実は自分の曲を置いてます。 よかったらどうぞ★ ↓ その1:歌モノ


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その2:歌なし(インスト)


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非日常な日常コメディ「トン★スケ」連載開始!
2011/09/05からスタート!

学校の生物室…
人体模型のガイコツは、実は「トンスケ」という名のスケルトン!?
今ここに、学院を舞台としたゆるゆるコメディが始まる!

本編目次
登場人物の目次


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オリジナル能力モノ小説「ワード・サマナー」
完結!
全250話、1年弱の連載でした。

みなさんのおかげで、完結にこぎつけることができました。
本当にありがとうございます!m(_ _"m)ペコリ

左手のコトノハ、
右胸のコトダマ…
これらが織り成す物語に、どうかご期待ください!

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オリジナルファンタジー小説「ソード☆ビート」完結!

全119話、半年弱の連載でした。

みなさんのおかげで、完結にこぎつけることができました。
本当にありがとうございます(´∀`)

本編目次は→コチラ から♪
登場人物は→コチラ から★

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真・女神転生Ⅲノクターン~マニアクス~クロニクル・エディションの2次創作バリバリのト書きを書いています(3周目以降・完結済み)。

ゲームからは誰も予想できない、今までにない物語をお届け!


おもしろおかしく、時にはハードに。

人修羅と仲魔たちが奮闘してます!


→3周目の目次はコチラ

→4周目の目次はコチラ


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YouTubeに自作の曲をupしています。
よかったらどうぞ★

→曲リストはコチラ

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FFのやり込みはここを見ろ!

俺が感動してFF12国際版を思わず買ってしまった


とある魔人の記-やり込み in FF

やり込み in FF !!


文章力、戦術ともに素晴らしすぎる!

 
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2012-02-17 12:00:02

【トン★スケ本編】その23-5 「受験生グッドラック」

テーマ:トン★スケ:本編
◇23-5 受験生グッドラック◇

ところで…

ミコは、3年生が大学を受験することや、いずれ後輩ができることばかりを気にしていたようだが、ひとつとても重要なことを忘れている。

彼女自身も経験したことであるはずなのだが、意識して口には出さなかったのか。
それは誰にもわからない。

「…無理です、無理ですよ…」

”無理でもなんでも行ってくるんだ! お前、今日という日がどれだけ大事な日かわかってるのか!”

「わかってますよ、わかってますけど…ううぇ…」

大学受験のシーズンということは、高校受験のシーズンでもあるということ。
ミコと綾乃が受験の話題で盛り上がった日から数日後、聖クラレンス学院に入学するための試験が行われた。

大学でも高校でも、日本の受験生というのはきちんとした体調管理を求められる。
それというのも、受験が行われる時期というのは、インフルエンザやノロウィルスなど強力な感染症が流行している時期と重なるからだ。

「うぅ…げほっ、げほっ」

だが、危険はそれら「強力な感染症」ばかりではない。
当然ながら、「普通の風邪」も受験生にとっては脅威になりうるのだ。

ここにひとりの女子中学生がいる。
彼女はマスクをしており、明らかに顔色が悪い。

しかし、手にした携帯電話の向こうからは、言葉通り「はってでも行け!」と指示が飛ばされていた。
相手は学年主任の教師である。

「別に今日行かなくても…いいじゃないですか。どうせあたし、公立しか行くつもりありませんし…」

”それは面談で聞いているが、そういう問題じゃないだろう! とにかく、インフルやノロじゃないんなら他の生徒たちにも迷惑はかからん! 死ぬ気で合格もぎとってこい!”

「先生…マジっすか…」

”マジだ! じゃあな、健闘を祈る!”

「うわ、切れたし…」

彼女は、思わず手にした携帯電話を見た。
だがすぐにため息をつき、電話を閉じてカバンにしまう。

「うぅ…やっぱり行くしかないのか…」

意識を少しばかりもうろうとさせながらも、どうにか駅にたどり着く。
自宅の最寄り駅から電車に乗り、聖クラレンス学院へ向かう。

学院へ近づくほどに、電車の中に制服姿の少年少女たちが増えた。
彼女と同じ制服もあったが、知り合いではなかったようだ。

「けほっ、けほっ」

喉がどうにもつらく、彼女は小さく咳をする。
すると周囲の少年少女の視線が、彼女の体を射抜いた。

「……(すいません…)」

彼女にしてみれば、咳をするつもりなどなかったのだが…
その体を侵略している風邪はかなり強いものらしく、抑え込むことができなかった。

周囲の生徒たちは生徒たちで、受験しに行くのに病気をもらってはたまらないという思いがある。
それは気持ちが冷たいのではなく、みんながみんなこの日に賭けてきたという事情があるのだ。

風邪をひいた彼女を責めるべきでもなければ、彼女を厳しい視線を送る生徒たちも責めるべきではない。
何より、風邪をひいた本人がそれを一番よくわかっていた。

(勉強自体は、公立に向けて完璧だったから…大丈夫、私立はこんな体調でも普通に受かる…それくらい、あたしは努力してきたもん…うぅ)

帰って休みたいという思いがないわけではなかったが、電車に乗ったことで彼女の中で何かが吹っ切れたようだ。
今はもう、わざわざ帰ろうとは思っていない。

(そうだ、さっさと終わらせちゃえばいいんだ…今のあたしなら、きっとすぐに終わらせられ…)

受験に向けて、具合が悪いながらも自身を奮い立たせようとする。
だが、電車がカーブにさしかかった時、車両ごと体がななめになるとそのまま意識を失いそうになる。

(う、あ…ヤバっ!)

どうにか現実と意識をつなげ、つり革を強く握る。
足元がふらつくのを感じた。

そこへ意識を飛ばし、どうにかしっかり立とうとする。
ここで初めて、彼女は気合いを入れた。

(電車まで乗ったんだから、きっちり受験して帰らなきゃ…! こんな大変な思いしてるんだもん、絶対に合格してやる…!)

体力は尽きかけていたが、気持ちは燃えていた。
そして彼女は、他の受験生たちと一緒に聖クラレンス学院に到着するのだった。


「…おや?」

いつものように準備室にいたトンスケが、何かを感じて反応する。
窓の方を向いて外を見た。

「…?」

だが天気が変わった様子もなく、彼?は首を傾げる。
視線を準備室内に戻すと、綾乃と目が合った。

それと同時に彼女が尋ねてくる。

「どうかしたか?」

「え? いや…なんか、雰囲気が変わったような気がして」

「雰囲気? ああ…到着したんだろうな」

「到着って、何がです?」

「『何』というより、この場合は『誰』と訊く方が正しいぞ、トンスケ。今日は神楽坂たちは休みだが、別の連中がこの学校に押し寄せてくる日なんだ」

「別の連中…ですか」

「そうだ。ちょっと前に話しただろう、神楽坂にもうすぐ後輩ができると」

「ああ…!」

トンスケはここでようやく気づく。
興味津々という口調で、綾乃にこう続けた。

「ということは、ここを受験する子たちがやってきたということですか」

「その通り。4月から入学してくるかもしれない連中が、今ドッと押し寄せているんだ」

「前は大学受験の話をしてましたけど…そうですよね、大学受験があるなら高校受験もありますよね」

「うむ。まあ、私は別に試験監督を頼まれたわけでもないから、いつものようにここでダラダラしていてもいいのだが…」

「…その口調だと、また何か企んでますね? 先生」

「フフッ。人聞きの悪いことを言うな、トンスケ…私は何も『企んで』などいない。少々『考えて』いるだけのことだ」

「先生の場合は、その『考え』っていうのが立派な『企み』になっちゃってるんですけどね」

「…トンスケ、最近お前も神楽坂と同じくツッコミがキツいぞ。もうちょっと私をいたわれ」

「そうしたいのはやまやまなんですが…先生を甘やかしちゃうと、とんでもないトコまでエスカレートしちゃうじゃないですか。だからいたわれないんです」

「この私に、自業自得と言いたいのか。お前は」

「違うっていうきっちりした証拠があるんなら、僕もこういうことは言いませんが…」

「フン…私に弁明する証拠を探せというのか。まっぴらゴメンだな」

「だったら、我慢してください」

「うぬぅ…何か納得いかんな…」

冷静なトンスケの返しに、綾乃は下唇を噛む。
だがすぐに悔しがるのをやめ、まだ湯気の立っているコーヒーを飲んだ。

「で、私が考えていることだが…」

「あれだけ言われても心折れませんか、先生。さすがです」

「フン、私をただの女だと思うな。で、私はこれからだな…」

「ダメですよ、受験生を見に行こうっていうんでしょう? 時間見てくださいよ」

トンスケは時計を指差す。
彼?が「雰囲気が変わった」と感じてから、まだ10分とたっていない。

「先生が言ったんですよ、受験生たちが到着したんだろうなって」

「私はそんなこと言ってないぞ。到着したんだろうなというのと、今日がどういう日か説明しただけだ」

「それをくっつけたら『受験生たちが到着した』って話になるじゃないですか。わざと話を転がすのはやめてくださいよ」

「はっはっは、悪い悪い。私は性格がひん曲がっているのでな、話をこねくり回すのが好きなのだ」

「胸張って言うことじゃないですって。…で、先生はこれからその受験生たちを見に行こうとしてたんですよね?」

「ああ、そうだ。神楽坂以上に幼く、それでいて大人になるということへの願望が強い女子中学生たちがわんさかいるんだぞ。このチャンスを逃す手はないだろうが」

「ないだろうが、じゃないですよ。その子たちは受験に来てるんですから…先生の相手なんてしてられないですよ。必死なんですから」

「それはそうだが…チラッと見てみたくなったんだ。だから私は行ってくるぞ」

「あっ、先生! ダメですって!」

綾乃はもう席を立ち、準備室を出て行こうとしていた。
相変わらず行動が速い彼女を、トンスケは止めようとする。

だが、腕をつかまれても構わずにドアを閉めてしまうような彼女が相手では、トンスケの体がもたない。
ドアに挟まれた衝撃で腕の骨がバラケてしまい、それに同調して全体の骨が砕け散ってしまう。

「なんて骨体(こったい)!」


ぱっかーん!


「ちょっと! もう! せんせーいっ!」

バラケた状態でトンスケは叫ぶ。
しかし綾乃は全く意に介さない。

彼?の体が組み上がる前に、綾乃は生物室を出て行ってしまった。

「ま、マズいなあ…! 先生、優しい時は優しいけど、いつもが無茶ばっかりだからなあ…」

トンスケは、早急に彼女を止めなければならないと感じる。
だがそれがあせりとなって、体が組み上がるのを遅れさせてしまう。

「お、落ち着け…! っていうか、お肉残ってたかな? あれがないと、僕は先生を追いかけられない…!」

綾乃があまり食べないので、冷蔵庫を頻繁に利用ということがない。
それに慣れてしまっているため、肉の在庫が残っているかどうかもとっさには思い出せない。

だが、それもこれもまずは体を組み上げてからの話である。
トンスケもそれをわかってはいるのだが、どうにもすぐには元に戻せない。

「うーっ、くそ! 体を組み立てるのだけは、どうも慣れないな…!」

どうやら、元に戻るにはもう少し時間がかかるようである。
その間にも、綾乃は受験会場となっている教室まで下りてきていた。

「……」

受験生たちが来てからもうかなり時間がたっていたらしく、会場ではもうすでに受験が始まっていた。
綾乃もできるだけ音を立てないように、静かに歩く。

教室の、廊下側の窓ガラスは不透明なすりガラスになっており、綾乃が中の様子を見るということはできない。
だが、その向こうに真剣な受験生たちがいるのは、雰囲気でわかる。

「…」

大学受験ほどではないとはいえ、高校受験も自身の人生を分ける重要なターニングポイントである。
特に、聖クラレンス学院を本命としている者にとっては、今この瞬間は人生で最も重要な時だろう。

「………ひと回りして戻るか」

綾乃は、ここに下りてきてそれを鮮烈に感じた。
興味半分でやってきた部分が大きかったが、どうやらそれは反省したらしい。

受験生たちの緊張感を人生のスパイスとして取り込みつつ、彼女は受験会場となっている教室全てを回った。
その頃には完全に、子どもじみた魔王から教師の顔に戻っていた。

(よし、これで全員分回ってやれたな…受験生たちよ、この魔王の加護のもと、思う存分力を発揮するがよいぞ。はっはっは)

顔は教師に戻っていたが、考えていることはまだ若干子どもじみている部分が残っていたようだ。
しかしこれは単に、彼女の照れ隠しだったのかもしれない。

やがて綾乃は、来た道を戻り始めた。
もちろん受験会場から離れ、生物室へと戻るつもりだったのだが…

この時、ある教室の戸が開く。
中からひとりの女子中学生が現れた。

「あ…」

「…む」

目が合うふたり。
そっと戸を閉める女子中学生に、綾乃は静かに尋ねた。

「なんだ、もう全部やり終わったのか?」

「はい…具合が悪いので、もう切り上げて帰り…」

「お、おい」

思わず綾乃は声をあげる。
女子中学生が、いきなり倒れ込んできたのだ。

彼女は、今回の冒頭に出てきた女子中学生だった。
勉強してきた力を出し切ると同時に、どうやら体力も尽きてしまったらしい。

「…しょうがないな。もう解答が終わってるなら…まあ、問題ないか」

綾乃はそう言って、倒れ込んできた女子中学生をひょいと抱き上げる。
そして迷うことなく保健室に運んだ。

「あら…? その子、どうしたの?」

目を丸くして尋ねてくる奈緒美。
彼女に綾乃はこう説明する。

「受験生らしいんだが、どうやら限界だったらしくてな…私が運良くここまで運んできたんだ」

「まあ…倒れるなんてよっぽどね。ベッドまで運んでもらえる?」

「ああ、わかった」

奈緒美の指示で、女子中学生はベッドへ運ばれた。
呼吸がしやすいようにとマスクを外してやり、しっかりと布団を着せてやる。

「具合悪いのに、がんばったのね。この子」

「まあ、がんばるしかない時期ではあるからな…では、私はこれで」

「あら、もう行っちゃうの? 綾乃ちゃん」

「私たちが話していたら起こしてしまうだろうが。じゃあな」

「はあい。この子のことはわたしが責任もって面倒みるから、心配しないでね」

「ああ、よろしく頼む」

そして綾乃は保健室を出て行った。
しばらく歩くと、白衣を着た男がこちらに向かってやってくるのが見えた。

「…せ、先生。どこ行ってたんですか」

「保健室だが…お前、トンスケか?」

「えっ、よくわかりましたね。肉パワー使ったんですけど」

「お前と私の関係だからな…」

そう言って、綾乃は素早く手を伸ばす。
きっちり閉じられている男の白衣、そのボタンを外した。

「あっ、ちょっと」

白衣の前が開く。
すると、男のヘソから下が骨だけの状態になっていた。

それを見た綾乃は、じっとりとした目で彼?を見る。

「お前、全身に肉を貼り付けないままでよくここまで来たな」

「お肉がちょっとしかなかったので…上半身をカバーするのが精一杯だったんですよ…」

彼?は綾乃の手を払って、白衣の前をボタンで閉じた。
そしてすぐに綾乃の背後に回り、彼女の背中を押す。

「さあ早く、帰りますよ。生物室へ」

「ああ、わかったわかった。わかったから押すな」

「こうでもしなきゃ帰ってくれないじゃないですか、先生は」

「それもそうだな。だが…今日は大人しく帰ってやることにしよう」

そう言って、綾乃はトンスケが押そうと近づいてくる速度よりも、速く歩いていく。
肩透かしをくらった彼?は、不思議そうな顔で彼女に尋ねた。

「なにか…あったんですか?」

「まあな。がんばる中学生たちの邪魔をしないようにしようと思った、というところだ」

「へえ…」

「感心している場合じゃないぞ、トンスケ。もうレースは始まっている」

「えっ? レース?」

「そうだ。ここからできるだけ静かに、しかしできるだけ早く生物室へ戻るレースだ。負けた方は罰ゲームだぞ」

「えっえっ、そんなこといきなり言われても。っていうかレースって! 今は受験中ですよ」

「だから静かに戻るのだ。ほらほら、私は先に行かせてもらうぞ」

ニヤニヤと笑いながら、綾乃は音もなく進んでいく。
それを見たトンスケは、自分も負けていられないとできるだけ静かに、そして速く進もうとするのだが…

綾乃の早歩きにはとうてい追いつけなかった。
みるみる差が開いていくのを見て、トンスケは思わず言う。

「せ、先生、待ってくださいよー」

「フフフ。生物室で待っているぞ、トンスケ。罰ゲームとともにな!」

「ちょ、罰ゲームはホントにカンベンしてください。先生が考える罰ゲームは、シャレにならないんですから…!」

結局、受験当日もふたりはこのような感じで、おおよそ不謹慎に過ごした。
ふたりの会話は受験生の誰にも聞こえることはなく、それは幸いだったといえるかもしれない。


場面は戻り、保健室。
ベッドの上で、あの女子中学生が目覚めた。

「…あ…?」

「あら、起きた?」

「ここは…? あたし…」

「あなた、そうとう無理してたでしょ…帰ろうとして倒れたらしいわよ」

「え…そうなんですか。すいません、ご迷惑かけちゃって…ごほ」

「ほらほら、病人なんだからそんな気をつかわなくていいの。もう少しだけゆっくりしたら、おうちまで送ってあげるから」

「そんな…そこまでご迷惑かけられません」

「気をつかわないでいいの。さっきも言ったけどあなたは病人なんだし、せっかくこの学校を受験してくれたんだもの、イヤな思い出なんて持って帰ってもらいたくないわ」

「は、はあ…」

「とにかく、今はゆっくり休んで。あとで特製の、はちみつレモンティーいれてあげるから。ね?」

「あ、ありがとう…ございます…」

果たして、この女子中学生はこの受験に合格して、さらにこの学校を選ぶことになるのか否か?
それはまた、別の話なのだが…

それはともかくとして、彼女を含めた全ての受験生が望む道へ進めることを祈って、今回は締めさせていただくとしよう。

おつかれさま、受験生。
終わったら、ゆったり羽根を伸ばしてね!

>その24-1へ続く

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2012-02-16 12:00:02

【トン★スケ本編】その23-4 「日常ルーチンリィ」

テーマ:トン★スケ:本編
◇23-4 日常ルーチンリィ◇

2月も半ばを過ぎ、聖クラレンス学院の中はかなり静かになってきた。
春が近づくにつれ、その静けさは増していく。

今日の生物準備室での話題は、どうやらそれが中心らしい。

「そういえば、3年生ってもう学校に来てないんですっけ」

「全員ではないが…受験をしようという者は、学校に来ていないだろうな。もぐ」

「受験かー…今から考えてもアレですけど、気が重いなー…」

「なんだ神楽坂、お前は大学に行くつもりなのか? もぐ」

「っていうか先生…」

ミコはあきれ顔で綾乃を見る。
口をとがらせてこう続けた。

「どうしてひとりでチョコ食べてるんですかっ」

「ん? これは葵から遅れてもらった分だ。それを食べているだけだぞ。もぐ」

「っていうか、先生はみんなからチョコもらったみたいですけど、あたしたちにはくれてないじゃないですか。不公平ですよ」

「私は女というより魔王だから別にいいのだ。はっはっは、もぐ」

「じゃあ…」

ミコの目がギラリと光る。
綾乃をビシッと指差し、こう言った。

「ホワイトデーのお返しは期待してますよ、先生! 俗に言う3倍返しで!」

「なにぃ!?」

綾乃の目が見開かれる。
だがすぐに、ニヤリと笑ってみせた。

「神楽坂…そうか、他の生徒の3倍も私の愛が欲しいということか。当初の計画よりも、ねっとりと楽しませてやらなければならないな…!」

「ちょ、先生…ねっとりとか何言ってるんですか。ホワイトデーのお返しの話をしてるんですっ」

「ああ、ちゃんとお返しは考えてあるぞ。準2での『愛の指導』がお前を待っている。どんな保健体育よりも実践的に、さまざまな愛の形をお前に教えてやろう」

「そういうのはいいです。愛の形とか自分で見つけますから」

ぷいっとそっぽを向くミコ。
だがすぐに笑顔になって、綾乃に提案する。

「無難にマシュマロとかマカロンとか、そういうのでいいですからみんなにくださいね! わいわいお茶会しましょうよ」

「ふむ…ホワイトデーに美少女を集めてお茶会か。それもなかなか悪くないな」

ミコの提案を、綾乃もどうやら気に入ったらしい。
うんうんとうなずきながら、葵からのチョコレートを食べきる。

その後で、チラリとトンスケを見た。

「約1名、女じゃないヤツもいるがな」

「…なんか、そういうこと言われると思いました…」

骨の姿に戻っているトンスケは、肩をすくめながらそう返す。
その後で、自分でいれたコーヒーを飲んだ。

学校もそうだったが、綾乃たちの心の中も静かになっていた。
バレンタインデーにはみやびの告白、昨日は葵の心情を聞くなどと激動の2日間だったが、今日に関しては何もない。

ここ最近降っていた雨もあがり、街はまた寒さに震えていた。
だがそれを話題にするのも、そろそろ飽きがくる。

「…んー…」

ミコは、いつものカフェオレを飲みながら、何か話題を考える。
そういう作業が必要なほどに、今日はゆったりとした放課後だった。

「卒業式って、3月1日でしたっけ」

「ああ、ちょうど2週間後だな。誰かの第2ボタンでももらいに行くか?」

「いえ、そういう予定はないですけど。センパイたち、卒業しちゃうんだなーって思って」

「軽いな、感想が」

「だってー、あたし何もやってないからセンパイ方と一緒にっていうの、ほとんどないんですもん」

「何かやろうというつもりはないのか? 部活とか生徒会…各種委員などなど、やろうと思えば仕事はいくらでもあるぞ」

「えっと、そういうのはあたし、ノーサンキューなんです。ここでゆったりしてるのが一番楽しいですしっ」

「…お前、勝負に燃えるキャラじゃなかったのか?」

「燃えてますよ! 焼きそばパンをゲットすることには!」

「なるほど…それ以外には食指が動かんという具合か。まあ、寒いからな」

「ええ、寒いですもんね。あはは」

ふたりはいろんなことを寒さのせいにして、「ふう」と小さく息を吐いた。
その後で黙り込むと、何かありそうで何もない、とろりとした時間が流れる。

「あ…」

そんな時間の中で、ふとミコが声をあげた。
これは彼女が話題を見つけたサインでもあるので、綾乃はすぐに聞く態勢になる。

「受験っていえば、先生も受験したんですよね?」

「ああ、したぞ。お受験をな」

「えっ、お受験?」

「うむ」

「それって、小学校とかの受験ですよね? 先生もしかして、小さい頃からエリートコースを歩んできたんですか!?」

「いや、ちょっと丁寧に言ってみたかっただけだ。混乱しただろう? ふっふっふ」

「なんなんですかもう…で、受験したんですよね?」

「ああ、もちろんだ。教師として仕事をするためには、どうしても必要なプロセスではあるからな」

「どうでした? 受験、大変でしたよね?」

「まあ、私は天才だったからそれほど苦労はなかったが…つらそうな連中も多かったな。ただ、不思議なことに」

「はい?」

「偏差値が高い、と言われる大学に合格した連中は、このシーズンを結構楽しんでいたようだったぞ。あとから考えるとな」

「えっ…それ、どういうことですか? 受験って地獄ですよね?」

「お前、すごいことをサラッと言うが…全員が全員、地獄の苦しみを味わっていたわけでもないんだ。勉強を『おもしろいもの』に変化させている連中が、何割かはいたな」

「勉強が楽しい…えええ、信じられないです」

「だが実際、『グレードが高い』と言われている大学に進めたのは、そういう連中ばかりだったぞ。もちろん、地獄の苦しみを味わって合格を勝ち取ったヤツもいるにはいたがな」

「へぇ…やっぱり頭がいい人は、勉強に対する考え方も違うってことなんでしょうね」

「いや、それとは逆だな。勉強を『楽しいものにしていった』という方が正しいだろう。頭の方を作り変えるのではなく、学ぶ方法をそういうふうに変えていったのだ」

「変えるって、どういうふうにですか?」

「私にそれを訊くのか? フフッ」

綾乃の目が妖しく輝く。
彼女は両手を開いて、指をうにうにと動かした。

「教えてやってもいいが、それ相応の代価はもらうぞ?」

「だ、代価って…あたし何にも持ってないですよ?」

「いいや、お前は持っている。歌でもあるだろう、『あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ』…この大切なものを代価としよう」

「えっ、なんですかその歌…あたし知らないんですけど」

「なに? この名曲を知らないのか? まあ、私もリアルタイムな世代ではないが…」

「じゃああたしが知らなくても無理ないですね。わからないから差し上げられませーん」

「く…! 神楽坂、お前の最近の反応…だんだんかわいげがなくなってきているぞ」

「いいですよー、かわいくなくて。どうせあたしなんて、バレンタインにチョコをあげる男子もいないくらい枯れちゃってるんですから」

「その肌で枯れてるとか言うな。脱がすぞ」

「もー! いちいちえっちぃ方向に持ってかないでくださいよっ! …で、何の話してたんでしたっけ?」

「ん? あー、えっと…トンスケ、私たちは当初、何の話をしていたか憶えてい…」

「ぐぅ」

「骨のクセに寝るなー!」


げしっ!


「えっ!? あっ! うわあ! なんて骨体(こったい)!」


ぱっかーん!


突然の綾乃の攻撃に、トンスケの体は砕け散る。
その拍子に椅子から転げ落ちた彼?は、綾乃に猛抗議した。

「な、なにするんですかいきなり! コーヒーこぼしたらどうするんです?」

「そう思うんなら話の途中で寝ているんじゃない! 私が攻撃をしかけることくらい、お前ならもうわかっているだろうが!」

「は、はあ…それはわかってますけど」

「じゃあさっさと元に戻れ! そして、私たちが最初なんの話をしていたか、思い出して教えるのだ!」

「えっと…いや、だから、僕は寝てたのでわからないんですが…」

「それでも思い出せ。お前の頭はからっぽか」

「からっぽです」

「うむ、そうだな。見事にからっぽだ…だからといって、許されるものではないぞ?」

「…先生、僕は一体どんな罪を犯したんですか。無理やり話を広げるの、やめてもらっていいですか」

「むぅ…私もそれはわかっているんだが、何しろ今日は静かなものでな…若干退屈なのだ」

綾乃はそう言って、つまらなそうにため息をついた。
そんな彼女に、トンスケはこう言う。

「今日が静かなんじゃなくて、逆にバレンタインまでが波乱万丈だったっていうだけなんじゃないですか? 特に先生は、みなさんからのチョコを楽しみにしてたみたいですし」

「…そうだな、そういえばそうだな」

「なぜか僕までチョコをあげるハメになりましたけど」

「お前も肉パワーでそこそこの美少女になっていたからな。金は私が出してやったんだから、別に文句はないだろう?」

「まあ、それはそうですが…とにかく、先生がバレンタインまではしゃぎすぎてたから、今日みたいな普通の日は静かに感じるんじゃないですか、って話なんですけど」

「…ふむ…燃え尽き症候群か…」

「いや、それとは違うと思いますけどね。イベントから普通に日に戻った落差が大きい、って話じゃないかと」

「だろうな。いや、一応最初からそれはわかっているんだがな、普通に納得してもおもしろくないだろう? だから私なりのセンスで、おもしろおかしくしてやったのだ」

「先生の場合は、どんどん混乱が大きくなりますからほどほどにしといてください。ホントに」

「うむ、まあ…善処しよう。ところで神楽坂」

「え? あ、はい?」

話の途中でいきなり呼ばれたので、ミコは驚きながら返事をする。
そんな彼女に、綾乃はこう尋ねてきた。

「お前…3年生が卒業することばかりに気が行っているようだが」

「ええ、まあ。去年はあたしが卒業しましたし…中学でしたけど」

「4月になれば、お前は2年生になるんだぞ。後輩ができるんだぞ」

「…あ!」

大きく開いたミコの口。
それを右手で覆う。

だがすぐに、口から手を離して机をポンと叩いた。
開いたままの口で、ミコは興奮気味に話し始める。

「そうですよね…! あたし『が』センパイになるんですよね!」

「そうだぞ。お前にかわいい後輩ができるわけだ…つまり、私の獲物も増えようというもの」

「あたし、先生の毒牙から後輩たちを守らないといけないんですよね! そうでした…完ッ全に忘れてました!」

「おい神楽坂、私の毒牙とは何事だ。私はただ、ウブで何も知らない美少女を、言葉巧みにだまくらかしてえっちぃことをしちゃおうかなと…」

「そういうのを毒牙っていうんですよ先生! 絶対ダメです! あたしがかわいい後輩ちゃんを守るんですから!」

「なにー! くそ、いらんことを教えてしまった…ただでさえ最近は助手らしいことを何もしない神楽坂に、このままでは反逆されるばかりだぞ…」

「助手っていっても、あたしが手伝うのは実験だけですもん! そんなえっちぃことは手伝いません!」

「…フフフ」

「!?」

強い言葉で反撃したというのに、綾乃はニヤリと笑っている。
ミコは、彼女の雰囲気に何かを感じた。

「な、なんですか先生…あたしがここまで言ったら、いつもならもうちょっと悔しがるとかなんか…違う反応になるはずじゃないですか」

「フフッ、神楽坂…お前は大事なことを忘れている」

「大事なこと…?」

「そうだ。意図して忘れているのかもしれんがな、フッフッフ…」

「意図して忘れてることなんて、あたしにはありません!」

「じゃあ教えてやろう。お前は確かに、4月になれば2年生になる。しかし…」

「…しかし?」

「今はまだ2月。3月にさえなっていない」

「そ、それがどうしたんですかっ!」

「まあ聞け…3月には3年生の卒業式や、お前たちの終業式がある。だがその前に、まだ重要なイベントが残っているんだぞ」

「重要なイベント? ホワイトデーですか? あ、ひなまつりかな?」

「そのどちらでもないぞ、神楽坂…そろそろ思い出してきたんじゃないのか」

「え? い、いえ? そんなこと、全然ないですよ! えっとー、なにかなー?」

「3学期の…」

「…」

「期末テストだ!」

「あーあーあー、聞こえない聞こえなーい!」

ミコは、文字通り耳をふさいだ。
両手で耳をふさぐのに加え、自ら声を出して綾乃の言葉をかき消そうとする。

しかし、それでも綾乃の言葉は続いた。
ミコも一度意識させられたせいで、彼女が何を言っているのか大体わかってしまう。

「中間テストは、あの悪名高き実力テストのおかげでなくなっているが、期末はきっちりあるんだぞ、神楽坂。1、2学期より範囲も内容も比較的ゆるめだが、それでもテストはテスト」

「な、ななななに言ってるのかなっ? せーんせぇ? あたしには全然、ぜぇーんぜん、じぇーんじぇーん聞こえないですっふふぅ!」

「覚悟しておくことだな…これを越えることができなければ、お前は春休みをエンジョイできないまま進級することとなる!」

「はいはーい? なんですかぁ? なんですかねー? 先生がなに言ってるのか、全然わっからないですよあたしー?」

「後輩たちと余裕をもってふれあいたければ、今から死ぬ気でがんばることだな…フッフッフ、ハッハッハ、ハァーッハッハッハ!」

「…おふたりとも…なんか、賑やかですね…」

両手で耳をふさぎ、やたら大きな声で「聞こえない」というミコ。
そんな彼女に構わず、期末テストがあることを伝え続ける綾乃。

トンスケは、ふたりの様子を見ながら苦笑した。
と同時に、このふたりがいると「普通に戻った日々」もにぎやかに過ごせることを再確認する。

「聞こえない、聞こえなーい!」

「ハッハッハ、ハァーッハッハッハ!」

ふたりの声が、やかましく響く準備室。
トンスケはそれを聞きながら、夜になるのが少しずつ遅くなっているのを、窓の外を見ながら感じるのだった。

>23-5へ続く

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2012-02-15 12:00:02

【トン★スケ本編】その23-3 「秘密ホリホック」

テーマ:トン★スケ:本編
◇23-3 秘密ホリホック◇

それから一夜明け…翌日の朝。
ミコとひよりは、一緒に学校へと向かう。

勢いは弱くなったが、今日も雨模様である。
だが寒さが和らいだため、ふたりは寒さに支配されずに昨日のことを話すことができた。

「…なんかさー、昨日の夜とか考えてみたんだけど」

「うん」

「綾小路さん、やっぱすごいなーって思って」

感心した様子で、ひよりはそう言った。
何がすごいのかをミコが尋ねると、彼女は興奮した口調で返してくる。

「だってさ、王子の最後の握手まで断ってたじゃない? あれはすごいなって思ってさ…あたしだったら普通に握手して、それできっぱり終わりにするかなーって思って」

「あー、それはあたしもそうかも。ずっとずーっと好きで、やっと忘れて、でも思い出させられて…って流れもあったし、最後くらいはきちっと握手で終わりたいなっていうか」

「うんうん。でさ…」

ひよりはなぜかひそひそ声になる。
それに呼応してミコが彼女に近づくが、傘があるために密着することはできない。

その代わりなのか、若干ふたりは前かがみになりながら、ひそひそ話をスタートさせる。
先手はひより。

「あたしさっき、普通に握手って言ったけど…場所が場所なら、握手じゃすまないかなーとかちょっと思っちゃったりして」

「えっ? どういうこと?」

「さっきミコも言ってたけどさ、すっごく好きな人で『好きな期間』も長いわけじゃない? もし家とかであんな話になってたら、握手じゃすまなかったかもなー、なんて」

「えっ…じゃあ、ぴーちゃんの場合だと抱きついちゃったり?」

「それでも…すまないかも」

「えー!? そうなの? ぴーちゃんって結構、すがる方?」

「そりゃ、その時になってみないとわかんないけど…あたしさ、綾小路さんが一生懸命突っ張ってるの見て、自分には絶対にできないって思ったからさ…」

「あ、うーん…そうだね、あそこまでカッコよくっていうのは、あたしも無理かもなぁ…だって『本当に、本当にすき』っていうのがすっごい伝わってきたもん」

「でしょ? あたし、自分が軽いって思ったことはないけど、もしその勢いで『最後にチューさせて』って言われたら、もしかしたら許す気がしなくもないんだ」

「チュー…は、あたしは無理かも…」

「だってさ、告白しちゃったらもう戻れないんだよ? かわいい笑顔もこっちに向けてもらえなくなるし、それまでは手をつないでてもおかしくなかったのに、もう二度と触れなくなるって思ったらさ…」

「えっ、もしかしてぴーちゃん」

「んー、チューでもすまないかもしんないなー、あたし。まあ、そんな相手がまずいないんだけどさ。あはは」

ひよりは笑ってみせる。
だがミコは逆に、神妙な表情で彼女にこう言った。

「意外だなあ、ぴーちゃんがそこまでいろいろ考えてたなんて」

「そりゃー、あんな告白の現場を目の当たりにしたらさー、いやでも考えるって。みんながいたからあたしも普通にしてられたけど、綾小路さんとふたりだけだったら」

「だったら?」

「あたし、一緒に泣いてただろうなって思うもん」

「…うん、それはあたしもそうかも」

「だよね? 綾小路さんがさ、先生にくっついて泣いてたからまだ大丈夫だったけど、ふたりだけだったら無理だよ絶対。綾小路さん、ホントしんどかったと思う」

「うん…そうだよね」

「だからさ、今日もちょっと様子見に行ってみようよ。トン子ちゃんもつれてさ」

「トン子ちゃん? ああ…(トンスケのことね)」

ミコは女子生徒型トンスケを思い出し、うんうんとうなずいてみせる。
だがふと、ひよりはミコに向かってこう尋ねた。

「そーいやあの子、クラスどこなんだろ? ミコは知ってる?」

「え? ううん…」

「っていうか、どういう知り合いなんだっけ? ミコと先生は親しいみたいだけど」

「え、えっとね…なんだろ、その…」

「…?」

「あ、あのね! 前にさ、ゴミ捨てに行った時に、あたしゴミひっくり返しちゃってさ、その時に助けてもらってから仲良くなったっていうか、あはは!」

「でもその割には、あの子…ミコのこと『さん付け』で呼んでるよね?」

「そ、そーいう口ぐせの子なんだよー! 別にさ、あの子のことは今はいーじゃない、あははっ、あははははは!」

「いや、まあ…いいっちゃいいんだけどね。うーん…?」

どうにも、女子生徒型トンスケがどういう存在なのかわからないひより。
ミコはそれを力いっぱい笑いでごまかしながら、今日も学校へと向かうのだった。


そして放課後。
生物準備室には、珍しく葵と綾乃のふたりきりである。

ミコとひより、そしてトンスケはみやびのところへ行っていた。
そのおかげでうまく人払いができた、という格好になっていた。

「…ほら、飲むといい」

「ありがとう、ございます…」

綾乃からコーヒーをいれてもらい、葵は素直にそれを受け取った。
だがまだ熱くて飲めそうにはない。

そのため、彼女はそれを一度机に置いた。
そしてため息をつく。

「…私としたことが…」

「ん?」

綾乃は自分のコーヒーを飲みながら、チラリと葵を見る。
うつむきがちなくノ一少女は、苦しそうな表情を浮かべている。

「お嬢さまの警護を怠って、ここに来ているなど…!」

「綾小路の警護は、お前ひとりの仕事じゃないだろう。たまには藤にも前面に出てこさせろ」

「…えっ」

葵は思わず顔を上げる。
不思議そうな顔で綾乃にこう尋ねた。

「姉が前面に出てきていないことを、どうして先生が知っているんですか」

「バレンタイン前後で綾小路と一緒にいたが、その間お前しか見ていないからな。大方、頭としての仕事に追われているというところなんだろう?」

「ええ、まあ…今や綾小路家を護る者のトップは姉ですから…最近は、あまり現場に出てくることはありません」

「だから、たまには現場の空気を吸わせてやれと言っている。もともとお前と同じたたき上げなんだろうし、そういう人種には気分転換が必要だからな」

「…はあ…」

「だから藤も、お前がここに来ることには何も言わなかったはずだぞ」

「……」

葵は答えない。
だが、ぷいっと横を向く仕草を見れば、おのずとその答えはわかるというものだろう。

そんな彼女の仕草に綾乃は微笑んだ。
その後で話を変える。

「さて…神楽坂たちは今、綾小路のところへ行っている。だがあいつらは私ほど図々しくはないから、恐らくお前が思っているよりも早く…ここに戻ってくるぞ」

「…」

「…話すなら今のうちだ。恐らくお前の場合は、綾小路よりかは特殊な事情だろうからな」

「なぜ…わかったんですか」

「簡単なことだ。そういうヤツが身近にいたからな…そして、しばらくは一緒に住んでさえいた」

「…水無月先生ですか」

「その通りだ。まあ、お前は奈緒美より5千倍は身持ちが固いがな」

「5千という数字は、一体どこから来たんですか」

「そんなもの、なんとなくだ。はっはっは」

綾乃は明るく笑ってみせる。
だが、葵がそれにつられることはない。

彼女もそれをわかっていたのか、すぐに笑うのをやめる。
そして少し声のトーンを落としてこう言った。

「護るだけでは…飽き足らないか?」

「…飽きるとか足りるとか、そういう問題ではありません」

「それはそうだ。護ると好きというのは、全く別の話だからな。そうだろう?」

「…」

「こういう時は、素直に答えた方がいい方向に行くものだと思うぞ」

「いい方向に行くことなど、私は望んでいない…それに」

「それに?」

「お伝えしたところで…お嬢さまを困らせてしまうだけ」

「…そうかもしれないな」

綾乃はやけにはっきりと言う。
その言葉に、葵はまたうつむきがちになる。

「…わかっています、私が異常だということくらいは。だから私はずっと我慢してきたし、これからも我慢するだけのことです」

「我慢ばかりだと体によくないぞ。とはいえ…」

綾乃はここでため息をつく。
そうしながら、椅子の背もたれを利用して体を反らせた。

天井を見上げながら言う。

「警護する者、という身分の都合上…綾小路本人に言うわけにもいかん、か」

「…」

「そういう意味では、奈緒美はもっとオープンだったな。外でも家でも、『綾乃ちゃーん綾乃ちゃーん』と言っては私にくっつき、ベッドに潜り込み、寝込みを襲おうとした」

「…!」

綾乃の話に、葵の顔が真っ赤に染まる。
その上でまたそっぽを向いた。

綾乃はまだ天井を向いたままなので、そんな葵の行動が見えていない。
感じてはいるかもしれないが、そのまま言葉を続ける。

「だがアイツも、もとはお前のようなつっけんどんなヤツだったのだから、人の性格というのは面白いな」

「え…?」

「私が一度、コテンパンにのしてやってからだぞ。奈緒美の性格があんなふうになったのは」

そう言って、綾乃はのけぞり状態から体を真っ直ぐに戻す。
首を左右に倒し、パキポキと鳴らした。

「だがお前の場合は、綾小路にコテンパンにされてデレたところで問題が解決するわけではない…むしろもっとひどくなるから厄介だな」

「…では…どうしろというのですか。私は、先生がその方法を知っているかもしれないと思ったから、ここに来たわけで…」

「そうだな。私も『方法を知っているような言い方』でお前をここに誘ったわけだが」

ずずず、とコーヒーをすする。
その後で、カップを机に置きながら綾乃は続ける。

「実を言うと、どうしたらいいものかは私にもわからん」

「…やはり」

「だが、こうして話す時間は無駄ではないと思うがな」

「…」

葵は黙り込むが、小さくうなずきは返してきた。
彼女としても、全くの無駄だとは思っていないようである。

「少しだけ…気が楽では、あります」

「だったら、意味はあるということだな。感謝しろよ、葵」

「…はい」

「はっはっは」

葵の素直な返事に、綾乃は笑ってみせた。
その笑い声を聞きながら、葵は少し冷めたコーヒーを飲む。

「…ふう」

そして息を吐いた。
カップを机に置き、ゆっくりとしゃべり始める。

「実のところ…こうして話せる場を用意していただいた先生には、感謝しています。お嬢さまへの想いでパンクしそうだったのは、まぎれもなく本当のことでしたから」

「…うむ」

「ですが、昨日の…隼人さまへのお嬢さまの態度を見て、私の中でも何かが変わった気がします。こうして話ができるくらいには、心が落ち着いてきたように思います」

「そうか。…確かにあれは、その場にいる誰にとっても大事件ではあったな」

「…」

葵は、じっと綾乃の目を見る。
そうしながらこう尋ねた。

「大事件というのは…先生にとっても、ですか?」

「そうだな。綾小路のあんな一面を見たという意味では、私にとっても大事件だった」

「そうですか…だったら、私の心が落ち着いてきたというのも、案外不思議ではないのかもしれませんね」

「ああ。それにお前の場合は、女全てが恋愛対象というわけでもないだろう? 綾小路だけが、女の中で唯一の恋愛対象なんじゃないのか?」

「…恐らく、そうだろうと思います」

「だったらなおさら、無理に解決させようとは考えずに、たまにここに来てゆっくりと話す程度にした方がよさそうだな。えーっと…」

綾乃はそう言いながら、壁にかかっているカレンダーを見る。
だが日めくりなので、先の日付はわからない。

そのため、机に置かれている卓上カレンダーへと視線を移した。
指で日付をなぞっていく。

「もうすぐ期末と春休みだが…まあ平日でも、夜なら神楽坂も家に帰っているし、綾小路が夜遊びをしているのは聞いたことがないから、お前も行動しやすいだろう」

「…はい」

「私にも都合があるから、毎日OKとは言えないが…週に一度くらいは時間を作ってやらんこともない」

「ありがとうございます。恐らく私の方も、毎週というわけにはいかないと思いますので…また折を見て来させていただきます」

「ああ。…なんだ、ただ話すだけでも無駄ではないと言ったあたりから、やけに素直になったじゃないか」

「いや、なんだか…異常なら異常で、すぐさま治療しないといけないわけでもない、と言ってもらえたようが気がしたんです。それでまた少し、気持ちが楽になったというか」

葵はそう言って、照れ臭そうに顔を赤らめる。
美少女にふさわしいかわいらしさに、綾乃も自然と笑顔になる。

その上で彼女はこう告げた。

「私は、お前の問題に対してアドバイスはできん。もしそれを求めるようなら、奈緒美のもとを訪ねてみるといい。もちろん、アドバイスなしで話を聞いてもらうだけでも、アイツが相手ならまったりできることは間違いないだろう」

「はい」

「そこらへんはお前が自分で使い分けろ。世間には敵も多いだろうが、少なくとも私たちは味方になれる。そのことを忘れないようにな」

「はい」

「…あと」

綾乃は机の引き出しを開けて、何やら色がついた紙を取り出す。
葵は目を丸くしていたが、それがやがて包装紙であることに気づいた。

「なんですか? その包装紙は…」

「これはな、チョコレートを包んでいた紙たちだ」

「なぜ…それを引き出しの中に?」

「お前にこうして見せるためだ」

「…?」

葵には意味がわからない。
と、綾乃が突然目をカッと見開いてこう言った。

「昨日は何の日だ、葵」

「えっ…バレンタインデー、じゃないんですか?」

「そうだ、その通りだ。そしてバレンタインといえば?」

「チョコレート…」

「その通り! 昨日は私を含め5人の女たちがいた。最近は女が女にチョコを贈るというのもよくある話」

「はあ」

「だが約1名! まだ私にチョコを贈ってきていない不届き者がいるッ!」

綾乃はそう言って、包装紙を机に置く。
その上に手を叩き付けた。

そしてビシッと葵を指差す。

「それがお前だ、葵!」

「!?」

「ちょうど今日はバレンタイン用のチョコが売れ残る日でもある! 早々に買って私によこすのだ!」

「は、はあ…」

「ふふふ、それでいい。バレンタイン用のチョコは上質なものが多いからな、食欲に縁がない私でも食べたくなるのだ。では、行け!」

「い、今からですか?」

「そうだ、すぐにだ! もう放課後なんだぞ、上質チョコが売り切れてしまうだろうが!」

「いや、もうすでに売り切れているでしょうし、そうでなくとも処分されていると思うんですが…」

「だったらお前が作ってこい! 私はもうちょっとだけ、上質なチョコが食べたいのだ! 食べたいったら食べたいのだ!」

「こ、子どもですか、先生…」

「そうだ子どもだ! 私は三十路だが、いろいろ四捨五入したら3歳児になるのだ! さあ、わかったら作ってこーい!」

「い、意味がわかりませんが…わ、わかりました」

結局、葵は綾乃の勢いに押し切られて生物室を出ることとなった。
何がなんでもチョコを食わせろという綾乃に、首を傾げる葵だったが…

「…ふふっ」

そのむちゃくちゃさがなぜかおもしろく、笑顔がこぼれた。
彼女は、自分の感情がやわらかさを取り戻したことを感じながら、まずはみやびの警護へと戻り…仕事の後でチョコレートを手作りするのだった。


さて、それはそうと昨日はバレンタインデー。
お嬢さまたちにチョコをもらってウハウハになる予定だ! とのたまっていた男子生徒たちは…

「バレンタイン? は? なにそれ?」

「どっかの外人さん? いや、全然知らねーし。ホント知らねーしィ!」

「しくしく…」

「しくしくしく…」

結局、涙に濡れることとなった。
彼らは現実を知ることになったのだが…また来年、夢を見ることになるだろう。

男とは、いつでも果てしない夢を見る。
そういう生き物なのだから。

>23-4へ続く

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