「榊さんにも、そんなふうには言わなかった」

「それも同じさ。キミは榊じゃない」

「きっと風野さんにも、そんなふうには言わないんじゃないですか?」

「そうだと思うよ。だってキミは風野じゃない」

「そんなの…!」

玲央菜はうつむいた。
きらきらした粒が、いくつか彼女のひざに落ちる。

「なんか、ボクだけ仲間はずれみたいじゃないですか…!」

「ちがうよ、そういう意味で言ってるんじゃないんだ」

「……っ!」

玲央菜は唇を強く噛んだ。
彼女もわかっていた。

天馬が優しく言ってくれているのは、自分だけのけものにするためではないというのはわかっていた。
だがなぜか、そんな言葉が口から飛び出た。

胸の中央に手を置いて、ぐっと握り込む。
うつむいたまま、彼女は天馬にこう言った。

「ごめんなさい…ごめんなさい、わかってるんです…!」

「……」

天馬も、彼女が心から仲間はずれにされたと思っているわけではないと、ここで気づいた。
少しだけ動き、ベッドに座っている状態からその端に腰かけている状態へと体勢を変える。

ベッドそばの椅子に座っている玲央菜との距離が、かなり縮まった。
天馬がゆっくりと手を伸ばすと、彼女は一瞬だけ体を遠ざける。

その時点で天馬が動きを止めると、やがて彼女は体をまっすぐに戻した。
天馬はそっと、しかし迷いのない動きで彼女の右手に触れる。

「ごめんよ、キミに選択を任せたのは酷だったかもしれない」

「……」

「だけど、知っておいてもらいたかったんだ。キミは何も遠慮しなくていいって」

「…遠慮なんて、ボク…してない」

「そうか…それなら、よかった」

「…うぅ」

玲央菜の右手を包んだ天馬の両手に、彼女の涙がしたたり落ちる。
それに気づいた彼女は、胸の前で握っていた左手を、あわてて彼の手へ伸ばした。

「ごめんなさい、濡らしちゃって…」

「だいじょうぶ」

天馬は、自分の手に伸ばしてきた玲央菜の左手をすかさずつかんで、彼女自身の右手に重ねた上に自分の両手を置いた。

玲央菜のひざの上で、ふたりの両手が重ね合わされる。
天馬のぬくもりが、玲央菜の少し冷たい手に伝わった。

「あったかい…」

思わずそんな言葉が口からこぼれる。
それを見た天馬は、優しく彼女に微笑むのだった。

ここで一度話は中断され、榊によってハーブティーが用意された。
玲央菜はメイドの仕事中ではあったが、今回は特別に天馬とともにティータイムをとる許可がおりた。

その後、天馬は事のいきさつをあらためて玲央菜に説明する。

「…まず、親戚のおじさんが『月の石』と呼ばれる石をとんでもない値段で買って、それにくっついてる何らかの生命体を研究し始めた…ここまではいいかな?」

「はい」

玲央菜はそう言いながらうなずく。
天馬はそれを確認してから、続きを語った。

「研究の末に生命体は『悪魔』となって現れた。それは実験施設の中で暴れまわって、そこにいたほとんどすべての人たちを殺してしまった。生き残ったのは、この日偶然呼ばれていた俺と榊だけだった…」

玲央菜は、話を聞くかどうかの選択を任されるより、当然の流れであるかのように事実を説明されてしまいたいと望んでいた。

とはいえ彼女は「説明してほしい」と天馬に直接頼むことはなかった。
結局、彼女は自発的には選択できなかったのである。

自分の人生に関わることではあったのだが、起きたことが何しろ大きすぎた。
選択できなかったことは彼女の弱さと未熟さではあったかもしれないが、それを責める者は誰もいなかった。

「…俺は悪魔にとりつかれることになって、榊と一緒にどうしたらそれを取り除けるのかをいろいろ試した。だけど、どれもこれもうまくいかなかった…それだけじゃない、実験施設で起こった事件のせいで俺は実家から追い出されるハメになった」

「……はい」

「榊が交渉してくれたおかげで、悪魔をどうにかするための資金だけは確保できたけど、肝心の『どうにかする方法』がわかんないままで…だけどある時、俺たちは不思議な錬金術師に会った。彼からいろんなことを教えてもらって、切り札である黒皇刃をもらった」

「………」

「まあそれからもいろいろあって、結局は黒皇刃を抜いたキミに助けられた…これが今、だね」

「はい」

「キミの体は極めて特殊で、その中には悪魔が由来の細胞がある…俺とはまた別の『混ざり方』をしたキミが、唯一の黒皇刃の使い手になった…じゃあ一体どこでそんな特殊な『混ざり方』をしたのか?」

「……」

「ここで話が最初に戻って…悪魔を生み出した『月の石』の実験を始めた親戚のおじさん、これがキミのおじいさんだった。『月の石』の近くにいることで悪魔の細胞が入り込み続けて、それがキミのご両親にも『感染』した。その上でキミに遺伝することで、キミは特殊な『混ざり方』をしたんだ」

「…だから黒皇刃を抜くことができた、ってことですよね…」

玲央菜は落ち着いていた。
やはり、先に榊に概要を聞いていたのが大きかったらしい。

天馬もそのことについては報告を受けていたので、彼女の反応を見ても驚くことはなかった。
どちらかといえば、取り乱さずにいてくれたことで安心していた。

「……」

玲央菜は考え込んでいる。
天馬の説明は、いわば確認作業の域を出ないものだったが、気になる部分があらためて出てきていた。

「なんか…不思議ですよね」

「なにがだい?」

「めぐりあわせっていうか、なんていうか…黒皇刃って、ボク以外には抜けないんですよね?」

「そうだね…悪魔にとりつかれてる俺にも抜けなかったから、多分キミ以外には抜けないと思う」

「それって、まるでボクが絶対にここに来るってわかってたみたいな…」

「そりゃあまあ、俺たちも必死で探したからね。キミを」

「あ、いや、そういうことじゃなくて…」

玲央菜は両手をわたわたと振ってみせる。
少し顔が赤いのは、天馬と出会った当時を思い出すからかもしれない。

彼女は気を取り直して、何が言いたかったのかを彼に説明した。

「…榊さんから、ボクの本当の両親は悪魔の細胞のせいで死んでしまったって聞きました。もしかしたら、ボクもそうなってたかもしれない」

「…ああ」

天馬は、この時点で彼女が何を言いたいのか感じ取ったようだ。
だがそれについては言及せず、彼女の言葉を待つ。

「ボクも同じように悪魔の細胞のせいで死んでしまったら、そこで…えっと、天馬さまの親戚のおじさんの血は途絶えるってことになるじゃないですか」

「そうだね」

「なのに、黒皇刃を作った人はその可能性を考えなかったんでしょうか?」

「多分、おじさんの血はそれほど関係なかったんだろうと思う」

天馬は腕組みをしながらそう言った。
続けて、その根拠らしきものを語る。

「要は、悪魔の細胞との混ざり方がうまいこといってればいいってことだから、おじさんの血筋じゃなくても、いつかはそういう混ざり方をした人が現れてたんじゃないかな、っていう…まあそれも、とても小さな可能性ではあるけど」

「……そんな小さな可能性に賭けるしかなかった、ってことなんですかね…」

「そうかもしれないね。そもそも、黒皇刃を作った錬金術師もよくわかんない人だったからなあ」

「そうなんですか…」

玲央菜はどこかぼんやりした口調でそう言った。
やはり悪魔に関することは、普通の人間の理解を超えている…そう思い知らされたようだった。

ただ、ひとつだけ。
彼女にもわかったことがある。

「…倒せて、よかったです」

自然と笑みがこぼれる。
その言葉に天馬が「ありがとう」と言うと、彼女は首を横に振った。

「お礼とか、いいんです。なんていうか、ボクが…そうできてよかった、って」

戦いの中では、無我夢中だった。
だが今思い返してみても、きっと天馬のために戦えると彼女は思った。

それがなんだか嬉しく思えた。
その嬉しさが彼女の心を軽くし、胸の奥をやわらかくあたためるのだった。


>episode45へ続く
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