米国の時事週刊誌タイムの記者が数年前、モンゴルのゴビ砂漠を取材中に、車が砂に埋まってしまい動けなくなった。記者は遠く離れたゲル(モンゴル人の移動式住居)まで助けを求めに行った。すると、ゲルの主人は「今、テレビで『宮廷女官チャングムの誓い』を見ているから、あと30分待ってほしい」と話したという。
ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』は、2007年にイランで視聴率90%をマークした。また、2年前にチュニジアを訪れたときには、道で若者から「韓国の『チャングム』は最高」と言って握手を求められたこともある。
インドの北東部にナガランド州という地域がある。ミャンマーに隣接する山岳地帯で、コルカタから飛行機で2時間、そこからジープに乗りジャングルを2時間半ほど走ったところにある奥地だ。ここで08年に「韓国ミュージックフェスティバル」が開催された。予選を勝ち抜いた9人が、1万人の観客の前で韓国の歌を熱唱した。韓国の歌手ilac(一楽)がステージに上がると、少女たちは絶叫した。さらに、地球の裏側チリでは、東方神起や少女時代をはじめとする韓国アイドルグループのファンクラブが、50以上も設立されている。
「韓流」は、東アジアや東南アジアはもちろん、中央アジアや中東、中南米、東欧にまで幅広く広まっている。その中で台湾は、地理的に韓国に近いにもかかわらず、韓流の進出がやや出遅れた。台湾では、日本の大衆文化の人気が高かったからだ。
その台湾に2000年代初め、ドラマ『火の鳥』とシチュエーション・コメディー『順風産婦人科』が上陸した。それまで台湾の人々は、韓国について「戦後の立ち遅れたイメージ」しか抱いていなかったが、韓国ドラマを見るにつれその考えが変わり始めた。そして、03年に『宮廷女官チャングムの誓い』が放送されると、韓流ブームに火が付いた。
昨年の広州アジア大会で台湾のテコンドー選手が失格処分を受けた際、台湾中で反韓感情が高まったが、それでも台湾の韓流ブームは冷めやらず、韓国ドラマの専門チャンネルは5つもある。このうち三大ドラマチャンネルといわれるのがGTV、東森、緯来だ。これらのチャンネルは平日、ほぼ一日中韓国ドラマを放送しているが、休日にはゴールデンタイムを除いて台湾ドラマを放送している。これは、「自国で制作された番組が20%以上なければならない」という法規があるからだ。
台湾の与野党議員らが一昨日、「自国番組の比率」の下限を40%に引き上げる改正案を議会に提出した。台湾政府の関係者もこの案を支持しており、可決する見込みだという。
今や韓国ドラマをけん制しようという動きが起こり、法的に韓流を阻止する国まで現れるとは、韓国の大衆文化のパワーも見事なものだ。だが、こういう時こそ謙虚な姿勢を忘れず、韓流商品の多様化や品質の強化を図り、膨れ上がった価格からバブルの部分を削る努力が必要だ。=呉太鎮(オ・テジン)首席論説委員